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事務所報No.37,INDEX
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発行日 :平成28年 7月
発行NO:No37
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【3】老齢時の将来に備えた準備について〜
1、初めに
高齢化社会と言われて久しい近年、生前に円満な相続の準備をしておきたいとの考えや自分が認知症などにより、正常な判断能力を持ち得ない状況となる前に、将来の自分の生活・相続に備えておきたいとの考えをお持ちになられる方が増えています。 そこで、本稿においては、そのような思いを実現するための方法について、いくつかご紹介いたします。
2、生前贈与
生前贈与とは、生前に自らの財産を贈与することです。相続時にかかる相続税を節約する方法として、生前贈与の利用が紹介されることも多いと思いますが、生前に自らの財産を贈与しておくことで、前記のような目的を実現することができます。
この点、贈与とは、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによってその効力を生ずる(民法549条)ため、必ずしも書面によらずに、口約束であっても有効に成立することになります。しかし、書面によらない贈与は撤回できますし(民法550条)、後日の紛争防止のためには書面によって行うようにしておくのが無難だと思われます。
また、負担付贈与(民法553条)(=受贈者に一定の債務を負担させる贈与)を利用して、一定の財産を贈与する代わりに自己の面倒を見てもらう約束をしておくという方法も可能です。
但し、注意が必要なのが、例えば、相続人が複数人おり、その内の一部に対してのみ生前贈与を行うなどして、その一部の相続人に多めに財産を引き継がせたいと考えたとしても、共同相続人の内、被相続人から特別な利益を受けていた相続人がいる場合には、その受益分の価値を相続財産に戻した上で、それぞれの相続分を求めるという「特別受益」という制度により、結局その思いは実現しないことになる恐れがありますから、そういった場合には、後述する別の方法の利用を検討される必要があります。
3、遺言
遺言は、遺言者の一方的な意思によって効力を生じさせることができる点で非常に便利ですし、本稿で検討している目的に適う一番の方法とも言えます。相続人でない者に対して財産を承継させたい場合に有効ですし、遺言がない場合に比べて相続人の手続の負担を軽減することもできます。例えば、不動産の名義変更時に、遺言がなければ遺産分割協議書などの作成準備が必要になるのに対して、遺言があれば不要になります。さらに、遺言はいつでも撤回することができますから、気が変われば遺言の方法により撤回することができますし、内容の抵触する遺言を新たに作成することで遺言内容を更新することもできます。
このような遺言には一般的には大別すると、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類が存在します。順に軽く説明すると、自筆証書遺言はその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押すことで作成できる最も手軽な遺言です。しかし、公証人や証人の関与なく費用もかけずに一人で容易に作成することができる反面、要件に不備があると遺言書自体が無効となる恐れがあるほか、遺言書が改ざん、破棄等をされても証拠が残らない危険があります。また、そもそも作成した自筆証書遺言が自分の死後に発見されないという危険もあります。そこで、そのような危険性のない安全な遺言方式として公正証書遺言があります。公正証書遺言は、公証役場で執務する公証人が作成に関与する他、二人以上の証人の立会いが要件とされており、前記のリスクが回避できるため、多くの場合に利用されています。作成に際しては、一定の資料の準備が必要であるほか、相続財産額に応じた公証人手数料(通常2,3万円程度)が必要となります。なお、秘密証書遺言とは、前述のような公正証書遺言のメリットを享受しつつも、内容を誰にも知られたくない場合に利用されるものですが、利用されているケースは非常に少ないようです。
なお、遺言においては、自己の特定の財産を特定人に相続させる遺産分割方法の指定を行ったり(民法908条)、相続人でない者に対する遺贈を行ったりできる(民法964条)ことは多くの方が御存知だと思いますが、他にも認知を行ったり(民法781条2項)、祭祀財産の承継者の指定(民法897条1項)、生命保険金の受取人の変更(保険法44条)を行うことなども可能であるほか、もちろん遺言を残した思いや残された人に対するメッセージを記載することも可能です。
4、任意後見制度の利用
任意後見制度とは、自己の判断能力が低下する前に、予め将来の任意後見人を選任しておき、将来自己の判断能力が不十分となった場合に備えて、一定の委任事項を定めて契約しておく制度です。委任事項については、法律の趣旨に反しない限りは、契約当事者間において自由にその内容を決めることができるため、財産管理だけでなく、介護や生活面の手配についても委任しておくことで、遺言だけでは自己の死後について備えることしかできなかったところ、それまでの自己の生活にも対処することができます。
5、死後事務委任契約の活用
前述の任意後見契約は、本人が死亡すると終了してしまうので、死亡後の事務については任意後見契約の範疇ではありません。そこで、自分が死んだ後の事務(葬儀等に関する事務、賃借物件である自宅の退去明渡等の精算事務、生前に発生した未払い債務の弁済等)については、当然遺言書に記載することも考えられるわけですが、前述の通り、遺言に有効に記載することができる事項は法律に定められたものに限定されるため、遺言書では完全に対応することができません。そこで、信頼できる人物との間で死後事務委任契約を締結しておくことが考えられます。特に、身寄りがない方や、法定相続人とは疎遠になっており、身近にいる信頼できる人に自分の死後の処理を任せたいと考えられる方には適当な制度です。
6、おわりに
これまでご紹介した以外にも、法律上の効果は有さない事実上の方法としてエンディングノートの作成という方法や見守り契約といって、任意後見が開始するまでの間、自己の心身状態や生活状況を定期的に確認してもらい、任意後見をスタートさせる時期を判断してもらうための契約の利用なども考えられるところです。
いずれにせよ、ご自身の希望にあった方法についてまずは弁護士に御相談頂き、その中で、準備が不十分であったために後に疑義を残し、残された者の間に紛争が生じたり、想定外の事態が生じて、ご自身の生活に差し障りが出たりすることのないように、最適な方法を選択されるのが良いかと思います。
(H28.07作成: 弁護士 河原 秀樹)
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