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発行日 :平成17年 7月
発行NO:No15
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【3】論説〜地域ブランドの保護について〜
1.法改正の背景
従来より、地域の事業者が協力して、事業者間で統一したブランドを用いて、当該地域と何らかの関連性を有する特定の商品(例えば農産物や伝統工芸品など)の生産や役務の提供を行い、地域経済の活性化を図る取組みが行われています。
このような取組みにおいては、商品・役務の種類によって若干の違いはあるものの、事業者間で統一的に使用するブランドとして、「地域名」と「商品(役務)名」を組み合わせた商標が多く用いられている実態があります。
しかし、現行商標法上、「地域名」と「商品(役務)名」を組み合わせた商標は、一定の要件を満たす場合を除き、自他商品識別力を有しないという理由により、商標登録を受けることができないのが原則です(商標法3条1項3号)。
そのため、「地域名」と「商品(役務)名」からなる商標の登録を受けることができるのは、
@ 使用の結果、全国的な需要者との関係において出所識別機能を有するに至った場合
(商標法3条2項)、
A 他の識別力のある図形や文字を組み合わせた場合、
に限られていました
(1)
(2)
。
2.現行制度の問題点
しかし、商標法3条2項の適用が認められる程、全国的な範囲の需要者との関係で出所表示機能を有するようになるためには、通常、長期の営業努力が必要となるため、全国的な知名度を獲得し、文字商標として登録できるまでの間、第三者の使用を排除できないという問題があります。
また、図形等を組み合わせた場合は、他者が当該図形等の部分を意図的に別の図形等に変えて地域ブランドを使用する場合や、単に文字のみで当該地域ブランドを使用する場合に商標権の効力を及ぼし得ないことになります。
そこで、今般、「地域名」と「商品(役務)名」からなる商標について、一定の範囲で周知となった場合には、事業協同組合等が地域団体商標として登録することを認める「地域団体商標制度」を創設した「商標法の一部を改正する法律案」が成立し、平成17年6月15日に法律第56号として公布されました。この法律は、平成18年4月1日から施行されます。
3.どのような商標が地域ブランドとして保護されるか
a)出願人が備えるべき主体要件(第7条の2第1項)
イ.出願人は、法人格を有する団体であって、かつ、事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合等である必要があります。例えば、事業協同組合、農業協同組合、漁業協同組合、水産加工業協同組合などが該当します。
ロ.また、出願人は、設立根拠法において、正当な理由がないのに、構成員たる資格を有する者の加入を拒み、又はその加入につき現在の構成員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付してはならない旨の定めのある組合等である必要があります。
ハ.出願人は、出願に際して、自己が登録要件を満たす法人であることを証明する書面を特許庁長官に提出する必要があります(第7条の2第4項)。
b)構成員に使用をさせる商標であること(第7条の2第1項)
イ.地域団体商標は、構成員を有する団体が、構成員に使用をさせる商標であることが要件となっています。この点は、通常の団体商標制度(商標法7条)と同じです。
c)周知性の要件(第7条の2第1項)
イ.出願された商標が、出願人又はその構成員の業務に係る商品(役務)を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることが必要です。 周知性は、@商標の使用期間、A商標の使用地域、B商品(役務)の生産・販売等の数量、C営業地域、D広告宣伝の回数・内容、E一般紙・業界紙における記事の掲載回数等から総合的に判断されると考えられますが、法改正の趣旨からすると、商標法3条2項の適用で求められるレベルよりは低くなり、 例えば、隣接都道府県に及ぶ程度の範囲の浸透で足りるものと考えられます。
d)商標が地域の名称及び商品又は役務の名称等からなること(第7条の2第1項各号)
イ.地域団体商標として登録を受けられる商標は、以下の構成を有する商標である必要があります。逆に、地名のみからなる商標や、図形等が入った商標は、地域団体商標として登録を受けることはできません。
1 地域の名称及び商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
→ 具体例:信州味噌、夕張メロン、佐賀牛、三輪素麺など
2 地域の名称及び商品又は役務を表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
→ 具体例:西陣織、有田焼、輪島塗など
