発行日 :平成13年 1月
発行NO:No6
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説
      〜不正競争防止法上ドメイン名について
        差止が認められるべきかについての一考察〜
第1:事案の概要
富山地方裁判所において、ドメイン名紛争に関する興味深い判例が出された(富山地方裁判所平成12年12月6日判決、判例時報1734号3頁、判例タイムズ1047号297頁。以下、本判例という)。
本判例は、インターネット上で「http://www.jaccs.co.jp」というドメイン名(本判例引用とおり)を使用し、かつ、開設するホームページにおいて「JACCS」の表示を用いて営業活動をする被告に対し、「JACCS」という営業表示を有する原告が、被告による上記ドメイン名の使用及びホームページ上での「JACCS」の表示の使用は、不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号、2号)に当たるとして、上記ドメイン名の使用の差止め及びホームページ上の営業活動における上記表示の使用の差止めを求めている事案である。
差止の対象は、被告ホームページに表示された「JACCS」の表示と、被告登録のドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」である(なお、ドメイン名というのは、本来「jaccs.co.jp」の部分を指すものと思われるが、本判例の原告が、差止の対象として、求めていると思われるものをそのまま記載した。本稿においては、これ以降、「jaccs.co.jp」または「jaccs」の部分を指してドメイン名という。)
マスコミ報道では、ドメイン名のみを問題としているかのような書きぶりであるが、ホームページの表示も問題になっていることは本判例の大きな特徴である。

第2:本判例の整理
(1) ドメイン名のみは直ちに、その登録者を識別する機能を有しない。
(2) ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときには、ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能を有する。
(3) ドメイン名の使用が商品や役務の出所を識別する機能を有するか否か、すなわち不正競争防止法2条1項1号、2号所定の「商品等表示」の「使用」に当たるか否かは、当該ドメイン名の文字列が有する意味(一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)と当該ドメイン名により到達するホームページの表示内容を総合して判断する。
(4) 当初より、原告から金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録したという事情は、「混同」の用件や差止の要件(不正競争防止法3条)の「営業上の利益が侵害されるおそれ」の要件により処理する。
本判例を整理すると以上のとおりである。1は、ドメイン名にその登録者を識別する機能を直ちに有しないという、事実認定であり、2は、ドメイン名が商品や役務の出所識別機能を有する場合の規範定立であり、3は、2の規範定立を具体的に適用するための適用基準であり、4は、法的解釈の問題である。

