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発行日 :平成30年 1月
発行NO:No40
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【1】終活のための遺言書について〜
1 高齢化社会と終活
我が国の総人口は、平成29年7月1日現在、1億2,678万人であり、そのうち65歳以上の高齢者人口は、前年同月から58万人増えて、過去最高の3,501万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)も27.6%となっています。このように我が国は、社会の高齢化が急速に進行中であり、19年後の平成48年には、実に3人に1人が65歳以上という,超高齢化社会が到来すると予測されています。
高齢化社会の進行と共に、いわゆる終活の必要性が叫ばれています。終活とは、葬儀や墓など人生の終焉に向けての事前準備のことで、「人生のエンディングを考えることを通じて”自分”を見つめ、”今”をよりよく、自分らしく生きる活動」のこととも言われています。終活では、エンディング・ノートを書くことが実践されていますが、存命中や死後の家族の負担を減らす情報提供を目的として記述されるものであって、法律的効力やそのために必要な方式には配慮されていないことも多く、自分の死後の紛争予防や意向の実現という観点では不十分な場合が少なくありません。本稿では、終活の一貫として作成する遺言書について、どのような点に注意したら良いか、終活のための遺言書を作成する際のポイントを紹介します。
なお、存命中の家族の負担を減らす制度として、「任意後見契約」などがありますが、こちらについては、以前の
事務所報No32
をご覧ください。
2 遺言書はいつ作成するか
まず、遺言書の作成時期ですが、これは早ければ早いことが望ましく、終活に着手したならすぐに作成すべきです。最近は遺言書を作成する人が増えている傾向にありますが、いずれ作成した方が良いとは感じていても、すぐに作成することに抵抗感をもっている人が多いようです。また、遺言内容のいくつかは決まっていても、一部に決めかねている事項があったり、分割の方法や配分について考えが変わったりすることを慮って、先延ばしにすることもあります。しかし、誰でも歳を取ると,次第に物事を判断する能力が衰え、ひどくなると、認知症(老人性痴呆)と言われるような状態となることがあります。また、突然、病気になって入院をし、高次脳機能障害となって、「判断」する機能自体が失われることもあり得ます。このような状態になった場合には、法律的に遺言能力を欠くとされ、もはや遺言書を作成することはできません。したがって、遺言書は、いくつか決めた内容だけでも、比較的若い元気なうちに作成しておいた方が安心です。仮に作成した遺言の内容を変えたくなったら、また何度でも書き直せばよく、内容の異なる部分は、新しい遺言書のもののみが効力をもつことになるので、心配はありません。そして、相続財産や相続させる者の増減が予想されるような場合であっても、包括的な文言を使ったり、予備的遺言事項を追加したりすることにより、再作成しなくて済むようにする工夫も可能です。
3 どのような種類の遺言書を作成するか
遺言書の種類には、大きく分けて@自筆証書遺言、A秘密証書遺言、B公正証書遺言があります。 自筆証書遺言は、誰にも相談せず、手軽に作成できて、費用もかからないため、一般には、それでいいと思いがちです。しかし、全部自筆で書くことと、日付と署名捺印が必要なので、後日、日付がない、押印がない、一部ワープロで作成されているなどの不備による紛争がおきやすいという欠点があります。また、公証人が関与しないために、表現内容が不明確となりやすく、遺言者の意思に反して無効となるリスクもあります。そして、作成時に簡便で費用がかからない点についても、自分の死後に相続人が家庭裁判所に検認の申立てをしなければならず、必ずしも簡便で費用がかからない遺言とは言えません。さらに、自分だけで作成可能なので、後日、紛失しないように保管に留意する必要があり、自分の死後に発見されないリスクもあります。
