発行日 :平成24年 8月
発行NO:No29
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】論説<キーワードバイと商標権侵害について>
〜商標法2条3項8号該当性についての考察〜

1 キーワードバイとは
  キーワードバイとは、検索エンジン運営会社がインターネットユーザーに対して広告宣伝をしたい企業との間で、ユーザーが入力した検索のキーワードに連動して、リンク表示を含めたバナー広告を表示するよう有償で契約する広告宣伝方法のことを言います。例えば、YAHOO!JAPANのサイトで、「フォルクスワーゲン」を入力して検索すると、検索結果画面のスポンサードサイトの欄に「《ボルボ》 公式サイト」の表示が出現しますが(平成24年8月8日時点)、検索のキーワードは、その表示の説明文にも、リンク先のメタタグを含むホームページにも表示されていないにもかかわらず、検索したユーザーには、そのサイトを閲覧する機会が与えられることになります。
       http://search.yahoo.co.jp/search?p=%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%B2%E3%83%B3&aq=-1&oq=&ei=UTF-8&fr=top_ga1_sa&x=wrt
  このように表示されるのは、広告宣伝をしたい企業が検索エンジン運営会社から提供されたキーワードリストから連動を希望するキーワードを選択して、スポンサードサイトへの広告を契約するに際して、同業他社の商標を選択して契約しているためです。現状では、スポンサードサイトと表示されている欄への広告には、必ずしもユーザーの検索キーワードとバナー広告の関連性は問われないので、同業他社の潜在的顧客や、その商標に興味がある顧客を自社のサイトに誘導することが可能となっています。その関連付けについては、検索エンジン提供会社のサーバー(コンピュータ)で行なわれているため、購入したキーワード(他社商標)について、バナー広告の説明においてもリンク先のサイトにおいても検索したユーザーが視認できませんが、顧客誘引機能(出所表示機能)は発揮されている状態にあります。
2 キーワードバイと商標権侵害
  それでは、このようなキーワードバイによる顧客誘引について、商標権侵害を構成することはないのでしょうか。
  商標には、一般に出所表示機能、品質保証機能、宣伝広告機能があるとされています。出所表示機能とは、その商標が付された商品、役務の出所を需要者に認識させる機能をいい、この機能は、商標としての本質を構成する機能で、これを欠いた場合、品質保証機能や広告宣伝機能も発揮することができないとされています。キーワードバイは、商標の本質的機能である出所表示機能が利用されていると言えますから、この点から捉えると商標権侵害とすべき実質的理由があることになります。
  ところで、キーワードバイは、わが国や諸外国で商標権侵害とされているのでしょうか。関連する裁判例をご紹介したいと思います。

3 欧州司法裁判所2010年3月23日判決
  この判決は、フランスにおいて、商標「Eurochallenges」の独占的使用権を有する結婚紹介業者のCNRRH社が検索エンジン最大手のGoogle社とキーワードを購入した競業他社を商標権侵害及び不正競争を理由として訴えた事件の上告審裁判所が先決問題の判断を付託した欧州司法裁判所の判決です。フランスの第一審と控訴審は、いずれもGoogle社と競業他社の商標権侵害を認めていましたが、この判決は、広告主である競業他社については、取引上の商品またはサービスに関する使用であって、商標の機能を害するおそれがあるとして、商標権侵害の成立の可能性を肯定したものの、Google社については、商標の使用に該当しないという理由により、商標権侵害の成立を否定しました(井奈波朋子「検索連動型広告に関する欧州司法裁判所2010年3月23日判決」AIPPI55巻7号参照)。したがって、この判決によれば、欧州における商標法の解釈適用という場面におけるものでありますが、キーワードバイについて、スポンサードサイト内に商標と同一の標章が表示されていなくても、商標と同一の標章をキーワードとして採択して広告を表示させただけで、商品またはサービスへの標章の使用に該当しうるということになります。

  そして、欧州司法裁判所は、出所表示機能を害するおそれがあれば広告主に対してキーワードバイが商標権侵害を構成すると解釈し、出所表示機能を害するおそれがあるか否かの評価を国内裁判所に委ねましたので、欧州においては、国内裁判所の判断次第では、広告主について商標権侵害が成立することになります。