第3:本判例に対する見解
(1) ドメイン名の識別機能について
本判例は、次のような事実認定を行う。【ドメイン名は、争いのない事実等2のとおり、特定のホームページ等に到達するためコンピューターに入力する記号であり、登録申請者は、アルファベットや数字といった限られた範囲内の記号を選択して申請し、既に同一のドメイン名が存在しない限り、登録申請者のドメイン名として登録されるものであり、ドメイン名が、登録者の名称等登録者と結びつく何らかの意味のある文字列であることは予定されていない。】
この事実認定は、争いのない事実であるが、妥当である。
つまり、ドメイン名は、いうなれば、電話番号や自動車の登録ナンバーと似たものである。ドメイン名は、単にアドレスを特定する文字列の並びであるから、それ自体本来意味を有するものではないのである。
ただ、ドメイン名は、文字で構成されるから、電話番号とは異なり文字列の配置によっては意味を持ちうることに特徴がある。
その事実上の問題がドメイン名に差止を認めるべきかの問題となる。
この事実上の認識について、本判例は次のように述べる。
【しかしながら、ドメイン名が、常に登録者と結びつきのない無意味な文字列である訳ではなく、むしろ、登録者は、ドメイン名で使える文字を組み合せて、可能な限り、自己の名称等を示す文字列や登録者と結びつきのある言葉を示す文字列をドメイン名として登録している場合が多い(甲一、三二、三三、四九、五二)。そして、インターネットを利用する者においても、ドメイン名に使用できる文字列が限定されていることやドメイン名の登録につき先願制が採られていることなどから、ドメイン名が必ずしも登録者の名称等を示しているとは限らないことを認識しながらも、ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには、当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが一般である。】
この認識については、【ドメイン名が必ずしも登録者の名称等を示しているとは限らないことを認識しながらも、ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには、当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが一般である。】とは必ずしもいえないのでなかろうか。 
ドメイン名に著名な企業名が使われているとしても、直ちにドメイン名のみから当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であるとは考えると「一般」とはいえないのである。相当にドメイン名が露出され後述するドメイン名に使用による識別性が具備する場合ならともかく、単に「ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが一般である。」とは、言い難いのではないか。
その意味で、ドメイン名が特定固有名詞と同一の文字列で構成されていたとしても、それは、「商品等表示」の「使用」とはいえない。
ここで、「使用」とは、【「使用」の意味は旧法と同じように極めて広く、商品そのもの(商品の形、商品のすかし模様の表示等)での使用はもちろん、商品または商品の包装に表示を附する行為、商品に関する広告・定価表または取引書類に表示を付して展示しまたは頒布する行為のすべてを含む。】(小野昌延「不正競争防止法概説」有斐閣(1994)79頁)、【広く混同を招来する原因となるような形で表示を利用することを指すものである。】(通商産業省知的財産政策室監修「逐条解説不正競争防止法」有斐閣(1994)29頁)というように、「使用」の意味は、極めて広く解されている。この「使用」の意義からいえば、ドメイン名が直ちに「商品等表示」といえるならば、「使用」に該当するといえる。
本判例で問題となったドメイン名は、「jaccs」というドメイン名である。本判例が、類似性の判断で述べているように、この類似性は極めて類似の部類に入るといって差し支えないであろう。
にも関わらず、本判例は、結局、「jaccs」というドメイン名自体のみで「商品等表示」と認めていないのである。
本判例は、【当該ドメイン名の文字列が有する意味(一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)】と規範定立をしているが、「JACCS」という原告商標については、著名性を認めながら、一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味について、原告企業を識別する機能を有しないとしているのである。
そうであるならば、本件のように十分な著名性を認められると思われる企業でも、単にそれだけでは、ドメイン名の差止が認められないことになる。
少なくとも、現在の状況において、例えば、宣伝広告などで、自己の有する企業名等を冠したドメイン名を全面的に押しだし、ドメイン名をみて一般のインターネット利用者が通常そこから該企業を読みとることができる状態にある企業はあまり見られない状況にあるといってよいのでなかろうか。一般の利用者においても、ドメイン名が先願主義をとるため、必ずしも企業等の名前を冠したドメイン名がその企業のホームページにたどり着かないことを認識しているのである。
そのため、一般のインターネット利用者は、企業等の名前を冠したドメイン名を見ても必ずしもその企業を思い浮かぶことはない。しかも、ドメイン名を入力してそのホームページにたどり着く利用者も必ずしも多くないと思われる。多くの利用者は、検索エンジンなどをつかい、自ら求めるホームページにたどり着く。ドメイン名は、それ自体、意味を有することが可能な文字列でありながら、利用者は、依然電話番号と同じく、ドメイン名の有する意味をあまり意識しないのである。
これは、現在のほとんどのドメイン名がアルファベットで構成されていることにも関係がある。
アルファベットのために、有名な企業でもその名前からして一番素直と思われる読み方ができるドメイン名を取得できないことが生じている。このことも、インターネット利用者は十分に認識している。
一般に、利用者といえば、その能力を低く評価しすぎたり、程度を低くみがちであるが、本判例は、「一般である」として、やはりその傾向が見受けられる。
(2) ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能を有する場合の規範定立について

