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発行日 :平成31年 1月
発行NO:No42
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【3】任意後見契約について〜
1、はじめに
任意後見制度とは、本人が契約の締結に必要な判断能力を有している間に、将来的に精神上の障害により、判断能力が不十分な状況になった場合の後見事務について、あらかじめ任意後見人に代理権を付与するものであり、本人の意思能力が十分な間に、本人の死後のことを定める遺言の作成と共に、本人の事前の意思表示を尊重する制度として大いに利用が期待されるものです。そこで、同制度の利用について以下簡単に言及します。
2、同制度の利用が検討されるべきケース
たとえば、現時点では、判断能力には何ら問題ないものの、いつ何時、判断能力に問題が生じるかわからないことから、判断能力がしっかりしている間は財産管理などを自分で行うものの、判断能力が低下した場合には財産管理や身上監護を他人に任せたいというケースや、すでに判断能力がある程度低下している場合に、法定の後見制度を利用すれば、補助制度の対象となるにとどまるような場合であるものの、より本人保護の制度が整備されていることや死後の事務についても特約を付することができることなどから、任意後見契約を選択するケース等が想定されます。
3、任意後見契約の締結
任意後見契約は法務省令で定める様式の公正証書により締結する必要があり(任意後見法3条)、任意後見監督人(任意後見人の事務を監督し、その事務に関して家庭裁判所に定期的に報告することを主たる職務とする(法7T@))が家庭裁判所によって選任されることで効力が発生します(法4)。つまり、任意後見契約が締結後、本人の判断能力が「精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況」となったときに、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立てることにより、任意後見契約は効力が発生することとなります。
そこで、任意後見契約締結後、本人の判断能力の状況を身近で見守っている人が存する場合には、上記の申立てを行うことに障害は基本的には想定されませんが、そのような人が存しない場合には、場合によっては、誰も本人の判断能力の減退に気が付かず、家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てがなされず、任意後見契約の効力が発生しないことも想定されます。そこで、そのような場合には、任意後見契約締結時に、合わせて見守り契約を締結しておくことが大切です。
4、任意後見人を誰にするか
任意後見人になることができる資格については、基本的には、法律上は制限は設けられていません。ですから、親族や知人を任意後見人とすることも、弁護士などの専門家とすることもいずれも可能です。また、複数人を選任することも可能です。
ただ、ここで注意が必要なのは、任意後見契約の効力が発生するのが先のことであると想定される場合には、任意後見人の年齢はそれなりに若い年齢の方としておくべきということです。任意後見契約時に50歳くらいの方であっても、実際に、本人の判断能力が減退し、任意後見契約の効力が発生したのが20年後などということも十分想定されるため、そのような場合、効力発生時には任意後見人も70歳となってしまっており、十分に後見事務を履行できない危険性が存するからです。
5、委任事項について
任意後見契約で具体的にどのような事項を任意後見人に委任することができるかですが、基本的には財産管理に関する法律行為と身上監護に関する法律行為が存します。
前者としては、多くの場合には、預貯金の管理、不動産等の財産の管理・処分、賃貸借契約の締結・解除等が想定されます。後者としては、多くの場合で、介護契約等の福祉サービス利用契約や医療契約、要介護認定申請などの公法上の行為等が想定されます。
これに加えて、契約自由の原則のもと、さらに委任したい事項を加えることも当然可能です。ここでよく問題となるのが、本人死後の事務を依頼したいと考えられる場合です。そのような場合には、葬儀の手配や病院や施設等に対する残債務の支払い等を盛り込んでおくことが考えられます。
6、任意後見契約の内容の変更について
効力発生前に、任意後見契約の内容を変更したいと考える場合には、既存の任意後見契約を解除して全部を一から作り直すかあるいは、追加したい契約内容の新たな契約を締結するしかありません。
他方で、効力発生後には、本人の判断能力が減退している以上、変更の余地はなく、法定後見の申立てを検討するしかありません。
7、最後に
昨今、遺言の作成により、死後に生前の本人の意思の貫徹を図ることが多く見られるようになりましたが、他方で、認知症の発症等により、本人の判断能力が減退した場合に本人の意思の貫徹を図る任意後見制度の利用はまだまだ多くはありません。任意後見制度自体が広く認知されていないことやその内容が一見して明らかとは言えないこと等にその理由があるものと解されます。ですが、任意後見制度の利用により将来に対する不安が解消されることにもなるかと思いますので、少しでも関心をお持ちの方はお近くの弁護士に御相談頂くことをおすすめ致します。
以 上
(H31.01作成: 弁護士 河原 秀樹)
→【1】論説:債権法分野における民法改正と実務上のポイント〜
→【2】論説:近年の商標の判例について(その4)〜
→【4】記事のコーナー:2018年ショックだったこと 〜
→【5】記事のコーナー:イベントと日本人の宗教観〜
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