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発行日 :平成25年 8月
発行NO:No31
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【1】論説:日本におけるアップル対サムスンの争い
1 アップルとサムスンの知的財産をめぐる紛争
米国のApple社は、画面がタッチパネルで覆われている斬新なデザインを持ち、独特な操作感が従来の携帯電話と異なるかつ軽妙なスマートフォンiPhoneを2007年に発売し、タブレットPCのiPadと共に、大人気商品となりました。これに対し、韓国サムスン社は、2010年後半から、iPhoneに近似した外観と操作性を持ったスマートフォンとタブレットPCをGALAXYのブランドで売出して追随し、一時は、両社でスマートフォン市場の約50%を占めるなど販売競争が激化しています。サムスン社の追随に対して、アップル社は、Galaxyがアップルの特許権などを侵害しているとして世界各国で訴訟を提起し、これに対抗するように、サムスン社も、iPhoneやiPadなどを対象に、自社の特許権を侵害しているとして訴訟を提起し、現在、多くの国で様々な訴訟が繰り広げられています。
このように世界規模で、アップル社とサムスン社の知的財産をめぐる紛争が起こっていることは、マスコミにも採り上げられて、皆さんもご存じかとは思いますが、先日、弁理士会において、「アップルVSサムスン訴訟の現状と行方」というテーマのセミナー(平成25年7月5日・ラーニングスクエア新橋)で、日本におけるアップル対サムスン訴訟の発表をする機会がありましたので、その内容をご紹介したいと思います。
2 日本におけるアップル・サムスン訴訟の概要
日本におけるアップル・サムスン訴訟を時系列に沿ってまとめると次のとおりです。
最初は、サムスンが侵害訴訟を提起し、仮処分も2件申し立てたようですが、アップルは 、これらに対抗して、侵害訴訟2件、不存在確認訴訟1件、仮処分1件を行ったようです。
(1)2011年4月/サムスン→Apple、請求訴訟提起
【特許侵害製品】 「iPhone」「iPad」
【侵害された特許】 @データ転送中の電力削減、A無線データ通信技術
【請求内容】 特許侵害差止+損害賠償
⇒この頃、後記(5)事件に関連する輸入販売差止仮処分申立
(2)2011年6月/Apple→サムスン、仮処分申立
【特許侵害製品】 「GALAXY S」「GALAXY Tab」
【侵害された特許】 特許第4204977号/音楽ファイルのシンクロ方法
【請求内容】 輸入販売差止仮処分
【結 果】 東京地裁平成24年8月31日決定(却下)
(3)2011年8月/Apple→サムスン、損害賠償請求訴訟提起
【特許侵害製品】 「GALAXY S/Tab/Note」
【侵害された特許】 特許第4204977号/音楽ファイルのシンクロ方法
【請求内容】 1億円の損害賠償 (売上2086億円に対する一部請求)
【結 果】 東京地裁平成24年8月31日判決(請求棄却)
(4)2011年8月/Apple→サムスン、損害賠償請求訴訟提起
【侵害された特許】 特許第4743919号/タッチスクリーンディスプレイにおけるリストのスクローリング、ドキュメントの並進移動、スケーリング及び回転
⇒バウンスバック(画面の跳ね上がり)のUI関連特許
【請求内容】 1億円の損害賠償(売上753億円に対する一部請求)
【結 果】 東京地裁平成25年6月21日中間判決(侵害)
(5)2011年9月/Apple→サムスン、確認訴訟提起
【特許侵害製品】 「iPhone 3GS」など4機種
【対象となった特許】特許第4642898号/移動通信システムにおける予め設定 された長さインジケータを用いてパケットデータを送受信する方法及び装置
→ W-CDMAという通信規格に関する必須特許
【請求内容】 損害賠償請求権の不存在
【結 果】 東京地裁平成25年2月28日判決(認容)
※サムスンが販売差し止めを求めた仮処分は却下
(6)2011年10月/サムスン→Apple、販売差止仮処分申立
【特許侵害製品】 「iPhone 4」 「iPad 2」
【侵害された特許】特許第3781731号/@高速パケット通信規格技術、
A機内モードアイコン表示法、Bホームスクリーンのカスタマイズ、
Cアプリストアの3部構成のカテゴライズ
【結 果】 東京地裁平成24年9月14日決定(却下)
知財高裁平成25年3月15日決定(抗告棄却)
3 注目すべき判決
上記の判決のうち、注目すべき判決は、上記(5)の平成25年2月28日東京地裁判決です。
この判決は、サムスンから、特許第4642898号に基づいて販売差し止めの仮処分を求められたアップルがその差止請求に対抗して、「被告が、原告製品の生産、譲渡、貸渡し、輸入又はその譲渡若しくは貸渡しの申出につき、特許第4642898号の特許権侵害に基づく原告に対する損害賠償請求権を有しないことの確認」を求めて提訴したもので、東京地裁は、サムスンがFRAND宣言をしたことなどの事実関係を認定した上、特許権に基づく損害賠償請求権を行使することは、権利の濫用に当たるものとして許されないと判示したもので、日本で初めてこのような判断をした判決として注目されています。