本判例は、ドメイン名単独で、その登録者を識別する機能を有しない場合でも、【その登録者が開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときには、ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能を有する】と判示する。
しかしながら、この判断には、すこし疑問があると思われる。
ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときでも、ホームページ利用者は、通常、ドメイン名を手がかりにそのホームページにたどり着くのではない。
この判示は、ホームページを利用する場合の通常の形態に一致しないのではないかと思われるのである。
すなわち、通常、ある企業のホームページを探すときに、ホームページ利用者は、ドメイン名から探さず、検索エンジンなどを用いて、キーワードを入力して、そこから検索された項目から選択していくのが通常の方法と思われる。そして、利用者は、その項目の中からホームページをみたときに、ホームページにその目的の企業の商標等が記載され、かつ、当該ホームページにおいて商品の販売や役務の提供を提供するときに、ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能を有するのである。
さらに、単にドメイン名が企業名等と思われる文字列によって構成されているだけで、ホームページ上には、全く企業名等その企業を連想させる記載がなく、商品の販売や役務の提供がされている場合には、一般のホームページ利用者は、その商品の販売や役務の提供がなされているホームページにたどり着くドメイン名について、そのドメイン名の企業名等と思われる文字列とその企業とを結びつけて、何らかの関係を有していると認識するというのは、少し事実と反する判示である。
反対にいえば、本来先願性のあるドメイン名について、しかも読み方に限定があるアルファベットのドメイン名について、企業名等と思われる文字列によって構成されているドメイン名を使用してホームページ上、商品の販売や役務の提供をなすことは、全て不正競争防止法上差止の対象になるというのは行き過ぎである。
したがって、現段階のドメイン名の通常の使用のされ方からみれば、この判示には賛成できない。
ただ、例えば、ある企業が自己の商標等を冠したドメイン名を大々的に宣伝広告に利用して、その企業の商標等を冠したドメイン名自体に著名性を有し、ドメイン名自体に、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能を有することも考えられる。
いわゆる、使用による識別性である(前掲小野87頁)。
本判例は、ホームページ上にも著名表示をしている場合であるから、問題にならないが、仮に、ホームページ上に企業の商標等を何も表示していない場合であれば、たとえ、商品や役務の提供をホームページ上で行っていたとしても、不正競争防止法2条1項1号、2号によって、差止を認めることは難しい事案であったと思われる。
(3) ドメイン名の使用が商品や役務の出所を識別する機能を有するといえる具体的適用基準について
2の規範定立に関わらず、本判例は、【ドメイン名の使用が商品や役務の出所を識別する機能を有するか否か、すなわち不正競争防止法2条1項1号、2号所定の「商品等表示」の「使用」に当たるか否かは、当該ドメイン名の文字列が有する意味(一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)と当該ドメイン名により到達するホームページの表示内容を総合して判断する。】とする。
2の規範定立によれば、ドメイン名が企業等の商標等の文字列によって構成され、かつ、その登録者が開設したホームページに商品の販売や役務の提供をしていれば、直ちに当該ドメイン名が「商品等表示」を「使用」することになるはずである。
しかしながら、その判断としては、@当該ドメイン名の文字列が有する意味(基準@)とA当該ドメイン名により到達するホームページの表示内容(基準A)を「総合」して判断するとする。
本判例は、規範定立と規範定立を適用するための基準が一致していない点で問題である。  基準の当てはめについて、本判例は、【そこで、本件で、被告による本件ドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」に当たるか否かを検討するに、被告は、本件ドメイン名の登録を受けた後、別紙ホームページ画面(1)記載のホームページを開設し、右画面には、「ようこそJACCSのホームページへ」というタイトルの下に、「取扱い商品」、「デジタルツーカー携帯電話」及び「NIPPON KAISYO,INC.」のリンク先が表示されており、右リンク先の画面において、簡易組立トイレや携帯電話の販売広告がされていた(争いのない事実)。右ホームページの表示内容(リンク先も含む。)は、携帯電話等の商品の販売宣伝をするものであり、右ホームページの画面には大きく「JACCS」と表示されていて、ホームページの開設主体であることを示しており、ドメイン名も「jaccs」で、「JACCS」のアルファベットが小文字になっているにすぎないことからすれば、この場合の本件ドメイン名は、右ホームページ中の「JACCS」の表示と共に、ホームページ中に表示された商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有しており、「商品等表示」の「使用」と認めるのが相当である。】とする。
この当てはめは、上記基準に沿えば、基準Aに力が注がれ、基準@については、【ドメイン名も「jaccs」で、「JACCS」のアルファベットが小文字になっているにすぎないこと】だけである。
本判例の基準では、基準@が全く機能していない。
やはり、基準としても規範定立としても、ドメイン名自体の使用による識別性を要求すべきである。
本判例の基準は、後記のとおり、@ABまたは@ABCの要件を具備した場合の基準として捉えるべきである。
本判例も当てはめの中において、【この場合の本件ドメイン名は、右ホームページ中の「JACCS」の表示と共に、ホームページ中に表示された商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有しており、「商品等表示」の「使用」と認めるのが相当】としており、実質的に後記@ABまたは@ABCの要件を具備した場合の基準として適用している。
本判例は、規範定立の点において、若干問題があるが、後記@ABまたは@ABCの要件を具備した場合に差止を認められるべき具体的基準を示した判例として高く評価できるであろう。
(4) 当初より、原告から金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録したという事情について
当初より、金銭を取得する目的で、ドメイン名を登録することが社会的に認知されないことは、一般的な認識となっている。
社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(以下、「JPNIC」という。)のJPドメイン名紛争処理方針においても、登録者に、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の目的をいう。)で、当該ドメイン名を登録または使用していないことについて告知義務を課し、それが事実に反する場合には、当該ドメイン名登録または取り消しの手続をおこなうことができるとする。
この場合に、不正競争防止法上どのように扱われるかという点において、本判例は、「混同」の用件や差止の要件(不正競争防止法3条)の「営業上の利益が侵害されるおそれ」の要件により処理する。
「混同」は、著名表示のポリューション事件も含めて判定されることが多かった。当初から金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録したという事情は、ポリューションにあたると考えられる。
しかしながら、金銭目的で接触する者は、本件のように通常秘密裏に行動するであろう。その意味で、「混同」を認めることには、躊躇を感じるが、著名企業でない場合で後記@ABの条件が具備している場合に、救済が得られなくなることを考えれば、不正競争防止法2条1項1号の解釈上十分可能な解釈とはいえよう。
過大な金銭目的により、ドメイン名を登録することは、「営業上の利益が侵害されるおそれ」があることは問題ないであろう。

