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発行日 :平成20年 1月
発行NO:No20
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【5】論説〜法律的に考えてみると〜(通勤編)〜
私は電車、バスを利用して通勤しているのですが、バスと、電車の車両のうちの1両は、携帯電話電源OFF車両となっています。
ところが、携帯電話の電源をOFFにしている乗客を見たことはなく、逆に、かまわず使用している人もちらほら見かけます。そし て、曲がったことは許さないという風の初老の男性が、このような人に対して厳しく注意する風景を何度か見ました。そこで、この ような行動の法的意味を考えてみます。
注意する人をXさん、注意される人をYさんとします。XさんはYさんに対して携帯電話の使用の中止を求めているわけですから、
特定人が特定人に対して一定の行為を要求していることになります。そのような権利として、まず思いつくのは、契約に基づいて発 生する債権です。しかし、もちろん、XさんとYさんの間に、携帯電話の不使用について契約があるはずもありません。XさんもY さんも、契約している相手といえば鉄道会社です。乗客は切符を買うことで鉄道会社に対して運送契約を申込み、発券による鉄道会 社の承諾により、乗客と鉄道会社の間には運送契約が締結されているといえます。その際、乗客は、携帯電話電源OFF車両では携 帯電話の電源を切ることなど、鉄道会社のルールに従うことを包括的に承諾していると考えることができるでしょう。よって、鉄道会 社については、Yさんに対し、契約に基づいて、携帯電話の電源を切るように要求できます。しかし、債権は相対的な権利ですから、 Xさんは、この契約を根拠に、直接Yさんに対して携帯電話の電源を切るように要求することはできません。そこで、Xさんが、鉄 道会社に対して、Yさんに注意するように要求できるかというと、鉄道会社は、乗客に対し、携帯電話の電源を入れている人がいな い車両の提供を保証しているわけではないため、法律的には難しいでしょう。携帯電話電源OFF車両での運送をするとの債務を負 っているという解釈も可能ですが、それでも違反する人に注意をする義務があるとまでは言えません。実際は、車掌さんに言えば注 意してくれると思いますが、鉄道会社の好意によるものといえます。
それでは、XさんはYさんに対して、鉄道会社を介さず、直接、携帯電話の電源を切ることを要求できないのでしょうか。Xさん のYさんに対する要求は、法律的にいえば、差止請求ということになります。契約関係がなくても差止請求ができる場合として思い つくのは、誰に対しても主張できる権利である物権などの財産権侵害の場合に発生する物権的請求権です。しかし、本件はこの場合 にはあたりません。人格権侵害に基づく差止請求を認める見解もありますが、本件でXさんの人格権が侵害されているともいえませ ん。
それでは、不法行為に基づく差止請求はどうでしょうか。民法では不法行為については金銭賠償の原則を採っており、判例も原則 としてこのような請求は認めていません。しかも、Yさんの行為が不法行為にあたるかというと、難しいところです。故意・過失は 認められうるとしても、電車内で携帯電話を使用してはいけないという法律はなく、違法性が認められないからです。
しかし、被侵害利益が重大で、事後的な損害賠償のみでは回復できないような場合には、差止請求を認める裁判例もあります。本 件でも、Xさんがペースメーカーを使用しているにもかかわらずYさんが間近で携帯電話を使用しているような場合であれば、Xさ んの生命・身体の安全にかかわり、事後的な損害賠償では回復困難な場合といえます。そして、このような場合は、Yさんの行為は、 刑事処罰の対象にもなりうるものであり、違法性が認められ、不法行為の要件も満たします。
退屈な通勤電車で仮眠するのもよいですが、たまには、このようにちょっとしたことを法律的に考えてみるのも頭の体操になって いいかもしれません。もっとも、すぐに睡魔に襲われて、かえってよく眠れるかもしれませんが。
(H20.1作成: 弁護士・弁理士 江村 一宏)
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