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発行日 :平成24年 8月
発行NO:No29
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【3】論説〜請求項の記載順序についての考察〜
1.はじめに
本稿は、特許請求の範囲に記載する請求項の記載順序について、発明の単一性の審査基準の観点から考察したものである。
2.発明の単一性について
発明の単一性は、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的関係(Special Technical Feature:STF)を有しているかどうかで判断される(特許法施行規則第25条の8第1項)。STFとは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴を意味する(同規則同条第2項)。
STFが認められない例としては、先行技術文献等が発見され、特許法29条1項各号(新規性無し)に該当する場合のほか、同号所定の発明から周知技術の付加に過ぎない場合、単なる設計変更に過ぎない場合などが挙げられる。
3.発明の単一性の審査の進め方
特許・実用新案審査基準によると、発明の単一性の審査の進め方は、概ね、以下のような手順で進められる。
手順1:
先ず、請求項1に記載の発明にSTFがあるかを判断する。
請求項1にSTFがある場合は、請求項1の発明との間で発明の単一性を満たす一群の発明が審査対象とされる。請求項1に記載の発明との間で発明の単一性を満たさない発明については審査対象とされず、単一性要件違反の拒絶理由が通知される。
手順2:
請求項1にSTFが無い場合は、直列的な従属項(請求項1の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの請求項に係る発明のうち、番号の最も小さい請求項)が審査対象となる。
請求項1に記載の発明にSTFが無い場合であっても、請求項1に直列的に従属する同一カテゴリーの請求項については、原則としてSTFの有無が判断され、審査対象となる。また、直列的に従属する同一カテゴリーの請求項のうち1つがSTFを有する場合、STFを有する発明の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの請求項は審査対象となる。
手順3:
手順2により審査対象とされた発明について審査が行われた結果、審査が実質的に終了している請求項は審査対象に加えられる。
手順4:
STFを有さない請求項1に直列的に従属しておらず、かつ、審査対象とされた発明とは技術的関連性が低い発明特定事項が追加されていて、別途先行技術調査や審査を要する請求項は、単一性違反となり、審査対象から除外される。
4.請求項1に記載の発明にSTFが認められない場合の審査について
特許・実用新案審査基準に挙げられている「太陽熱集熱器」に関する〔事例31〕を参考に、発明特定事項を簡略化した下記事例を用いて説明する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成A,B,Cを具備する太陽熱集熱器であって、前記Aから前記Bへの伝熱を、構成Dを用いて行なうことを特徴とする太陽熱集熱器。
【請求項2】
前記Dは、特定の構造D1であることを特徴とする請求項1に記載の太陽熱集熱器。
【請求項3】
前記Dは、特定の材質D2を含有してなることを特徴とする請求項1に記載の太陽熱集熱器。
【請求項4】
前記A,Cの間に構成Eを設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の太陽熱集熱器。
【請求項5】
前記A,B,Cを構成F内に設け、前記Fの開口部にGを設け、前記Gに処理Hが施されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の太陽熱集熱器。
上記事例で、請求項1にSTFが無く、請求項2の発明特定事項によってSTFは認められるが進歩性は認められない場合、審査される請求項と、単一性違反によって審査されない請求項は、次のとおりとなる。
先ず、STFを有する請求項2に記載の発明の発明特定事項をすべて含む同一カテゴリーの発明である請求項4、5に記載の発明は、前述の手順2に従い、審査対象となる。より正確に言えば、請求項4記載の発明のうち請求項2に従属している部分(以下、従属関係は「−」で繋いで「請求項4−2」のように表示する。)と、請求項5記載の発明のうち請求項2に従属している部分(請求項5−2、請求項5−4−2)である。
上記事例では、請求項2、請求項4−2、請求項5−2、請求項5−4−2に記載の発明に進歩性欠如の拒絶理由が発見された結果、請求項4−1、請求項5−4−1、請求項5−1についても実質的に審査が終了するため、前述の手順3に従い、これらの請求項も審査対象となる。
請求項3に記載の発明とその従属項については、請求項1に直列的に従属しておらず、STFを有する請求項2記載の発明の発明特定事項をすべて含むものでもなく、また実質的に審査が終了しているとも言えないので、前述の手順4に従い、発明の単一性違反の拒絶理由が通知される。
図にまとめると以下のとおりである。(審査基準〔事例31〕と同じ内容である。)
5.考察
以上から、以下のような考察ができる。
クレームは、基本的には請求項1でSTFが認められるように起案することが望ましい。そのためには、先行技術調査を行い、出願発明のSTFを適切に把握することが重要となる。
しかし、他社への牽制効果も考え、請求項1は出来るだけ広く特許請求しておきたいという要請が強い場合もある。また、先行技術調査では見付からなかった先行技術文献が、特許庁の審査で見付かることも考えられる。
そこで、次に留意すべき点として、より権利化したい構成を含む従属項を請求項2に記載した方が良いと言える。
たとえば、前述の事例では、
・請求項1 A+B+C+D ← STF無し
・請求項2 A+B+C+D1(構造) ← STF有り
・請求項3 A+B+C+D2(材質) ← 審査されず
という審査結果になったが、クレームを起案するときに、D1(構造)とD2(材質)を比較し、より権利化したい構成はどちらであるのかを検討すべきである。
なぜなら、請求項1にSTFが認められない場合でも、請求項2は、請求項1と同一カテゴリーの従属項である限り審査対象となるのに対し、
・請求項3 A+B+C+D2(材質)
・請求項4−3 A+B+C+D2(材質)+E
・請求項5−3 A+B+C+D2(材質)+F+G+H
・請求項5−4−3 A+B+C+D2(材質)+E+F+G+H
は審査されないので、特定の材質D2に関連する部分は、下位の請求項も含め、最初の審査では特許性の有無の見込みが立たないことになるからである。
最後に、補正ができる範囲を含めて上記事例を考察する。
シフト補正に関する審査基準では、補正前の特許請求の範囲のうち新規性・進歩性等の特許要件について審査が行われたすべての発明と、補正後の特許請求の範囲のすべての発明とが、全体として発明の単一性を満たすか否かにより判断するとされている。
よって、前述の事例で、請求項3の発明特定事項(D2)を、審査対象となった請求項4−1や請求項5−1に従属させる補正は、シフト補正にはならないと考えられる。
しかし、審査対象となった請求項を全部削除し、審査対象にならなかった請求項1に従属する請求項3を残す補正はシフト補正となる。
したがって、補正ができる範囲に制限があることから見ても、上記のような事例の場合、より権利化したい構成を含む従属項を請求項2に記載すべきである。
(H24.08作成: 弁理士 山本 進)
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