1)基礎とした実用新案権、実用新案登録に基づく特許出願について
@ 実用新案権に基づく特許出願をする場合、その特許出願の基礎とした実用新案権を「放棄」する必要があります。「放棄」は請求項毎に行うことができません。
A 実用新案登録に基づく特許出願及び上記基礎となる実用新案登録の「放棄」に際し、基礎となる実用新案権に専用実施権者等が存在する場合は、承諾が必要となります。
B 実用新案登録に基づく特許出願を行う際に、基礎としようとする実用新案権が既に「消滅」している場合は当該実用新案権を放棄できないので、実用新案登録に基づく特許出願を行うことができません。
C 実用新案登録に基づく特許出願後に基礎とした実用新案登録が無効審判で無効になった場合においても、実用新案登録に基づく特許出願は、何らの影響も受けません。
D 1つの実用新案権からは、複数の実用新案登録に基づく特許出願を行うことができません。
E 実用新案登録に基づく特許出願に際し、代理権として特別な授権を要します。
F 実用新案登録に基づく特許出願は、優先権主張の基礎出願とすることはできません。
2)出願時の遡及について
@ 実用新案権に基づく特許出願は、その願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」と記します)に記載した事項が、基礎とした実用新案登録の範囲内にある場合に限り、基礎とした実用新案登録に係る実用新案登録出願の時にしたものとみなされます。
A 「訂正」があった場合は、訂正後の明細書等が願書に添付した明細書等となります。
B 出願時が遡及しない場合は、基礎とした実用新案登録の実用新案掲載公報により、その実用新案登録に基づく特許出願が拒絶されます。
4)時期的制限について
@ 実用新案登録出願の日から3年以内に限られます。
A 「遠隔又は交通不便の地にある者」に対して請求又は職権による追完規定があります。
B 実用新案登録に基づく特許出願の日から「30日」以内に出願審査請求をすることができます。
5)実用新案技術評価の請求による制限について
@ 実出願人又は権利者による実用新案技術評価の請求(一部であっても全ての請求項であっても)の後は、その評価請求された実用新案登録に基づく特許出願ができません。
A 他人による実用新案技術評価の請求があった場合は、請求があった旨の最初の通知を受け取った日から「30日」を経過するまでに、その評価請求された実用新案登録に基づく特許出願をすることができます。また、この期間中に「訂正」を行うことができます。
B Aにおいて実用新案登録に基づく特許出願がされた場合は、他人による請求がされなかったものとみなされ、その旨請求人に通代が返還されます。
6)無効審判請求による制限について
@ 実用新案登録に対する無効審判の請求があった場合、最初に指定された答弁書の提出期間経過後は実用新案登録に基づく特許出願ができません。
A 無効審判請求後に、実用新案登録に基づく特許出願がされた場合は、請求人にその旨通知され、通知を受けた日から「30日」以内に請求人がその無効審判の請求を取り下げたとき(答弁書提出後であっても相手方の承諾を要しない)は、請求印紙代が請求により返還されます。
※参加人は、参加の申請を取り下げて、請求することにより参加申請手数料が返還されます。
B 基礎とする実用新案登録に対する無効審判(実用新案権が存在していた時期に対する無効審判)自体は制限されていません。
7)変更出願の制限について
@ 実用新案登録に基づく特許出願を行った後に、再度の実用新案登録出願への「変更」することはできません。
A 実用新案登録に基づく特許出願の「分割」出願についても再度の実用新案登録出願への「変更」することはできません。
B 実用新案登録に基づく特許出願から「変更」された意匠登録出願についても、実用新案登録出願への再度の「変更」が禁止されます。
(3)注意点
「訂正の許容範囲の拡大」の制度導入にあたり、次の制限等があります。
1)訂正の範囲について 新規事項の追加、及び実用新案登録請求の範囲を実質上拡張・変更するような訂正は禁止されます。
2)訂正の時期と回数について @ 実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とする訂正は、「実用新案権の設定登録後、最初の評価書の謄本の送達のあった日から2月を経過するまで」、又は「無効審判について最初に指定された答弁書提出可能期間を経過するまで」に行うことができます。
A @の期間において全期間を通じて1回のみ行うことができます。
B 請求項の削除を目的とする訂正は、従来通り、原則いつでも何回でも行うことができます。
C 訂正した明細書等の補正は、補正命令を受けた場合以外は、補正できません。
3)訂正後の明細書等の基礎的要件について @ 実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とする訂正後の明細書等について、「考案」であるか否かの基礎的要件を満たしていないときは補正対象となります。
A 補正を命じられた場合、その期間内に補正をしないときは訂正が却下されます。
4)無効理由について 実用新案制度において要件を満たさない訂正がされた場合は、無効審判を請求することができ、要件を満たさない訂正がされた実用新案登録が無効とされます。