実用新案権者又は専用実施権者は,その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ,自己の実用新案権又は専用実施権の侵害者等に対し,その権利を行使することができない。
「実用新案技術評価書提示前に,実用新案権の存在を知り,または知りうべきでありながら,それに対する何等の調査・検討をすることなく模倣品たる侵害品を販売等した場合で,かつ技術評価書で高い評価を得ている実用新案権が対象となっている場合」
大阪地裁平成18年4月27日判決(以下「山田平成18年4月判決」という) (同年15年(ワ)第13028号,判時1953号157頁) 大阪地裁平成19年11月19日判決(以下「山田平成19年11月判決」という) (平成18年(ワ)第6536号,同第12229号,知的財産判決速報392巻)
「相手方が当該実用新案権の存在を知らない場合はもとより,たとえ相手方が当該実用新案権の存在を知っていたとしても,そのことから直ちに,その後の侵害行為について相手方に過失があるということになるものではなく,既に特許庁が作成した技術評価書の内容を知っている等の特段の事情がない限り,相手方において,当該実用新案権の侵害について過失があるということはできないものと解すべきである。」
「既に特許庁が作成した技術評価書の内容を知っている等の特段の事情がない限り,相手方において,当該実用新案権の侵害について過失があるということはできない」
【〔1〕原告会社は平成15年4月2日には本件考案の実施品の販売をしていたこと (甲30), 〔2〕本件実用新案権は平成15年7月16日に登録され,その登録実用新案公報は 平成16年1月8日に発行されたこと(甲1), 〔3〕業界紙である「ペット産業情報新聞 ペット&Life」第57号(平成16年4月号)では,原告会社の実施品が「切れ味で売れる」「本格工具の技術と材質」の見出しの下で紹介され,その記事中には「実用新案登録製品」と記載されていたこと(甲32), 〔4〕ペット専門通信販売総合カタログである「通販クラブ2004 春・ 夏号」にも原告会社の実施品が掲載されたこと(甲33)が認められる。】
【原告会社の実施品がどの実用新案権に係るものであるのかは記載されておらず,その技術的評価書の内容についてはなおさらである。そうすると,原告廣田が初めて被告に対して本件実用新案権の技術評価書を提示して本件警告をした平成18年2月8日以前の時点で,前記特段の事情があるとは認められず,したがって,被告の同日以前のイ号物件の輸入販売行為に過失があったとは認められない。】
「実用新案権が実体的要件についての審査を経ずに付与される権利とされたことから,権利の濫用を防止するとともに第三者に不測の不利益を与えることを回避するため,権利者は,権利の有効性に関する客観的な判断材料である実用新案技術評価書(12条)を提示した後でなければ権利行使を認めないことを規定したものである。これによって,権利者による権利行使が適切かつ慎重なものとなるため,瑕疵ある権利の濫用を防止することが可能となる。」
【控訴人の主張2については,要するに,実用新案法29条の2によって,実用新案権者が,損害賠償請求権等の権利行使をするに当たって実用新案技術評価の請求をし,「1」から「6」までのいずれかの評価を受けること,及び警告時実用新案技術評価書を提示して,該「1」から「6」までのいずれかの評価を受けたか相手方に知らせることを義務付けられているから,実用新案技術評価は,その内容いかんにかわらず,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められている「処分」であるというものであると解される。しかしながら,実用新案法29条の2は,「実用新案権者又は専用実施権者は,その登録実用新案に係実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ,自己の実用新案権又は専用実施権の侵害者等対し,その権利を行使することができない。」と定め,実用新案技術評価書を提示することを,実用新案権の権利行使の一要件としているにすぎないのであり,当該に記載された実用新案技術評価が「1」から「6」までのいずれかの評価であること(例えば,評価6であること)は,該権利行使の要件とはされていない。すなわち,実用新案技術評価自体は,実用新案権者の右権利行使に何ら影響を及ぼすものでないのである。】
【実用新案技術評価書を提示することを,実用新案権の権利行使の一要件としているにすぎないのであり,当該に記載された実用新案技術評価が「1」から「6」までのいずれかの評価であること(例えば,評価6であること)は,該権利行使の要件とはされていない。】
「この規定に反し,実用新案権技術評価書を提示せずに行った警告は,有効なものとは認められず,その状態で侵害訴訟を提起しても,直ちに請求が却下されるわけではないが,評価書が提示されない状態のままでは,権利者の差止請求,損害賠償請求等は認容されないものと解される」 (工業所有権法逐条解説[第15版]678p)。
「判旨は,侵害者の過失認定にあたっては,現実に本件実用新案権の存在を認識する必要性があるとの考えを採用していると理解されよう。」(今西論文p1955左段4段落目) 「考案を実施する者は,その実施を通じて経済的利益を追求する事業者であることから,実用新案権侵害の危険性を認識しうる限り,実用新案権公報調査義務を課すのはさほど酷ではないと考えられること,及び,平成11年3月末の特許電子図書館開設により,従来と比較して,実用新案公報の調査が容易になったことを考慮すれば,学説が主張するとおり,過失認定にあたって侵害者の認識は,権利侵害を『認識し得る』程度でも十分ではなかったか」 (今西論文p1955右段落2段落目)