第4:問題点の整理
本判例に関するドメイン名の紛争に関しては、以下のとおり、類型化できるであろう。
1, ドメイン名が企業の名前または類似の名称等を連想させる文字列によって構成されている。
2, そのドメイン名によりたどり着くホームページに商品または役務の提供がなされている。
3, そのホームページにドメイン名を冠した企業の商標等が記載されている。
4, 不正目的がある。
5, ドメイン名に使用による識別性が存在する。
本判例は、@ABCを具備した類型である。
まず、Cは、本判例が認めるように、「混同」または、「営業上の利益が侵害されるおそれ」の要件の問題であって、「商品等表示」の「使用」の問題ではない。
そして、Bは本来ドメイン名自体の差止の問題ではないと思われる。
利用者は、検索エンジン等でたどり着いたホームページに企業の商標等が記載されているのをみて、さらに、ドメイン名が一致することを認識し、このホームページは、当該企業と関係したホームページに違いないと認識するというのが通常の流れであろう。@ABまたは@ABCが具備している場合、当該企業としては、ホームページの内容表示の差止とドメイン名の差止を求めることになろうが、本判例の基準は、この@ABまたは@ABCが具備している場合の基準としてみるべきである。この条件が具備している場合には、本来、単なる文字列の配列にすぎないドメイン名が、ホームページの内容と相まって、または一体化して「商品等表示」ということができるからである。
先に述べたように@Aの場合の基準として本判例の基準を用いるべきでない。やはり、ドメイン名に企業の名前等が冠されても、たどり着いたホームページにAのみが表示されているだけでは、利用者は、現在における多くの企業においては、当該企業と関係したホームページと認識するとは考えられないのである。
したがって、@Aを具備しただけのドメイン名には、不正競争防止法上差止を認めることはできないと考える。
Dを具備すれば、それだけでドメイン名の差止が認められることになるが、もちろん、差止の対象として@が必要である。ドメイン名の著名性と企業自体の著名性は異なりうる。企業自体が著名企業でなくてもドメイン名を大々的に宣伝として用い、ドメイン名自体に使用による識別性がみられる場合もありうるし、逆に、企業自体に著名性があっても、ドメイン名自体に使用による識別性がないためにドメイン名の差止が認められない可能性もありうる。その意味で、ホームページの表示の差止とドメイン名の差止には異なった考慮が必要である。
本判例は、新聞等によって、大々的に取り上げられたが、本判例の事実認定を基にすれば、従来の解釈からしても当然に差止が認められるべき事案であり、結論的には極めて妥当である。

