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発行日 :平成25年 1月
発行NO:No30
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【2】論説〜「知財事件」と「一般事件」とは、こんなところが違う〜
1 「知財事件」と「一般事件」とは、こんなところが違う
1.1 はじめに
知財、つまり、特許、実用新案、意匠、商標などの知的財産の事件と一般(民事)事件とは、こんなところが違うというものを列挙したいとおもいます。もちろん一緒のところもあります。当事務所の具体的な動きがみえてよいかもしれません。
知的財産事件も、結構メジャーな分野になりました。知的財産高等裁判所という専門の高等裁判所もでき、「知財部」として地方裁判所の特別部もよく知られるようになりました。大きな特許事件が、よく新聞にも取り上げられるようにもなりました。司法試験の選択科目にも入る堂々とした一分野となりました。
私が事務所に入った頃は、今ほど盛り上がってはいなかったと思います。盛り上がっているかは別として、普通の人にも、なんとなくかもしれませんが「知財」という言葉が市民権を得てきたという印象はあります。
ただ、具体的には、「知財事件」と普通の(民事)一般事件とは、どこが違うのか、はっきりと書かれたものはありません。具体的に書いて興味を持っていただくことが、本稿の目的でもあります。 順不同に思いついたことを書き連ねます。
1.2 知財には、「専門部」がある!
知財事件、特に大きな裁判所には、知財事件を特別に扱う「専門部」があります。 「知財部」、と一般にはいいます。 大阪では、21民事部と26民事部が、「知財部」です。
裁判所HP
http://www.courts.go.jp/osaka/saiban/tetuzuki/ip_index.html
知財部では、集中的に知財事件が審理されます。契約書に「著作権」と書いてあったからみたいな理由で知財部になったりもしますので、実は、意外と範囲が広いといえます。 実は、昔から、知財を特別に扱う部としてはありました。 他にも専門部として、医療紛争専門部とか、行政事件専門部とかがあります。
知財部は、かなり特殊な分野として裁判所にも認識されているといえましょうか。
1.3 内容証明の往復回数が多い!
通常事件でも、最初の紛争開始は、内容証明の送付ということも多いです。たとえば、◎◎円払え!さもないと裁判する旨の内容証明郵便を裁判の前に出すのが普通です。
ただ、相手方に弁護士がついても、それほど内容証明の反論反論、出し合いとは余りなりません。
どちらかというと、「払え!」と一発出して、有意な合意ができなければ、次は裁判!となることが多いといえます。
知財事件では、技術論争・法律論争、問題となる争点の明確化等、内容証明の出し合いとなるものが多いといえます。
特殊な内部的用語では、お手紙のやり取りとか言っていますね。内容証明の出し合いをしながら、示談になる場合も多くありますし、侵害だ!と主張するものに対し、反論したら、それ以降音沙汰なしということもあります。
実は、内容証明の作成は、かなり難しい仕事の分類であり、神経を使います。内容証明で出した主張は、裁判で前はこんなこと言っていたのではないかと使われるので、既に戦争は始まっている感じが普通の事件より高いといえます。
1.4 知財事件の審理は、極めて計画的である
裁判になった場合、知財事件裁判は、通常「侵害論」と「損害論」を分けて審理されるのが基本です。実は、このように審理の段階ごとに分けてするのは、普通一般民事事件では、ほとんど見られません。一般民事事件では明確に段階を分けずにされるのが普通です。
知財事件の裁判では、「侵害論」と「損害論」とは、かなり明確に分けて審理されます。
たとえば、
裁判官: 「損害論に入らず、侵害論を終結し、判決をします。」
これは、原告側弁護士としては、脅威の言葉です。つまり、負け!ということです(基本を書いています)。 逆に、被告側弁護士としては、よし!ということになります。
裁判官: 「侵害論を終了し、続いて、損害論に入ります。」
これは、さっきの逆です。
一般民事事件では、ほとんどが判決が出て、やっと結果が分かる。のが基本です。
(もちろん、この顔色をうかがうのが、弁護士としてのテクニックの一つです)
知財事件では、かなりの早い段階、判決が出る前に、裁判官が考えていることが(結論として)、当事者にも分かるというのが、面白い特色です。 事前に、審理計画(ここまで、○回とか)まで書面で配布する裁判官もおられます。
通常事件よりも、裁判官が、「じゃ、次は、これ、被告は、これとこれ!」とかなり積極的に訴訟指揮をして、審理を進行させる傾向が強いといえます。
勿論、提出期限を守らないと嫌みを言われたり、怒られたりします。さらには、「その主張は、判断の対象とする資料から除かれる」ということもあります。
知財事件は、計画審理をかなり守る事件といえます。 通常事件では、裁判官の個性にもよりますが、より緩やかといえます。その緩やかな運用でも、提出期限を守ろうとするか否かは弁護士によります。知財を扱う弁護士は、概して他の一般民事事件でも提出期限を守るとはいえますでしょうか。
最近は、計画審理を一般民事にもしていく傾向にはあります。
1.5 書面が長い!