4 大阪地方裁判所平成19年9月13日判決
  この事件(平成18年(ワ)第7458号)は、不正競争行為を主位的請求とする事件ですが、「カリカセラピ」なる商標権を有するパパイア発酵食品販売業者(原告)が競業他社であるパパイア発酵食品販売業者(被告)に対して、商標権に基づいて、インターネット上のYAHOO!JAPANの検索エンジンにおける原告商標と同一のキーワードに連動する検索結果表示ページにおける広告スペースに自社の広告を表示してはならないこととその検索結果表示ページにおける広告スペースから自社の広告を抹消することを予備的に求めて提訴したものです。原告は、被告が広告を表示しているインターネット検索結果ページの広告スペースは、原告商標をキーワードとして表示されるスペースであり、原告商標と同一であることを理由に、原告商標を構成する文字を入力した結果表示されるインターネット上の検索エンジンの検索結果ページ内の広告スペースに被告が自社の広告を掲載することは、商標法37条1号に該当すると主張しました。しかしながら、判決は、原告商標をキーワードとして検索した検索結果ページに被告が広告を掲載することがなぜ原告商標の使用に該当するのか、原告は明らかにしないし、その被告の行為は、商標法2条3項各号に記載された標章の「使用」のいずれの場合にも該当するとは認め難いから、本件における商標法に基づく原告の主張は失当であるとして、これを排斥しています。
  確かに、この事件の原告の主張は、予備的請求であることもあってか、判決文に現れる限りでは舌足らずであり、その理由と条文に対する当てはめが十分ではなく、判決の結論はやむを得ないものと考えられます。この裁判例からすると、日本においては、前述した欧州と異なり、検索連動型広告における広告主について、キーワードバイが出所表示機能を害するおそれがあるかどうか検討する以前に,商標法2条3項各号所定のいずれの「使用」にも該当しないという理由により、その責任が否定されていることになります。

5 キーワードバイは、商標の使用と言えるか
  日本において商標権侵害を構成したと言えるためには、登録商標と同一又は類似の標章について、商標法2条3項に規定する使用の定義にあたる行為が行われたことが必要です。そして、キーワードバイは、インターネットにおける商品若しくは役務に関する広告について行なわれ、商標の顧客誘引機能(出所表示機能)を利用することを目的とするものですから、商標法2条3項のうち、第8号の「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」に該当するかどうかが問題となります。そして、「電磁的方法」とは、商標法2条3項7号の括弧書きにおいて、「電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。」と定義されています。
  そうすると、例えば、YAHOO!JAPANのスポンサードサイトのバナー広告が商標の検索結果の画面に表示される場合には、バナー広告自体に他社の商標が表示されておらず、検索エンジンの検索結果とバナー広告を結合させるのは、検索エンジン提供者のシステムであるので、侵害主体という観点から見れば、広告主である競業他社自体が「広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供」しているとは言えないと解され、商標の使用にあたる行為をしておらず、商標権侵害とはならないとなりそうです。

  しかしながら、キーワードバイにおいては、検索エンジン提供者も広告主である競業他社も商標の本質的機能である顧客誘引機能(出所表示機能)を意思を通じ合って利用しているのであり、不法行為を教唆したり、幇助する行為も共同不法行為とみなされることからすると(民法719条2項)、検索エンジン提供者と広告主は、共同で、商標法2条3項8号の「広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供」していると評価すべきであると考えます。商標の本質的機能を無断で利用した場合にその行為を違法と評価すべきとすることについては、「検索者が周知著名商標と混同するおそれを認識しながらキーワードを購入した結果、検索者が実際に商品を当該画面から購入した場合は、商標権侵害は成立しなくとも不法行為による損害賠償を認める余地がある」との指摘もなされており(外川英明「サイバー空間における商標の使用」パテント62巻4号205頁)、商標法2条3項8号の解釈においても、従来からの解釈に囚われたり、形式的に捉えたりせず、商標の本質的機能である顧客誘引機能が害される場合が入るようにすべきです。その場合、バナー広告のコンテンツは、「広告を内容とする情報」に該当し、その情報とキーワード(標章)による検索結果を検索システムにおいて連動させて表示させることは、「人の知覚によつて認識することができない電磁的方法によって提供」することに該当することは明らかです。残る問題としては、その情報を検索システムにおいてキーワード(標章)と関連づけることが「情報に標章を付す」に該当するかどうかですが、その機能に注目すれば、広告チラシに標章を印字して視覚的に注意を向けさせることと同じことをしているにすぎませんし、そもそも情報の提供方法も人の知覚によって認識することは要件とされていませんから、有形的に関連づけることも、無形的に関連づけることのいずれも「情報に標章を付す」に該当すると解すべきと考えます。

  このように解釈すれば、日本の商標法の解釈においても、欧州司法裁判所と同様にキーワードバイが商標権侵害を構成することになり、商標の保護と適正な利用を促進することになると考えます。

(H24.08作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)



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