発行日 :平成18年 7月
発行NO:No17
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
→事務所報 No17 INDEXへ戻る


   【2】論説〜著作物性の判断基準について〜
第1 はじめに−本稿の目的−

  本稿は、著作権法10条で例示された著作物を更に、様々な具体的な種類に応じて「著作物」性が認められるか、又は認められることが困難か、判例の基準から具体的な基準を探ろうとするものである。  
  著作権侵害事件では、そもそもの「著作物性」自体が争われることも多い。そして、判例は、「著作物の種類」に応じて、
    著作物性が認められやすい種類(原則=著作物性あり)
    著作物性が認められにくい種類
        原則=著作物性なし、例外=著作物性あり
という基準をたてる場合も多い。本稿は、この「著作物の種類」に焦点をあてて、認められやすい種類か、認められにくい種類かを具体的に明らかにするものでもある。
  なお、著作物性が否定された場合でも、全て損害賠償請求等が認められないとはならない。各々の行為が、他の法律(不正競争防止法、民法上の不法行為等)に該当する場合は、損害賠償等が認められることになる。こ の点は、各「著作物の種類」を論ずるにあたって必要な限度で言及することにするが、本稿の主たる目的ではない。  

第2 「著作物」とは−「著作物」の要件−

  著作物とは、
    「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、芸術又は音楽の範囲に属するもの」(著2条1項1号)
である。その要件を分節すると、  
        (a) 「思想又は感情」を  
        (b) 「創作的」に  
        (c) 「表現したもの」であって、  
        (d) 「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属するもの
となる。したがって、  
        単なるデータ((a)を充たさない。)  
        「模倣品」((b)を充たさない。)  
        単なるアイディア((c)を充たさない。)  
        純粋な工業製品((d)を充たさない。)
は、「著作物」ではないということになる(文化庁長官官房著作権課「平成18年度著作権テキスト」・8頁参照。以下、「著作権テキスト」という。)。  抽象的には、これらの要件の該当性が問題となるが、単純ではない。

第3 法が例示する「著作物」

  著作権法は、具体的に、著作権法10条1項1号で、次のとおり、上記要件を充たす「著作物」の種類を例示している。  
    一  小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
    二  音楽の著作物
    三  舞踊又は無言劇の著作物
    四  絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
    五  建築の著作物
    六  地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
    七  映画の著作物
    八  写真の著作物
    九  プログラムの著作物

  これは、著作権法自体が、上記(a)〜(d)の要件を充たすであろうと想定したものである。つまり、これらの種類の著作物については、
    原則=著作物性あり、例外=著作物性無し
といえることになり、著作物性を否定する者が、上記(a)〜(d)の要件を充たさないことを十分に主張・立証する負担を負うことになり、若しくは、「著作物性」の肯定を前提として損害額等の争いへ力点を移すことになる。
  著作権テキスト・9頁では、更に、この著作権法10条1項1号の例示について、更に具体的な種類を、次のとおり、例示している。
    言語の著作物
        講演、論文、レポート、作文、小説、脚本、詩歌、俳句など
    音楽の著作物
        楽曲、楽曲を伴う歌詞
    舞踊又は無言劇の著作物
        日本舞踊、バレエ、ダンス、舞踏、パントマイムの振り付け
    美術の著作物
        絵画、版画、彫刻、マンガ、書、舞台装置など(美術工芸品を含む)
    建築の著作物
        芸術的な建築物
    地図、図形の著作物
        地図、学術的な図面、図表、設計図、立体模型、地球儀など
    映画の著作物
        劇場用映画、アニメ、ビデオ、ゲームソフトの映像部分などの「録画されている動く影像」
    写真の著作物
        写真、グラビアなど
    プログラムの著作物
        コンピュータ・プログラム 
  しかしながら、これでも問題は単純に解決できない。これらの種類でも、限界例を定めるのは、困難である。例えば、「美術工芸品」or「純粋な工業製品」、「芸術的な建築物」or「芸術的でない建築物」などは、判例の具体的な基準を探る必要がある。また、これらの種類以外のものは、どのような基準をもって著作物性の判断がなされるのかは、判例の具体的な基準を探る必要がある。
  更に細分化した例示を提示する必要があるのである。

第4 著作物性が認められやすい種類(原則=著作物性あり)

  1 商品の広告販売のために撮影された写真(著10条1項で例示。主として(c)の要件が問題となる種類。)
  H18. 3.29 知財高裁 平成17(ネ)10094ほか
    この知財高裁判決は、商品の広告販売のために撮影された写真の著作権(複製権)侵害が問題となった事案である。

