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発行日 :平成24年 1月
発行NO:No28
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【2】論説〜知的財産と刑事法 −親告罪−〜
1 親告罪となる知的財産刑事法
1.1 いわゆる知財4権法と著作権法,不正競争防止法
いわゆる,特許法,実用新案法,意匠法,商標法の知財4権と著作権法,不正競争防止法では,刑事事件においては,かなり大きな違いが出ます。
まず,該当条文を挙げておきます。
1.2 特許法
(秘密保持命令)
第百五条の四 裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、その当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法 (平成五年法律第四十七号)第二条第六項 に規定する営業秘密をいう。以下同じ。)について、次に掲げる事由のいずれにも該当することにつき疎明があつた場合には、当事者の申立てにより、決定で、当事者等、訴訟代理人又は補佐人に対し、当該営業秘密を当該訴訟の追行の目的以外の目的で使用し、又は当該営業秘密に係るこの項の規定による命令を受けた者以外の者に開示してはならない旨を命ずることができる。ただし、その申立ての時までに当事者等、訴訟代理人又は補佐人が第一号に規定する準備書面の閲読又は同号に規定する証拠の取調べ若しくは開示以外の方法により当該営業秘密を取得し、又は保有していた場合は、この限りでない。
一 既に提出され若しくは提出されるべき準備書面に当事者の保有する営業秘密が記載され、又は既に取り調べられ若しくは取り調べられるべき証拠(第百五条第三項の規定により開示された書類又は第百五条の七第四項の規定により開示された書面を含む。)の内容に当事者の保有する営業秘密が含まれること。
二 前号の営業秘密が当該訴訟の追行の目的以外の目的で使用され、又は当該営業秘密が開示されることにより、当該営業秘密に基づく当事者の事業活動に支障を生ずるおそれがあり、これを防止するため当該営業秘密の使用又は開示を制限する必要があること。
2 前項の規定による命令(以下「秘密保持命令」という。)の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面でしなければならない。
一 秘密保持命令を受けるべき者
二 秘密保持命令の対象となるべき営業秘密を特定するに足りる事実
三 前項各号に掲げる事由に該当する事実
3 秘密保持命令が発せられた場合には、その決定書を秘密保持命令を受けた者に送達しなければならない。
4 秘密保持命令は、秘密保持命令を受けた者に対する決定書の送達がされた時から、効力を生ずる。
5 秘密保持命令の申立てを却下した裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
長く引用しましたが,他の法律にも引用される重要な条文です。秘密保持命令の規定です。
(秘密保持命令違反の罪)
第二百条の二 秘密保持命令に違反した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
この2項の規定が親告罪であることを示す規定です。侵害罪等は,この規定がありませんので,非親告罪となります。
1.3 実用新案法
(秘密保持命令違反の罪)
第六十条の二 第三十条において準用する特許法第百五条の四第一項の規定による命令に違反した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
特許法の秘密保持命令に関する規定が引用されています。実用新案は,通常,小発明ともいわれ軽視されることもありますが,その内容・権利の強さは多様であり,実用新案権でもいわゆる「強い権利」となることももちろんあります。そのため,法定刑も,特許のそれと一緒になっています。
1.4 意匠法
(秘密保持命令違反の罪)
第七十三条の二 第四十一条において準用する特許法第百五条の四第一項 の規定による命令に違反した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
1.5 商標法
(秘密保持命令違反の罪)
第八十一条の二 第三十九条において準用する特許法第百五条の四第一項 の規定(第十三条の二第五項において準用する場合を含む。)による命令に違反した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
1.6 著作権法
第百二十三条 第百十九条、第百二十条の二第三号及び第四号、第百二十一条の二並びに前条第一項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 無名又は変名の著作物の発行者は、その著作物に係る前項の罪について告訴をすることができる。ただし、第百十八条第一項ただし書に規定する場合及び当該告訴が著作者の明示した意思に反する場合は、この限りでない。
長くなるので引用しませんでしたが,特許法等と比較して,親告罪となる範囲がかなり広いということになります。
1.7 不正競争防止法
第二十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、詐欺等行為(人を欺き、人に暴行を加え、又は人を脅迫する行為をいう。以下この条において同じ。)又は管理侵害行為(財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律 (平成十一年法律第百二十八号)第三条 に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の保有者の管理を害する行為をいう。以下この条において同じ。)により、営業秘密を取得した者
二 詐欺等行為又は管理侵害行為により取得した営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、使用し、又は開示した者
三 営業秘密を保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得した者
イ 営業秘密記録媒体等(営業秘密が記載され、又は記録された文書、図画又は記録媒体をいう。以下この号において同じ。)又は営業秘密が化体された物件を横領すること。
ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。
