発行日 :平成22年 1月
発行NO:No24
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】種苗法に関連する裁判例について
1 種苗法について
  皆さんは、種苗法という法律をご存じでしょうか。種苗法は、新品種の保護のための品種登録に関する制度、指定種苗の表示に関する規制等について定めることにより、品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り、もって農林水産業の発展に寄与することを目的とする法律で、昭和53年に品種名称の使用についてだけ独占権を付与していた農産種苗法の全面改正により制定されたものです。種苗法の制定により、植物の新品種の利用自体に独占権が認められ、特許制度と類似した品種登録制度によって品種そのものの登録ができるようになりました。

  植物の新品種の保護については、UPOV条約(1991年改正)という国際条約がありますが、条約に基づいて国内法の整備が求められることになり、平成10年の改正種苗法によって、対象植物の拡大及び保護期間の延長などが図られると共に、「育成者権」が権利として明確に位置づけられ、さらに、平成15年には、登録品種の収穫物段階における権利侵害を罰則の対象とするなどの改正が、平成17年には、登録品種の収穫物から生産される加工品のうち政令で指定されるものの生産、譲渡等の行為に育成者権の効力を及ぼすなどの改正がそれぞれ行われています。そして、平成19年には、育成者権を侵害された者の救済を図る制度を充実させるため、刑事罰の強化が図られると共に、特許法に規定されているの同様の損害額の算定方法の追加、具体的態様の明示義務の法定、裁判所による相当な損害額の認定や書類提出命令に関する規定などが整備・導入されました。

  この間、食用作物を生産する事業の拡大やバイオテクノロジーの進展もあって、現在では、植物の新品種についての育成者の権利は、知的財産権のひとつとして、重要性を増しています。

2 品種登録と育成者権について
  品種登録を受けようとする育成者は、農林水産大臣に対して所定の願書等を提出し、審査を経た後、登録要件が満たされている判断されれば、品種登録が認められて、育成者権が発生します。ここで品種とは、重要な形質に係る特性の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ、かつ、その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる一の植物体の集合をいうと定義されています。そして、新品種の登録要件としては、区別性、均一性、安定性、未譲渡性、品種名称の適切性などが規定されています。  種苗法では、植物の新たな品種の育成をした者は、その新品種を登録することで、登録品種及び当該登録品種と特性により明確に区別されない品種を業として利用する権利を専有する旨が規定されており、この権利のことを育成者権と言います。育成者権の対象となる植物は、栽培される全植物と政令で指定されるきのこであり、例えば、北海道において育成されている

        いんげん豆 「雪手亡(ユキテボウ)」

栃木県で育成されている

        いちご 「とちおとめ」

などがあります。育成者権の権利存続期間は、果樹、林木、観賞樹などの木本生植物は、登録日から30年、その他植物は、登録日から25年とされています。育成者権については、特許制度と類似する優先権、専用利用権、通常利用権、先育成による通常利用権、裁定制度、職務育成品種の各規定が設けられ、@定められた期間内に各年分の登録料不納付の場合A品種登録の要件を具備しないことが判明した場合B植物体の特性が保持されていない場合には、品種登録が取り消されることがあります。
  また、育成者権の侵害に対しては、差止、損害賠償などの民事の救済措置が認められています。

3 種苗法関連の裁判例について
  種苗法は、昭和53年に制定されていましたが、品種登録件数自体が少なかったことも影響して、最初は、公表される裁判例はほとんどありませんでした。しかし、平成になってからは、徐々に公表される裁判例が見られるようになり、知財高裁や最高裁にまで係争が持ち込まれるケースも出現しています。今回、種苗法関連で公表されている裁判例を検索したところ、「種苗法関連裁判例一覧表」記載の9件がありました。審級の異なる複数の裁判所で判決のなされたケースもありますので、係争事件としては6件ということになりますが、りんどうの育成者権が問題となった1件を除き、すべてキノコがらみの係争事件でした。日々の食卓に供給され、事業化がすすんでいることから、特許などの産業財産権と同様に企業間の競争が活発になされていることの影響と言えますが、今後もキノコがらみの事件が増えるのではないかと考えられます。

  それぞれの事件では、いろいろな争点があったようですが、ライセンス契約に関連する事件で育成権者が勝訴しているのが目立ちます。また、特許で認められているのと同様の「品種登録無効の抗弁」が認められた裁判例や侵害品種と登録品種の同一性が問題となった裁判例も見られます。育成者権の侵害が問題となるケースでは、これらの裁判例を参考として、事実の確認と証拠の収集をしておく必要があると考えられます。

4 育成者権の保護強化に向けた取り組み
  植物体を保護対象としている育成者権は、機械などの工業製品を主たる対象とする産業財産権と異なり、品種の入手や保管などにおいて、権利行使が難しい面があります。そこで、農林水産省では、育成者権の保護強化のために、権利者を支援する種々の措置を講じています。具体的には、独立行政法人種苗管理センターにおいて、@登録品種と侵害被疑品種がどの程度似ているかを判定する「品種特性試験」A侵害被疑品種の入手経路、入手物証明のために、職員が立ち会ってその状況を記録する「侵害状況記録の作成」B訴訟などでの立証準備のための「侵害被疑種苗等の寄託」C先使用権立証のための「植物体等の寄託」の各事業が実施されています。

  育成者権をめぐる係争が発生し、または係争の発生を予防しようとする際には、訴訟に備えて弁護士に相談すると共に、これらの制度の活用も検討すべきと考えます。
以 上

(H22.1作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)


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