     「写真は、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等)、印影の付け方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景等の諸要素を総合してなる一つの表現である。
    このような表現は、レンズの選択、露光の調整、シャッタースピードや被写界深度の設定、照明等の撮影技法を駆使した成果として得られることもあれば、オートフォーカスカメラやデジタルカメラの機械的作用を利用した結果として得られることもある。また、構図やシャッターチャンスのように人為的操作により決定されることの多い要素についても、偶然にシャッターチャンスを捉えた場合のように、撮影者の意図を離れて偶然の結果に左右されることもある。
    そして、ある写真が、どのような撮影技法を用いて得られたものであるのかを、その写真自体から知ることは困難であることが多く、写真から知り得るのは、結果として得られた表現の内容である。撮影に当たってどのような技法が用いられたのかにかかわらず、静物や風景を撮影した写真でも、その構図、光線、背景等には何らかの独自性が表れることが多く、結果として得られた写真の表現自体に独自性が表れ、創作性の存在を肯定し得る場合があるというべきである。」


  ここで、一般論を述べているのは、
「写真」は、
  著作物性が認められやすい種類(原則=著作物性あり)
というものである。それは、カメラの種類(オートフォーカスでも、デジカメでも)、技術の稚拙度(偶然でもよい。)を問わず、著作物性が「原則あり」という判断がされていることになる。
  更に、この判例の事案は、写真をそのままコピーして利用した場合のものであるが、この点については、次のように述べている。

     「もっとも、創作性の存在が肯定される場合でも、その写真における表現の独自性がどの程度のものであるかによって、創作性の程度に高度なものから微小なものまで大きな差異があることはいうまでもないから、著作物の保護の範囲、仕方等は、そうした差異に大きく依存するものというべきである。したがって、創作性が微小な場合には、当該写真をそのままコピーして利用した場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するにとどめるべきものである。」

  この判示は、極めて重要である。
  「写真」については、原則「著作物性あり」、そして、創作性が微小な場合には、そのままコピーして利用した場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するということになる。
  まとめると、「写真」の場合には、
    そのままコピーする→著作権侵害
    そうでない場合→更なる創作性の程度の立証が必要
ということになる。
  主張・立証の負担としては、そのままのコピーの場合には、著作権者側の更なる立証は不要だが、そうでない場合には、著作権者側の更なる立証が必要ということになる。


第5 著作物性が認められにくい種類(原則=著作物性なし)

1 新聞の見出し(著10条1項1号例示外。主として(c)の要件が問題となる種類。)

  新聞の見出しは、著作権法10条1項1号の例示にはない。そして、著作権法10条2項では、
  「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。」
  とされている。「新聞の見出し」は、著作権法10条1項の例示になく、しかも著作権法10条2項の存在により争いの余地が大きくなる著作物の種類といえる。

  H17.10. 6 知財高裁 平成17(ネ)10049 著作権侵害差止等請求控訴事件
  この判例は、新聞の見出しの「著作物性」が問題にされた。判例は、

   「一般に,ニュース報道における記事見出しは,報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか,使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して,表現の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。
  しかし,ニュース報道における記事見出しであるからといって,直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのであって,結局は,各記事見出しの表現を個別具体的に検討して,創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである。」


としている。つまり、新聞の見出しは、
    著作物性が認められにくい種類(原則=著作物性なし)
という判断である。
  著作物性が認められやすい種類(原則=著作物性あり)のもの、例えば、「写真」であれば、著作物性を主張する者は、写真自体を提示すれば足り、それ以上に、例えば、どのような技法を使用したかなどの主張・立証は不要ということになる。しかし、著作物性が認められにくい種類(原則=著作物性なし)の「新聞の見出し」の場合には、「個別具体的に検討」、即ち、個別に具体的な創作性を基礎づける事実の主張・立証を、著作物性を主張する者側が、しなければならないということになる。
  なお、この判例では、「新聞の見出し」について、著作物性は否定したが、次のとおり、個別具体的な判断である不法行為の成立を認めている。デッドコピーを営利目的で利用する場合には、不法行為性が認められる傾向があるということを示している。

「本件YOL見出しは,控訴人の多大の労力,費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること,著作権法による保護の下にあるとまでは認められないものの,相応の苦労・工夫により作成されたものであって,簡潔な表現により,それ自体から報道される事件等のニュースの概要について一応の理解ができるようになっていること,YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らせば,YOL見出しは,法的保護に値する利益となり得るものというべきである。一方,前認定の事実によれば,被控訴人は,控訴人に無断で,営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって,このようなライントピックスサービスが控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できないものである。
  そうすると,被控訴人のライントピックスサービスとしての一連の行為は,社会的に許容される限度を越えたものであって,控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。」