ハ 営業秘密記録媒体等の記載又は記録であって、消去すべきものを消去せず、かつ、当該記載又は記録を消去したように仮装すること。
四 営業秘密を保有者から示された者であって、その営業秘密の管理に係る任務に背いて前号イからハまでに掲げる方法により領得した営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、使用し、又は開示した者
五 営業秘密を保有者から示されたその役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。次号において同じ。)又は従業者であって、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、その営業秘密を使用し、又は開示した者(前号に掲げる者を除く。)
六 営業秘密を保有者から示されたその役員又は従業者であった者であって、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その在職中に、その営業秘密の管理に係る任務に背いてその営業秘密の開示の申込みをし、又はその営業秘密の使用若しくは開示について請託を受けて、その営業秘密をその職を退いた後に使用し、又は開示した者(第四号に掲げる者を除く。)
七 不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、第二号又は前三号の罪に当たる開示によって営業秘密を取得して、その営業秘密を使用し、又は開示した者
2 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 不正の目的をもって第二条第一項第一号又は第十三号に掲げる不正競争を行った者
二 他人の著名な商品等表示に係る信用若しくは名声を利用して不正の利益を得る目的で、又は当該信用若しくは名声を害する目的で第二条第一項第二号に掲げる不正競争を行った者
三 不正の利益を得る目的で第二条第一項第三号に掲げる不正競争を行った者
四 不正の利益を得る目的で、又は営業上技術的制限手段を用いている者に損害を加える目的で、第二条第一項第十号又は第十一号に掲げる不正競争を行った者
五 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量又はその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような虚偽の表示をした者(第一号に掲げる者を除く。)
六 秘密保持命令に違反した者
七 第十六条、第十七条又は第十八条第一項の規定に違反した者
3 第一項及び前項第六号の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
不正競争防止法の刑罰規定は,かなり複雑ですが,条文を順に追っていけば足ります。2項の罪が親告罪となっていません。
2 非親告罪化した知財4権
親告罪とは,簡単に分かりやすくいえば,判決をするのに,刑事告訴がなければならない罪のことです。「告訴」は,被害者その他の告訴権者が,捜査機関に対して処罰の意思を求めるもので,だれでもでき得る「告発」,処罰の意思表示を求めない「被害届」とは異なります。
親告罪が,なぜ,存在するのか,ということですが,被害者のプライバシーへの配慮等がありますが,とにかく,法律で,親告罪であることが明記されていなければなりません。
知財4権については,秘密保持命令違反が親告罪となっていますが,いわゆる侵害罪などのほとんどが,非親告罪となっています。
3 親告罪への対応
知財4権の定めとは異なり,著作権法・不正競争防止法違反では,侵害罪にあたる重要な罪が,かなりの部分,親告罪となっています。一般的には,親告罪となれば,告訴がなければ,捜査はされません。しかも,この告訴期間は,「親告罪の告訴は、犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。」(刑事訴訟法235条1項本文)ということになり,犯人を知ってから6か月が過ぎていれば,捜査さえされません。
親告罪のばあいは,告訴期間内に,告訴をするか否かを,早期の段階で,刑事事件に相当するか否かを検討し,必要があると判断されたら速やかに告訴をする必要があります。
なお,一般的には,告訴をする際には,証拠が不十分でもよいという記載も見受けられますが,実際には,告訴をする段階で,十分な証拠を添付する必要があります。
4 非親告罪への対応
知財4権での侵害罪は,法律上は,非親告罪となっています。
しかし,知的財産権は,権利といっても,事後的に無効となる要素を含んでおり,刑事事件となるには,よほど違反行為が明白か,権利として確実となるものでなければ,なりません。実際は,親告罪での対応と同じく,早期の段階で,証拠を十分に揃え,遅くない時期に,告訴をすることが必要になります。
法律的には,非親告罪か親告罪となるかは,かなり重要な要素をふくんでいますが,実際に,検討すべきこと,やることは,結構重なり合う場面が多かろうとおもいます。
5 必要な証拠
必要な証拠は,親告罪か非親告罪かで,あまり異なるところはありません。
たとえば,特許ならば,登録原簿,公報,侵害品などの基本的なものが必要となります。
はっきりいってしまえば,知的財産刑事法にかんしては,警察等の捜査機関は,それほど得意とするものではありません。告訴事案でも,民事上の問題として捉えられてしまえば,進行が難しくなります。なぜ,刑事に適するか,悪質性立証の証拠も必要となります。
6 まとめ
知的財産刑事法は,実務的には,件数がかなり少ないといえます。もともと,親告罪であろうが非親告罪であろうが,刑事事件にするには,かなりの労力と検討が必要となることはもちろんです。
知的財産刑事法については,少しづつ書いていくことにします。
以上
(H24.1作成 :弁護士 岩原 義則)
→【1】論説 <商標法38条3項に基づく損害賠償請求について>
〜不使用商標権に基づいて実施料相当額の賠償請求が可能か〜
→【3】論説〜プラバスタチンナトリウムの特許発明の技術的範囲がクレーム記載の製法に限定されるかが争われた事例〜
→【4】論説〜労働者の保護について〜
→【5】記事のコーナー:〜平成23年の特許法改正による発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について〜
→【6】記事のコーナー:事務所旅行〜中国〜
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