一般に知財事件の書面(準備書面等)は枚数が多い。
正確に文献を引用しなければならない場合も多く、「 」をつけて、そのままに書面に反映する場合が多いことが十分に影響していると思います。
引用は、事実主張です。書いてあることを評価するべき場面とは厳格に区別した方がいいのは当然です。むやみなコピペはダメですが、正確を期するために長くなるというのは、仕方がない面はあります。
引用部分と主張(評価)部分とは、フォント、大きさを変えるなりして工夫をすることも多いです。
1.6 記録が厚い!
あくまで一般的な話ですが、知財事件では、書面も長く、証拠も文献丸ごと出す場合も多いです。 そうすると、必然的に、知財事件では、記録が厚くなります。
不正競争防止法の周知性立証は、簡単にいえば、「こんなに有名です!」というものですから、あの雑誌、新聞とか証拠が多くなります(甲1の150とか)。
逆に、著名性は、本当に著名であれば簡単である。当社のブランド!と一枚出せばよいことが多いといえます。 記録が厚いというのは、たとえば、建築とか医療過誤もそうですね。専門的知識が必要なものは、自ずから記録が厚くなります。
1.7 特許庁が前段階にあることもある
知財訴訟の内、特許庁の処分があり、それを審査・取消等するために裁判になる場合があります。
行政裁判をしていれば普通ですが、他の一般事件には余りない特色です。
ちなみに、特許庁の審判等は、行政事件ではありますが、通常の行政事件とはかなり異なる趣があります。たとえば、特許の無効審判事件では、無効を申し立てた、通常は、同業者が、当事者として全面的に出てきます。そのため、普通の裁判と同じようになります。
1.8 どんでん返しの方法がある
知財訴訟においては、他の一般事件にはない特色として、根底を覆す防御手段が存在する場合があります。
通常の不法行為、例えば交通事故にあったでは、交通事故そのものがないと覆すのは大変です。普通は、交通事故は、交通事故証明書に基づきされ、事故そのものはあったことが前提で裁判をするのが普通といえましょう。
しかし、知財訴訟では、例えば、特許では無効審判を特許庁に起こすという根底から覆す防御手段が存在します。無効審判で特許無効が確定すれば、そもそも権利侵害とならないということになり、裁判においても特許無効を主張することで、根底から覆す防御手段が存在することになります。
損害賠償金を求めて訴えたら、「その特許まで無効になってしまった」という恐ろしい結果になり得る。という事態があります。
一般民事では、ほとんど見られない知財事件の特色といえましょうか。
1.9 法律改正が頻繁である
これは消費者問題(特定商取引法、割賦販売法等)等他分野でもありますが、知的財産に関する法律改正は、かなり頻繁です。
たとえば、昔は、特許と実用新案は、あまり変わらないものでしたが、今は、かなり性質が異なる(手続も)制度になっています。 このような改正に追いついていかないと、知財訴訟は難しい。 慣れの面というのは、このような場合も重要といえます。
6 まとめ
色々列挙しましたが、やはり、少し変わった分野とはいえますね。
ただ、知的財産事件は、かなり変わった分野とはいえ、通常事件の応用という側面が多いといえます。
相手方から、証拠が一杯出されてもメゲナイ、むしろ燃えてきたり、 より丁寧な反論を書こうとしたり、 提出期限は、なるだけ守ろうとしたり、 本来の弁護士としてはあるべき姿とはいえるでしょうか。
以上
(H25.1作成 :弁護士 岩原 義則)
→【1】論説:新しいタイプの商標制度導入をめぐる商標法改正の動きについて
→【3】論説:出願後に提出された実験結果の参酌について
→【4】論説:営業秘密の保護と競業禁止特約について
→【5】記事のコーナー:エネルギーと日本の技術について思うこと
→【6】記事のコーナー:台湾への特許出願について
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