FRANDとは、「Fair, Reasonable And Non-Discriminatory 」の略で、FRAND宣言は、国際標準に準拠するために不可欠な特許に対して特許権者が「公平、合理的、かつ、非差別的」なライセンスを行なう意思を表明することで、FRAND宣言している場合に、特許権者が実施許諾をせずに、差し止めや損害賠償などの特許権を行使することを認めてよいのかが争点となりました。
提訴及び判決に至る経過は、およそ次のとおりです。
・1998年12月 サムスンが欧州電気通信標準化機構に対しFRAND宣言
・2006年 5月 本件特許出願(優先日2005年5月)
・2007年 8月 本件特許についてFRAND宣言
・2010年12月 本件特許登録
・2011年 4月 アップルがサムスンを米国で提訴
サムスンが本件特許権に基づく差止仮処分を申立
・2011年 5月 サムスンがアップルの要請に回答
・2011年 7月 秘密保持契約を締結後、サムスンが料率を提示
・2011年 8月 アップルが情報開示の要請と料率提示
・2011年 9月 アップルが本件訴訟提起
・2012年 3月 アップルが契約案添付して料率再提示
・2013年 2月 本件判決
上記の事実関係に基づいて、アップルは、「 被告が意図的に本件特許について適時開示義務に違反したこと、被告の本件仮処分の申立てが報復的な対抗措置であること、被告が 本件FRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許である本件特許権についてのライセンス契約締結義務及び誠実交渉義務に違反し、いわゆる"ホールドアップ状況"を策出していること、かかる被告の一連の行為が独占禁止法に違反することなどの諸事情に鑑みれば、被告が原告に対し,本件特許権に基づく損害賠償請求権を行使することは,権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されない。」と主張し、損害賠償義務のないことを求めました。
これに対して、東京地裁は、「サムスンが、アップル社に対し、本件特許権についてのFRAND条件でのライセンス契約の締結準備段階における重要な情報を相手方に提供し、誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違反していること、かかる状況において、サムスンは、口頭弁論終結日現在、本件特許権に基づく輸入、譲渡等の差止めを求める仮処分の申立てを維持していること、サムスンの変更リクエストに基づいて本件特許に係る技術が標準規格に採用されてから、約2年を経過していたこと、その他アップル社とサムスン間の本件特許権についてのライセンス交渉経過において現れた諸事情を総合すると、サムスンが、上記信義則上の義務を尽くすことなく、アップル社に対し、本件製品2及び4について本件特許権に基づく損害賠償請求権を行使することは、権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。」と判示して、アップル勝訴の判決をしたものです。
本件で争点となったFRAND宣言を理由に権利行使を認めるかどうかは、韓国で権利行使を認める判決が、オランダでライセンス料の支払いを命じた上で差止請求を棄却した判決がなされていますが、本件判決は、差止請求のみならず損害賠償請求の不存在を認めた判決として、世界でも珍しい注目すべき判決と言えます。
本件判決は、FRAND宣言をした特許権についてライセンス交渉が開始された場合、相手方に重要な情報を提供し、誠実に交渉を行う信義則上の義務があることを前提に権利濫用の抗弁を認めた法律解釈になっていますが、FRAND宣言については第3者のためにする契約と解釈し、ライセンス契約の申入れがあった時点で、相当な実施料額での通常実施権が設定されると解釈する方が、理論上は明快ではないかと考えます。上記事実関係のもとでは判決の結論は妥当であり、サムスンが実施料請求の反訴をしていない以上、損害賠償請求権までの不存在を認容したことも当然であると判断されます。
4 アップル・サムスン訴訟の今後
日本におけるアップル対サムソンの訴訟については、まだ判決に至ってない事件があるようであり、注目すべきFRAND宣言にかかる上記事件なども知財高裁での判断が残されています。また、世界におけるアップル対サムソンの訴訟も多く残されており、今後、 デザイン、ユーザーインターフェース、通信技術 と各種の権利が国際的に総動員されることが続くのでないかと思われます。また、EUがサムスンを独占禁止法で提訴したとの報道もあり、知的財産のみならず、周辺法にまで紛争が拡大していくことになりそうです。
今後、世界的な全面紛争が継続し、生き残りをかけた戦いで消耗戦となるのか、機種変更、技術の棲み分け、必須技術の開放などで紛争が鎮静化していくのか注目を続けたいと思います。
(H25.08作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)
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