(1)
|
真正商品の並行輸入を認め、商標権侵害を構成しないと判断した判例として、「パーカー事件」(S45. 2.27 大阪地裁 昭和43(ワ)7003 差止請求権不存在確認訴訟事件)、「ラコステ事件」(S59.12. 7 東京地裁 昭和54(ワ)8489 商標権侵害差止等請求事件)等がある。
|
(2)
|
真正商品の並行輸入が実質的違法性を欠き、商標権侵害にあたらない場合の規範定立を行いつつ、使用許諾契約における許諾条項の範囲を逸脱して、製造国及び下請の制限に違反して製造された商品に対しては、商標の品質保証機能が害されるおそれがあることを理由に商標権侵害を認めた判例として、H15. 2.27 最高裁第一小法廷判決 平成14(受)1100 損害賠償,商標権侵害差止等請求事件がある。
|
(3)
|
特許製品の並行輸入を禁止したものとして、「ボーリング用自動ピン立て装置事件」(S44. 6. 9 大阪地裁 昭和43(ワ)3460 特許権侵害差止等請求事件)がある。同判決によれば、特許権には地域上の制限があり、各国の特許権は互いに独立しているから、特許権消耗の理論が適用されるのは、その特許権の付与された国の領域内に限られ、特許権の国際的消耗という考え方は採り得ないとされている。
|
(4)
|
自動車のホイールについてドイツと日本で特許権を有するドイツのBBS社が、ドイツで同社が製造販売したその特許製品を日本に並行輸入した日本企業に対し、特許権侵害を理由として、当該特許製品の輸入販売の差止と損害賠償を求めて提訴した事件。BBS事件の東京高裁判判決(H 7. 3.23 東京高裁 平成06(ネ)3272 特許権侵害差止等請求事件)では、二重利得機会論を根拠とする国際消尽を認めて並行輸入者勝訴の判断がなされた。
|
(5)
|
BBS事件の最高裁判決(H9. 7. 1 最高裁第三小法廷判決 平成7(オ)1988 特許権侵害差止等請求事件)では、最高裁は、「特許製品を国外において譲渡した場合に、その後に当該製品が我が国に輸入されることが当然に予想されることに照らせば、特許権者が留保を付さないまま特許製品を国外において譲渡した場合には、譲受人及びその後の転得者に対して、我が国において譲渡人の有する特許権の制限を受けないで当該製品を支配する権利を黙示的に授与したものと解すべきである。」との判断を示し、黙示の実施許諾を判決理由とした。
|
(6)
|
譲受人との間で特許製品の販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を合意し、それを製品上に明確に表示することは、並行輸入を阻止できることに対しての必要条件になるとしても、それが必要十分条件であるとまではいえないという意味で、明確になっていないという趣旨である。
|
(7)
|
今後の判例では、BBS最高裁判決にいう「明確に表示した場合」の具体的内容や、特許権者と「同視し得る者」の範囲はどこまでか、といった点が争点となり、判断基準が具体的に示されるものと思われる。学説では、「明確に表示した場合」に関して、言語は何語でも良いのか、製品自体に表示しなければならないのか、当初は表示があったが流通の過程で抹消された場合はどのように解するか、といった問題が検討されている(牧野利秋・飯村敏明著「新・裁判実務体系 知的財産関係訴訟法」初版第146〜150頁を参照)。
|