2 一般人向けの法律問題の解説書(著10条1項1号例示。主として(c)の要件が問題となる種類。)

     H18.3.15 知財高裁 平成17(ネ)10095ほか

  この判例は、対象となる書物の依拠性を認めながらも、表現の共通部分は、
  「法令の内容や判例・学説、実務の運用から導かれる当然の事項を普通に用いられる言葉で表現したものにすぎず、創作的な表現ではない」
として、著作物性を認めなかった。
「解説書」自体は、著作権法10条1項1号の例示である「言語の著作物」であるが、なぜ、著作物性が認められにくい種類(原則=著作物性なし)に分類されるのか。それは、「一般人向け」、「法律問題」の解説書という点にあると考えられる。「一般人向け」故に、独創的な表現を使うことなく、従来の言葉で普通に表現しなければならないし、「法律問題」を論ずる以上、従来の判例・学説、実務を踏まえなければ意味がないからである。
  「言語の著作物」は広い概念であるが、著作権法10条1項1号の例示の中でも、創作性の強度は異なる。抽象的にいえば、字数が多く(より表現の幅が広がる。)、上記のような制約がない程創作性が認められる余地、即ち、「著作物性」が認められる可能性が高くなることになる。抽象的に、例えば、著作権テキスト・9頁で例示された
  講演、論文、レポート、作文、小説、脚本、詩歌、俳句
を並べれば、
  字数の違いから、
    「小説」>「脚本」>「作文」>「詩歌」>「俳句」
ということになろうし、季語、詩的表現技法等で表現が限定される「詩歌」、「俳句」は、より著作物性が肯定される余地が少なくなるといえる。
同じように、字数の違いから、
    「論文」>「講演」>「レポート」
ということになろうし、「論文」と「小説」を比べれば、「論文」であれば、従来の議論を踏まえて論ずることになるから、「小説」>「論文」ということになる。
  なお、上記判例は、著作物性は否定したが、記述自体の類似性や構成・項目立てから受ける全体的印象に照らして、他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価され、公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を認めたものでもある。

3 学位論文の図表(著10条1項1号例示。主として(c)の要件が問題となる種類。)

     H17. 5.25 知財高裁 平成17(ネ)10038 著作権侵害差止等請求

  学位論文に添付された図表の著作物性が問題となった判例で、著作物性を否定した事案である。学位論文は、著作権法10条1項1号の例示に該当するが、その一部である図表(データ、グラフ)自体に著作物性が認められるかが争点となった判例である。
    「実験結果等のデータをグラフとして表現する場合,折れ線グラフとするか曲線グラフとするか棒グラフとするか,グラフの単位をどのようにとるか,データの一部を省略するか否かなど,同一のデータに基づくグラフであっても一様でない表現が可能であることは確かである。
  しかしながら,実験結果等のデータ自体は,事実又はアイディアであって,著作物ではない以上,そのようなデータを一般的な手法に基づき表現したのみのグラフは,多少の表現の幅はあり得るものであっても,なお,著作物としての創作性を有しないものと解すべきである。なぜなら,上記のようなグラフまでを著作物として保護することになれば,事実又はアイディアについては万人の共通財産として著作権法上の自由な利用が許されるべきであるとの趣旨に反する結果となるからである。」

  つまり、学位論文に用いられるデータは、著作物ではなく、それに基づくグラフも、
    著作物性が認められにくい種類(原則=著作物性なし)
  という判断である。

  これもいうなれば、当然であって、データをグラフ化して表現しようとする場合、誰にも分からない独創的な表現の工夫をすることは、その本来の目的から外れることになるのである。 

  
以 上


(H18.7作成 :弁護士 岩原 義則) 


→【1】論説 :海外向け販売と商標権侵害
→【3】論説:意匠権の存続期間の延長と小売業等の商標のサービスマークとしての保護について
→【4】記事のコーナー :事務所のみなさんの元気な秘訣
→【5】記事のコーナー :事務所の近況
→事務所報 No17 INDEXへ戻る



溝上法律特許事務所へのお問い合わせはこちらから


HOME | ごあいさつ | 事務所案内 | 取扱業務と報酬 | 法律相談のご案内 | 顧問契約のご案内 | 法律関連情報 | 特許関連情報 | 商標関連情報 |
商標登録・調査サポートサービス | 事務所報 | 人材募集 | リンク集 | 個人情報保護方針 | サイトマップ | English site
1997.8.10 COPYRIGHT Mizogami & Co.

〒550-0004 大阪市西区靱本町1-10-4 本町井出ビル2F
TEL:06-6441-0391 FAX:06-6443-0386
お問い合わせはこちらからどうぞ