発行日 :平成31年 1月
発行NO:No42
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】債権法分野における民法改正と実務上のポイント〜
1 債権法分野における民法改正の概要
   1898年に施行されて大きな改正がなかった民法第3編にある債権法分野の条文を全面改正する民法改正法が2017年5月26日に成立し、2020年4月1日に施行されることが決定されました。
   本稿では、債権法分野における民法改正について、主要な改正点をいくつかご紹介し、実務上どのような点に留意すべきかを解説します。

2 契約解除について
   現行民法では、債権者が契約を解除できる場合とは、@債務不履行があり、かつ、Aその債務不履行について、債務者に故意・過失、またはこれと同視しうる事由がある場合であると解されていました。このような解釈によって、解除には、契約関係の解消を目的とするのみならず、債務者の責任を追及する手段であるという理解がなされ、損害賠償請求と共通のものとして把握・理解される実情にありました。
   しかし、改正民法では、解除を契約の拘束力から当事者を解放する手段であると捉え、債務不履行に基づく損害賠償とは別の制度と位置付けることを明確にしました。すなわち、改正民法では、解除について帰責事由を不要とし、契約が成立したにもかかわらず、その契約に基づく債務が期限を過ぎても履行されない状況にある場合や、債務の履行ができなくなっている場合等に契約関係を解消することで、当事者を当該契約の拘束力から解放するための制度としました。
   そして、改正民法は、債務者が債務を履行しない場合のうち、債権者が契約を解除できる場合と解除できない場合を次のように規定しています。
(1)解除できない場合
   a 債務不履行が軽微な場合(改正民法541条但書)
   b 債務不履行が債権者の落ち度による場合(改正民法543条)
   c 解除権者が故意又は過失によって、契約の目的物を著しく損傷したり、返還することができなくなった場合等(改正民法548条)
(2)解除できる場合
   上記(1)以外の債務不履行の場合(改正民法541条本文・542条) 今後の実務では、このような法定の仕分け基準をより明確化する条項やこれを排除する特約を設けるかどうかが、契約書作成のポイントになると考えます。

3 債権譲渡について
   債権譲渡については、@譲渡制限特約付債権の取扱い、A将来債権譲渡、B債権譲渡の対抗要件、C債権譲渡と相殺について新たな規定が設けられました。
   改正民法は、「譲渡制限の意思表示」に反する債権譲渡も有効であるとした上で、債務者は、譲渡制限特約について悪意または重過失の譲受人その他の第三者に対しては、債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務の消滅事由をもって当該第三者に対抗できるとしました。しかし、改正民法においても、払い戻し業務に支障が生じないようにするため、預貯金債権については、従前の取り扱いを維持し、譲渡制限特約について悪意・重過失の譲受人との関係では債権譲渡は無効とされることになりました(改正民法466条の5)。
   また、現行民法は、債権譲渡時に発生していない将来の債権の譲渡の可否に関する規定を置いていませんでしたが、判例上、将来債権の譲渡が可能と解されてきましたので、改正民法は、将来債権の譲渡とその対抗要件具備が可能であることを明文化しました。

   そして、現行民法においては、債務者が異議をとどめない承諾をした場合には、それまで債務者が債権譲渡人に対して主張できた抗弁を主張できなくなるとの規定になっていましたが、改正民法では、当該制度が廃止されました。
   債権譲渡と相殺については、債権の譲渡人に対する債務者の反対債権が、@債務者対抗要件具備時より前に債務者が取得した債権、A債務者対抗要件具備時より「前の原因」に基づいて債務者が取得した債権、B譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権のいずれかである場合、債務者は、当該反対債権による相殺を譲受人に対抗できるものとされました。

   今回の改正では、債権取引の促進などの観点から、譲渡当事者間の問題と、債権者・債務者間の問題を切り分け、譲渡を有効とする一方で、債務者による供託を可能とするなどによって、関係者の利害調整が図られました。異議をとどめない承諾制度の廃止などの変更点もありますので、取引基本契約などについては、今後、改正民法を踏まえた見直し作業が必要になるものと考えます。

4 法定利率の改正
   法定利率は、改正前は、民法上原則として年5%とされ、商法に商事法定利率の定めがあって、商行為によって生じた債務について年6%とされていました。
   これに対し、改正民法は、金融機関の金利が長期間にわたってこれを大きく下回っていることなどを勘案し、改正法施行時の法定利率を年3%とし、3年ごとに見直しを行う変動利率を採用するとともに、商事法定利率を廃止しました。
   また、債務不履行時の損害賠償額を算定するために用いられる法定利率については、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点」における法定利率とし、後遺障害による逸失利益の損害額の算定にあたり中間利息の控除がなされる場合に用いられる法定利率についても「その損害賠償の請求権が生じた時点」における法定利率とするなどの改正がなされています。

   2020年4月1日以降は、交通事故などの損害賠償として請求する逸失利益額が増大するなど被害者救済には朗報となる点はありますが、改正法施行後は商取引における遅延損害金が半額になるため、債務不履行に対する遅延損害金の利率を取引契約などにおいて別途約定しておくべきと考えます。

5 消滅時効の改正
   現行法では、債権の消滅時効は、原則として10年とされていますが、商行為によって生じた債権の消滅時効は5年とされ、職業別にも1年ないし3年の短期消滅時効が設けられていて、債権の種類等に応じて、時効期間が細分化されています。しかし、このような区別は合理性に乏しく、どの債権についてどの時効期間が適用されるのかが判りにくい、との指摘がなされていました。
   改正法では、原則として時効期間が統一され、次のとおり、主観的起算点と客観的起算点の2種類に整理されました(改正民法166条)。これに伴って、現行民法で取引別に定められていた短期消滅時効、商法522条に定められていた商事消滅時効が廃止されます。

   (1) 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
   (2) 権利を行使できるときから10年間行使しないとき
   また、原則的時効期間の例外として、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則が設けられました。生命・身体侵害による損害賠償請求権については、被害者の保護を重視して、不法行為によるか債務不履行によるかを問わず、時効期間は、知った時から5年、権利行使可能時から20年に伸長されています(改正民法167条)。

   なお、労働基準法では、賃金、災害補償その他の請求権の消滅時効は2年とされていますが、改正民法ではこの点までの改正はされていません。
   消滅時効の改正では、これまで債権の種類に応じてまちまちであった時効期間がかなり統一されましたが、経過規定により、施行日前に生じた債権か施行後に生じた債権かによって新法、旧法いずれが適用されるのかが異なることになります。そのため、今後の時効管理に際しては、各債権の発生日またはその発生原因たる法律行為の発生日を意識して区別して管理することが必要になります。
以 上

(H31.1作成: 弁護士 溝上 哲也)
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→【3】論説:任意後見契約について〜
→【4】記事のコーナー:2018年ショックだったこと〜
→【5】記事のコーナー:イベントと日本人の宗教観〜
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