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発行日 :平成25年 7月
発行NO:No31
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【2】論説〜知的財産に関わる上手な法律相談〜
1. はじめに
以前に,通常の一般的なウマイ法律相談の方法を書きました。ここでは,さらに特殊性がある「知的財産権」法律相談(以下「知財相談」といいます)について,まとめることにします。有限な時間を,できるかぎり有用に,ということをモットーとします。
知的財産にかかわる紛争は,主として,権利侵害事案(損害賠償,差止)を主とする対第三者との関係で問題となるもの,権利許諾関係(契約作成,契約解釈もここに入るでしょう),を主とする対内部関係者との関係で問題となるものがあります。内部関係で問題となるものは,さらに特殊性がありますので,ここでは,侵害事案を,まずは,特に取り上げることにします。たとえば,内容証明で,権利侵害を言われ,差止(製造販売を中止しろ!などのことです)や損害賠償を払え!と言われた内容証明が来たという事案です。
2. 特に,知財4権と著作権との違い
まず,いわゆる知財4権(特許,実用新案,意匠,商標)と著作権との大きな違いを意識する必要があります。
知財4権:権利となるには,特許庁への登録が必要となる。
著作権:登録等の手続は,必要がない。
知財4権の場合,登録がなければ,不正競争防止法の検討,著作権の具備の検討が必要となります。また,今からでも登録が可能かどうかの検討が必要になります。
著作権の場合は,登録等の手続が必要ではありません。
3. 知財4権の場合
3.1 権利,権利者の確認
知財4権の場合は,権利行使をするためには,権利が登録されていることが大前提になります。
内容証明が来て侵害されていると言われながら,実は,その言っている者が権利者ではない,権利の期間が切れているなど,そもそも権利者ではない事案,権利がもはやないという事案もないことはありません。
そのために,まずは,権利,権利者の確認が必要となります。
この権利,権利者の確認は,特許庁が発行する「登録原簿」によります。
特許庁で発行された「登録原簿」は最新のものが必要となります。自分でとれるのであれば,法律相談の際に,自分のもの(あれば),相手方のものを持参するのが話が速いということになります。
3.2 対象の製品と侵害の有無
知財4権の中身の検討は,「特許公報」によることになります。
特許の場合は,特許公報に記載された「請求項」と呼ばれる文言に,対象の製品等が該当するかということが基本になります。実用新案もほぼやり方は同じで,請求項に記載された文言に該当するか否かが,まず問われます。
意匠,商標,特に,絵・図形や図面で特定されたものは,通常は,侵害したとされる内容証明で,弁護士により「文字」で,どんなものかが特定されているはずです。特徴的な部分を取り出された文言の該当性について議論することになります。
準備ができれば,(特許)「公報」を,侵害と対象とされている製品等を持参することが有用です。
3.3 自己製品の分析と技術的資料の準備
次に,文言に入っていない,または入っていたとしても,その意味について検討するため,自己製品の分析と技術的資料を検討することになります。明らかに文言に入っていない場合でも,「文言」の解釈によっては,入る余地があるといえるのであれば,その解釈が成り立たないとする根拠などのために技術的資料が必要になります。
結構誤解が多いところですが,請求項は,基本は,その文言通りに,解釈されます。自分のは,こんなところが違うので,この文言を有する製品ではないとか,この文言とは異なる製品であるというように,どこが,どう違うのかを明確にしておくことが有用といえます。
3.4 無効の可能性
特許,実用新案の場合は,特に,従来技術でピッタリのものがあった,ピッタリでなくても,ここからこうすれば,誰でも簡単に,この技術に辿り着けるというものであれば,無効となります。
相手の権利が無効となれば,損害賠償を払う必要もなく,もちろん,製造等を止める必要もなく,反対に,権利の無効を主張して,相手の権利をつぶすこともできます。
無効の可能性となる資料の準備もあれば,よりよいといえます。
3.5 損害資料の準備
侵害論としては,どうすることもできない。という場合,言われている損害額をできるだけ低くするように主張立証していくというのも,一つの対処となります。
内容証明の計算は,おかしい!ということを,たとえば,こんなに売っていない,この計算は間違いだ!旨言っていくことになります。こちらの利益率などの内部資料は,相手方に見せるということは,最初の段階では稀ですが,弁護士に相談するときには,必要となる場合があります。
4. 著作権の場合
著作権の場合,上記の場合と重なることも多いのですが,決定的に違うのが,権利,権利者の確定です。特に,権利がそもそもあると認められるのか,あるとしても,その権利範囲内は,どこまでなのか,そもそも,権利者は,誰なのかというものが,特許庁などで登録されていないがために,不明確なのです。
そのために,争いに平行線をたどるということも多いのが著作権紛争でしょうか。
侵害されたという事案の場合,どのようなもので著作権を主張しているかも重要となります。一般的には,絵・写真,文学などの文字もの,ソースコードなどのプログラムは,著作権侵害をいいやすい部類といえます。
5. 見通しの相談
知財相談でも,最終的には,訴訟で頑張るか,示談で終わらせるか,という判断を迫られることになります。知財案件の場合は,内容証明のやり取りが数回ある場合も多く,基本的には,言われたことを前から着実・地道に検討することが重要です。
一回だけで法律相談が終わらない,それも知財相談の特色といえるでしょうか。
以 上
(H25.8作成 :弁護士 岩原 義則)
→【1】論説:日本におけるアップル対サムスンの争い
→【3】論説:湾岸協力会議に基づく特許出願について
→【4】記事のコーナー:五庁による「審査実務の相違点に関する報告書」について
→【5】記事のコーナー:今まで行った旅行で一番良かった場所と今一番行きたい場所
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