次に、秘密証書遺言は、内容を秘密にしておけるという利点はありますが、内容には公証人が関与しないので、遺言が無効となるリスクがあること、紛失したり、発見されなかったりするおそれがあることは、自筆証書遺言の場合と同じです。作成自体に公証人及び証人2名の関与が必要であることもあって、あまり普及していません。
他方、公正証書遺言は、公証人が証人2名の立会いの下で作成しなければならないため、公証人の手数料が必要で、手続きが面倒であるという欠点がありますが、公証人は法律的に有効な遺言を作成する職責があるため、内容や要件の不備によって無効となるリスクがありません。また、公正証書遺言の原本は、公証役場で長年にわたって保管され、死後、相続人の依頼によって全国の公証役場で作成されていないか検索する手続も整備されています。そして、公正証書遺言は、他の種類の遺言と異なり、家庭裁判所での検認手続が不要であり、相続人の負担が最も少ないという利点があります。これらのメリット・デメリットを総合すれば、終活に際して遺言書を作成する場合は、残された家族に家庭裁判所の手続を強いず、法律的にも確実である公正証書遺言を選択するのが最も適切と思われます。
4 どのような内容の遺言をしておくべきか
終活に際し、遺言書の作成に取り組む場合、どのような内容の遺言をしておくべきなのでしょうか。公正証書遺言には、遺言の内容を実行しやすいように、記載すべき事項がいくつかあります。終活は、死後の家族の負担を減らすことを目的とするものですから、少なくとも次の3項目を盛りこむことが必要と言えます。
@ 遺産のすべてについて誰に引き継ぐか記述する
遺言をする場合、預貯金や不動産の明細を記載し、誰にどの遺産を引き継ぐかを決めて おくことだけで、死後の遺産分割協議が不要になるわけではありません。遺産には、預貯金や不動産以外にも、現金、家財道具、受取人の指定のない生命保険金、損害賠償請求権、債務もありますので、これらについて記載がない場合には、別途遺産分割協議が必要になります。預貯金や不動産の分け方だけで特定の相続人を厚遇しても、他の遺産について決めておかなければ、残りの遺産で調整して金額的には法定相続分どおりになりになってしまいます。このような事態を避けるために、「ここに記載した財産以外については、〇〇に相続させる」という遺言に明示されていない遺産の帰属を指定する遺言を作成しておくべきです。
A 遺言執行者を指定する
遺言では、預貯金の払戻や不動産の相続登記を実行する遺言執行者を指定することができます。遺族の負担を減らし、確実に遺言の内容を実行したい場合には、相続人を代表して遺言を実行する人として、遺言執行者を指定しておくことが必要です。遺言執行者は、相続人自身を指定することも可能ですが、第三者である弁護士を指定するのが適切です。
B 遺言を実現するための権限と費用に配慮する
遺族の負担を減らすためには、遺言執行者の指定をするとともに、預貯金の解約、債務・葬儀費用・遺言執行費用の支払、相続税の納付など遺言の実行に必要な権限を遺言執行者に与えるように記載しておくことも肝要です。預貯金の解約権限について記載がない場合、 一部の相続人から預貯金払戻の差止を求められるなどの事情があると、金融機関が全員の捺印と印鑑証明書の提出を求められるリスクもあります。相続争いから中立で公正な第三者からの申し出であれば、金融機関もより払い戻しに応じやすくなると言えます。
その他、終活に取り組まれる方には、いろいろな事情があると思います。個別の点については、遺言書の作成や遺言執行の実務経験があり、相続争いについての調停や審判を代理人として携わっている弁護士に相談することが肝要です。ネットに溢れる営業的な情報や書式を安易に利用せず、そのような弁護士に相談すれば、個々の事情に沿って記載すべき事項について具体的なアドバイスを受けることができるので、残された遺族の負担を減らし、紛争になりにくい法律的に確実な公正証書遺言を作成することができます。上記3項目を盛りこむ以外に、弁護士に早めに相談し、具体的な案文の提案を受けることが最善の対応と思われます。
以 上
(H30.1作成: 弁護士 溝上 哲也)
→【2】論説:近年の商標の判例について(その2)〜
→【3】論説:交通事故に遭った場合の初期対応について〜
→【4】記事のコーナー:PCT規則の改正について〜
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