ア 『プロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利範囲については,一般に,特許請求の範囲が製造方法により限定されたものであっても,特許の対象を当該製造方法によって製造された物に限定して解釈する必然はなく,これと製造方法は異なるが,物として同一である物も含まれる。すなわち,当該発明の技術的範囲は,請求項に記載された製造方法によって限定されるものではないと解される。』
イ 『プロダクト・バイ・プロセス・クレームにつき,裁判例において,「事案に応じて」製造方法を考慮しているのは,請求項に規定された物の構成の特定のために製造方法を考慮することが不可欠な事案についてのものであり,物の構成の特定の必要性を離れて,出願経過や明細書の記載から製造方法を考慮しているものではない。また,製造方法が考慮されるとしても,それは,物の構成を特定する手段として製造方法の記載を借用するものであり,物の特許の権利範囲を製造方法によって限定しているわけではない。加えて,物の特許と製造方法の特許の峻別が特許法の根本をなす法原則である以上,製造方法が特許の対象である物の特定に何ら貢献していないのであれば,文言として記載された製造方法を,権利範囲の確定はもちろんのこと,特許の有効性判断における発明の要旨認定の際にも,考慮する必要はない。』
ウ 『化合物として公知であるが,不純物が極めて低減されたという意味で新規な物質は,当該物質の獲得の困難性又は当該物質が顕著な効果を有することのいずれかがあれば,新規性・進歩性が認められる。そのため,出願過程においても,このような発明について,その新規性・進歩性を主張しようとすれば,物質獲得の困難性,すなわち,不純物が極めて低減された物の製造方法の新しさに言及せざるを得ない。
したがって,出願過程や明細書で製造方法に言及したことをもって,製造方法部分の特徴を殊更に主張したものであるとして,それにより権利範囲が製造方法に限定されるという被告の主張は,不当である。』
エ 『特許発明の要旨認定及び特許発明の権利範囲の確定は,いずれも特許法70条が規定するとおり,特許請求の範囲の記載及び明細書の記載に基づいて行われるのであるから,両者が整合するのが当然である。
さらに,被告の主張は,同一の特許権について,侵害論では権利範囲を限定して非侵害となる確率を高め,無効論では限定解釈を取らず,無効となる確率を高めようとするもので,特許権の保護の観点からは,極めて公平性を欠く。』
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ア 『プロダクト・バイ・プロセス・クレームにつき,大半の判決例においては,当該事案に即して,プロセス部分を考慮した上で,特許発明の権利範囲を確定している。そして,プロダクト・バイ・プロセス・クレームは,新規物質ではあるが,その構造・組成が不明で製造方法によって限定する形式によらなければ,発明を適切に特定することができない場合等について,例外的に認められるのが原則である。
しかしながら,プラバスタチンナトリウムは,本件各発明の方法によることなく既に得られていた公知の物質であり,その構造式も明らかで,製造方法によって限定する形式によらなければ発明を特定することができない場合ではない。それにもかかわらず,本件においては,出願人である原告が,出願過程において,拒絶査定を受けて,当初は出願の対象としていた物のみを記載する請求項をすべて削除し,また,製造方法が公知技術の製造方法とは異なることをもってその特徴であると主張して,その結果,登録がされた経過がある(乙3の1ないし18)。そうである以上,本件各発明の技術的範囲の解釈に当たっては,そのプロセス部分を除外すべきではない。
また,本件明細書には,「本発明の方法の実施で単離されるプラバスタチンナトリウムは,プラバスタチンラクトン及びエピプラバを実質的に含まない。」(【0031】),「本発明の方法によって製造される高度に純粋なプラバスタチンナトリウムは,好ましくは高コレステロール血症の治療に有用であり」(【0032】)と記載され,本件各発明の特徴は製造方法にあることが記載されている。
したがって,本件各発明については,プロセス部分を考慮して,その技術的範囲を認定すべき事情があることが明らかである。』
イ 『本件各発明の構成の特定のために「製造方法」を考慮する必要がないのであれば,クレーム中の製造方法の記載は不要なはずであり,出願人においてわざわざこれを記載したのは,本件各発明の特定のためであり,かつ,製造方法部分なくしては,本件各発明の新規性,進歩性が認められないものであったからである。』
ウ 『現に,原告は,本件各発明につき,その製造方法に特徴があることを出願過程において主張しているのであるから,製造方法部分を無視して技術的範囲を特定することができるとする原告の主張は,禁反言の原則に反する。』
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