3 1又は2の文字に商品の産地等を表示する際に付される文字として慣用されている文字であって、普通に用いられる方法で表示するものを加えた商標
→ 具体例:伯方の塩
e)地域と商品との密接関連性(第7条の2第1項、第2項)
イ.商標中の「地域の名称」は、出願人又はその構成員が出願前から出願に係る商標の使用をしている商品又は役務について、@その商品の産地、Aその役務の提供の場所、又は、@、Aに準ずる程度にその商品若しくはその役務と密接な関連性を有する地域の名称であることが必要です。 例えば、農産物の場合は、商品がその地域の生産物といえるか、工芸品の場合は、主要工程がその地域でなされているか等が審査されます。
ロ.出願人は出願に際して、出願に係る商標が地域の名称を含むものであることを証明する書面を特許庁長官に提出する必要があります(第7条の2第4項)。
f)その他の登録要件
地域団体商標の商標登録出願が登録を受けるためには、地域団体商標の固有の登録要件(第7条の2第1項)のほかに、通常商標や団体商標について要求される一般的な登録要件(第3条1項1号又は2号、同法4条等)も満たしていることが必要です。
但し、地域団体商標の固有の登録要件(第7条の2第1項の要件)を満たす出願は、第3条1項3号から6号までの規定によっては、拒絶されないこととなっています(第7条の2第1項柱書き)。
なお、地域団体商標の場合、地域の名称と商品(役務)からなる商標は、需要者に、その地で生産又は提供される商品(役務)と認識させやすいものであるため、地域外で生産・提供される商品(役務)に使用される場合には、品質を誤認させることが考えられます(商標法4条1項16号)。そのため、地域団体商標の指定商品(指定役務)については、商標法4条1項16号の拒絶理由が通知されて、地域と商品(役務)の関係を明示することを求められるケースが多いと考えられます。 → 具体例:商標「夕張メロン」について地域団体商標の出願をする場合は、指定商品を「夕張産のメロン」とする。
4.主体的要件についての問題点
地域ブランドに対して商標権を与えることは、本来、その地域の事業者が自由に使用できたはずの「地域名」と「商品(役務)名」を組み合わせた商標の使用を特定の団体に独占させることを意味します。そのため、加入の自由性を確保するため、今回の改正では、地域団体商標の出願人は、構成員たる資格を有する者の加入を拒み、又はその加入につき現在の構成員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付してはならない旨の定めのある組合等であることが要件とされています(商標法7条の2第1項)。
しかし、例えば、地域団体商標を出願した団体には加入していないが、その団体の商品と品質が同等な商品を生産しているアウトサイダーの事業者が相当程度の割合で存在する場合は、果たして出願人が地域団地商標を付与すべき正当な団体といえるかの判断が難しくなることが予想されます。また、そのような、そもそも正当権利者の特定が難しいケースにおいて、地域団体商標の商標権を取得した団体が、品質が同等の商品を生産している有力なアウトサイダーに対して、商標権の行使という強力な手段で、地域ブランドの使用の禁止を求めたり、当該団体への加入を強要するような問題が発生することもあり得ます。
今回導入された地域団体商標制度は、地域の複数の事業者の努力により地域ブランドが一定の品質保証機能を発揮している場合に、その品質保証機能による信用を今までよりも早期の段階から保護することに意義があるものと考えます。区別が難しいケースも多いと思いますが、仮に産地表示として機能しているだけだとすれば、それは地域団体商標ではなく、単なる産地表示の使用の可否の問題に過ぎなくなります。産地表示について商標権の効力を制限する商標法26条の規定は改正法においてもそのままの形で存在し、また、地域団体商標に対しては周知性の要件を課すことなく先使用権が認められる商標法32条の2が今回の改正で規定されましたので、これらの規定を柔軟に適用して、地域団体商標の権利者の利益とともに、正当な第三者による地域ブランドの使用を適切に保護することも考えていく必要があります。
備 考
(1)
商標法3条2項が適用されて登録が認められている例としては、以下のものがある。
商標登録第2591067号
商標権者:夕張市農業協同組合
指定商品:メロン
商標登録第976092号
商標権者:西陣織工業組合
指定商品:羽織等
商標登録第457925号
商標権者:長野県味噌工業協同組合
指定商品:味噌
(2)
図形等を組み合わせることにより登録されている例としては、以下のものがある。
商標登録第4734753号
商標権者:小田原蒲鉾水産加工業協同組合
指定商品:かまぼこ
商標登録第4619615号
商標権者:三ヶ日町農業協同組合
指定商品:冷凍みかん等
(H17.7作成: 弁理士 山本 進)
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