発行日 :平成17年 7月
発行NO:No15
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】論説〜特許の成立や効力を争う手段〜
■ 特許の成立や効力を争う手段

   特許は、発明を公開する代償として一定期間独占権を付与する制度ですから、すべての特許出願は、出願後1年6か月を経過すると、その内容が公開されます。公開された特許 出願については、特許公開2005年第○○○○○○号という「公開番号」が付与され、「公開特許公報」に掲載されて、特許庁のホームページその他のデーターベースで検索す ることが可能となります。そして、特許の出願人は、出願後、その特許出願にかかる発明を実施した製品を発売するのが通常であり、その際、その製品には「特許出願中」と表示 して、他社が同一または類似の発明を実施することを牽制しようとします。このような状況で他社が競合する製品を発売することを企画した場合には、先に出願された特許出願に ついて、特許の成立を阻止することが必要になります。
また、特許出願が審査の結果、特許として登録された場合には、特許第○○○○○○○号という「特許番号」が付与され、「特許公報」に掲載されて、特許庁のホームページそ の他のデーターベースで検索することが可能となります。この時点で、その特許に触れるような製品を販売している他社が特許されるべきでない特許出願が審査官の審査をくぐり 抜けて特許されていることを発見する場合もあります。
現行の特許法は、これらの場合に、他社の特許の成立や効力を争う手段として、審査の進行具合に応じて、@情報提供、A無効審判の各制度を設けています。

■ 情報提供制度

  情報提供制度は、昭和45年に出願公開制度が導入された際に、審査の的確性及び迅速性の向上に資することを目的として、公開された案件に関する情報提供制度として、特許 法施行規則に規定されたものですが、平成6年の特許法改正で権利付与前の特許異議申立制度が権利付与後の特許異議申立制度に移行した際に、提供できる情報の種類が拡大され ています(特許法施行規則13条の2)。また、平成15年の改正特許法で異議申立制度が無効審判制度と統合・一本化され、新しい無効審判制度となった際に、権利付与後の情 報提供制度も規定されるに至っています(特許法施行規則13条の3)。

@ 公開された案件に関する情報提供制度
  出願公開がされた特許出願であって審査が終了していないものについては、公開公報や刊行物等を提出することにより、その出願が新規性を有しない、又は進歩性を有しない 等の情報を特許庁に提供することができます。情報提供は、誰でも、その出願が審査請求されているかどうかを問わずにすることができ、匿名での情報提供も認められています。 情報提供は、公開公報や刊行物等を添付した書面(刊行物等提出書)により、その出願が新規性を有しない、又は、進歩性を有しない等の旨の情報を特許庁に提供する方法で行な います。提出できるのは書類に限られますので、ビデオテープや製品自体の提出はできませんが、カタログ、講演原稿、実験成績証明書等の証明書類なども提出できます。情報提 供があった事実は出願人に通知されます。提供された情報は、第3者の閲覧に供され、これが審査に利用されたかどうかについては、提供の際にフィードバックを希望しておけば 、後日、特許庁から提供された情報が拒絶理由通知に利用されたかどうか等の連絡がなされることになっています。
公開された案件に関する情報提供制度を利用することにより、自社の事業展開に障害となる他社の特許が審査官の見落としや誤解などによって成立する可能性が低くなりますの で、特許調査などの結果、問題となる特許出願が発見された場合は、積極的に活用するのが得策と思われます。

A 権利付与後の情報提供制度
  特許の設定登録後はいつでも、出願中と同様に、公開公報や刊行物等を提出することにより、その特許が新規性を有しない、又は進歩性を有しない等の特定の無効理由に限って 、情報を特許庁に提供することができます。情報提供できる者、提出することができる対象物、情報提供の方法、第3者の閲覧なども、公開された案件に関する情報提供制度と同 じです。
権利付与後の情報提供は、審査の終了後に行うものであるので、特許付与をただちに阻止することができるものではありませんが、提供情報の内容は、記録原本又は紙書類とと もに保管され、無効審判、訂正審判があったときに、これらの記録と共に、審判官に配布され、これにより、審判官が適切と認めた場合は、審判審理において職権審理の対象とす ることもできます。また、特許庁は、特許権者に対し、情報提供があった旨の通知を行いますので、情報提供の内容が特許権者にとって不利なものであった場合には、訂正審判の 請求を検討したり、特許権者は”やぶへび”になるのを虞れて、権利行使をためらうという副次的効果を得ることができます。

■ 無効審判制度

  特許権は、第三者に侵されることのない強力な権利ですので、本来特許を与えるべきでないのに与えられていることが判明したときは、その権利を無効とする手続のあることが 必要です。無効審判は、本来拒絶されるべき他人の出願が誤って特許されているときに、特許庁に対して、特許権を無効とする処分を求める請求を行なうことができる制度です。 特許無効審判は、その利害関係人がいつでも、@新規性又は進歩性の欠如、A補正時における新規事項の追加、B明細書や請求項の記載不備、C公序良俗違反等の実体的特許要 件の欠如や、D権利の帰属に関する瑕疵を理由として、請求することができます(特許法123条)。無効審判請求は、請求期間の制限がなく、権利消滅後でも請求可能とされる 反面、解釈上、請求人には利害関係が必要とされており、匿名での審判請求も認められていません。

  特許無効審判の審理は、3人または5人の審判官の合議体によって行われますが、特許出願が拒絶された場合の査定系の不服審判が出願人と特許庁との間の書面審理になるのに 対して、無効審判は、当事者系であり、請求人と権利者の各主張・立証に基づき、原則として双方が出頭する対審構造の口頭審理の方法による攻撃防御が行われます(特許法14 5条)。無効審判では、相手方の書面が送達された場合には、その主張内容等に反論することが可能で、審理の結果、無効であるとの判断になれば、特許無効の審決がなされ、無 効理由がないとの判断になれば、特許維持(請求不成立)の審決がなされて審判は終了します。どちらの審決に対しても、原則として決定謄本送達の日から30日以内に知的財産 高等裁判所に、その当否を判断する審決取消訴訟を提起することができます。特許無効の審決が確定した場合は、いったん登録されていた特許権は消滅し、最初から存在しなかっ たことになります(特許法125条)。
なお、特許権者は、無効審判請求で指摘された無効理由を解消するため、答弁書提出期間内に限って明細書または図面の訂正をすることができるとされています(特許法134 条)。

  無効審判請求は、審査に際して情報を提供して間接的に特許の成立を阻止する情報提供と異なり、第三者が利害関係人として直接的に特許庁の処分の当否を争うことのできる最 初の手段であるので、常に特許公報をウオッチングして、自社の事業分野について同業他社に上記無効理由のある特許が成立していた場合には、費用や便宜の点から権利付与後の 情報提供をしない限り、無効審判請求をして、その特許の効力を争っておく必要があると思われます。



(H17.7作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)


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