発行日 :平成18年 7月
発行NO:No17
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】論説〜海外向け販売と商標権侵害〜
1 問題点の所在

  インターネットの普及と共に、ネットショップを開設して、物品を販売することが盛んに行われています。最初は、日本語でホームページを作成し、国内向けに通信販売をすることでスタートするネットショップが多いと思いますが、掲載商品が好評となった場合には、さらに売上を伸ばしたり、あるいはユーザーのニーズに応えるために、英訳したホームページを作成して、海外から申込みに対しても、販売をしようと計画する場合があります。このような場合、掲載商品について、日本において商標権を取得していたとしても、インターネットの閲覧は海外からも可能であり、注文があれば商品を海外に発送することになるので、海外で商標権侵害の問題は生じないかどうかが問題となります。

2 商標権の効力が及ぶ範囲 〜属地主義〜

  商標法は、商品やサービスのネーミングやマークなどを登録した者にこれを使用する独占的な権利を与えています。本件においても日本において商標権を取得しているのですから、これをその登録した商品に使用することは、その販売対象が日本国内にとどまっている限りでは問題はありません。しかし、日本の特許庁に出願して取得した商標権の効力は、日本の国内に及ぶだけで外国にはその効力は及ばないとされています。これは、属地主義と言われるもので、商標権の効力はその商標が登録されたそれぞれの国の範囲内に限られるので、商標を登録して保護を受けるには、各国それぞれで商標出願をする必要があることになります。したがって、日本で商標権を取得していても、外国では同じ商標を他の法人などが取得している可能性があります。

3 米国におけるホームページによる商標権の侵害

  それでは、海外向けホームページに使用されている商標について、例えば、米国において第三者がその掲載商品の分類に登録している商標であった場合は、商標権侵害となるのでしょうか。ネットショップの運営者が日本法人であり、電子商店のデータを格納しているサーバが日本にあっても、そのページがインターネット上にあれば、米国からそのページを見ることは可能ですので、米国で登録された商標権の侵害の成否が問題となります。このようにインターネット上での商標の使用が外国の受信国での商標権侵害になるかについては、日本ではまだ裁判例は見当たりませんが、米国では、イタリアの「Playmen」というウェブサイトが米国の「Playboy」という商標権の侵害になるとした事件があると紹介されています(青木博通「商標の使用とネット上の商標権侵害」パテント54巻22頁)。この事件では、加入申込金と引き換えにパスワードとユーザーネームを米国のユーザに知らせてイタリアのサイトにある画像データを利用させることが商標権の侵害になると判断されていますので、本件のように英訳されたホームページで商標を使用し、米国からの販売申し込みにも対応するのであれば、上記事件と類似の関係があるため、米国で登録された商標権の侵害になってしまうと判断されます。したがって、ネットショップを開設し、そのホームページが米国でアクセスできれば、ホームページで使用されている商標について、米国商標権侵害の問題が発生する可能性があることになります。

4 外国商標権の侵害についてのWIPO共同勧告

  ネットショップを開設して商標を使用した場合にインターネットが閲覧できるすべての国で商標権侵害にならないかどうか注意しなければならないとすると、安心してインターネット上で商標の使用ができないことになります。そこで、このような場合の調整を図るものとして、WIPO(世界知的所有権機構)は、2001年10月に「インターネット上の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告」を採択して、判断基準を示しています。この勧告は、各加盟国で直ちに適用されるものではありませんが、「インターネット上の商標の使用は、加盟国において商業的効果の存在が認められる場合に肯定される。」(2条)とした上で、「商業的効果を決定するに際しては、全ての関連する状況を考慮して行われるが、商標の使用者が、当該加盟国で事業を行っているか又はそのための準備をしているか否か、当該加盟国での事業活動の程度、事業活動の本拠、当該加盟国に商品又は役務を提供しているか、商標の保有者のウェブサイトのアドレス、表示内容(使用言語、通貨、連絡先)等は主要な要因となることは疑いない。」(3条1項各号)と規定しているので、本件のように英訳のページをわざわざ設けたり、海外からの申し込みを受ける旨を表示しなければ、この勧告では外国での商標権侵害とならないことになります。 また、この勧告では、商標使用者の責任が原則として免除される場合として、「商標使用者がその本国において当該商標の使用の正当な権限を有すること、不正な目的が認められないことおよび使用者へのコンタクト情報が開示されていることが備わっている場合」(9条)を挙げているほかに、免責措置として、「商業的効果を排除するか侵害行為を回避するために合理的かつ適切な措置を取ることが必要」(10条)としていますので、販売地域が特定の国に限られるといった商業的効果を否定する表示を行えば、外国の商標権を侵害すると解されることはないものと思われます(土肥一史「ネットワーク社会と商標」ジュリスト1227号29頁)。


5 海外での商標権侵害を避ける方法

  ネットショップが英訳したホームページを作成して、海外から申込みに対しても、販売をしようと計画する場合には、ホームページで表示している商標について、販売を予定している外国での商標権侵害が問題となります。したがって、海外での商標権侵害を避けるためには、先ず、販売を予定している外国について商標調査や出願をして、販売予定国の商標権を侵害しないことを確認する必要があります。そして、販売を予定しない国の商標権侵害問題の発生を避けるため、販売予定国以外の言語によるホームページを作成せず、ホームページ上にも販売地域が特定の国や通貨に限られるといったようなWIPOの共同勧告に従った表示をしておくことが、実務的には必要な対応と思われます。


(H18.7作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)


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