第5:控訴審の判断
 本判例は、名古屋高等裁判所金沢支部平成13年9月10日判決において、原判決一部変更となった。

原判決主文
「一 被告は、そのホームページによる営業活動に、「JACCS」の表示を使用してはならない。
二 被告は、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター平成一〇年五月二六日受付の登録ドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」を使用してはならない。
三 訴訟費用は被告の負担とする。」

の内、メールアドレスもその対象とするためにした被控訴人(附帯控訴人) 株式会社ジャックスの附帯控訴を認め、

「1 本件附帯控訴に基づき,原判決主文第2項を次のとおり変更する。
2 控訴人は,社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター平成10年5月26日受付の登録ドメイン名「jaccs.co.jp」を使用してはならない。
3 本件控訴を棄却する。
4 訴訟費用は第1,2審とも控訴人の負担とする。」

と変更したものである。

控訴審判決は、さらに、当裁判所の補充的説示として、次のように判示した。

【(1)被控訴人は,当審において,使用の差止めを求めるドメイン名を,ホームページのアドレス「http://www.jaccs.co.jp」から,メールアドレスもその対象とするために「jaccs.co.jp」に変更し,附帯控訴を提起した。控訴人がこれまで電子メールを利用して商品,役務等の販売,提供,宣伝等を行ったことを認めるに足りる証拠はないが,引用した原判決の認定によれば,控訴人は,被控訴人から金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録したものと推認されるのであり,このことからすると,今後控訴人が本件ドメイン名によるメールアドレスを用いて電子メール広告等を行い,被控訴人の営業上の利益を侵害することも十分に予想されるから,ホームページアドレスに限定しない本件ドメイン名の使用差止めの請求は,理由があるということができる。

(2)控訴人は,当審において,ホームページによる営業活動に「JACCS」の表示を使用することの差止めを求める被控訴人の請求を認諾し,現在では,ホームページのアドレス欄にも本件ドメイン名を表示していないと主張する。 しかしながら,たとえそうであっても,ホームページの画面の内容はどのようにでも変更することができるのであり,前記の控訴人が本件ドメイン名を登録した目的からすれば,控訴人が現在のホームページの画面を今後も変更しないという保証はなく,本件ドメイン名の使用差止めの必要性が失われたということはできない。また,引用した原判決が認定したように,本件ドメイン名は,ホームページ上に表示される商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有していると認められるのであるから,控訴人が「JACCS」の表示使用の差止請求を認諾したとしても,そのことは,何ら本件ドメイン名の使用差止請求を妨げる事由となるものではない。

(3)控訴人は,差止請求が認められるのは,表示行為に限られ,何人にも見ることのできない世界においてまで,控訴人が「jaccs」の文字の使用を制限されるいわれはない旨主張する。しかしながら,弁論の全趣旨によれば,本件口頭弁論終結時においても,控訴人の開設したホームページは,本件ドメイン名に通信手段を示す部分を付加した「http://www.jaccs.co.jp」という表示をキーボード等により入力すれば,控訴人のホームページに到達するようプログラムされていることが認められるのであるから,現在同ホームページ上に「jaccs」という表示がされていないことを考慮しても,本件ドメイン名は,同ホームページの開設主体を識別する機能を有しているということができ,このような使用方法も「商品等表示」の「使用」に当たると認めるのが相当である。

(4)控訴人は,インターネットは無限にリンクできることを理由に,リンク先の表示内容を判断の対象とした原判決を非難するが,原判決が判断の対象としたのは,控訴人が開設したホームページと一体と評価できる,同ページから直接リンクできる画面の表示内容を判断の対象としたに過ぎず,幾度ものリンクを重ねた先の画面の表示を判断の対象としたものでないことは明らかであるから,控訴人のこの点に関する主張は失当である。
1 以上のとおりであるから,被控訴人の本件附帯控訴に基づく請求は理由があり,控訴人の本件控訴は理由がない。
よって,原判決を本件附帯控訴に基づき変更し,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。】

全体としてみれば、不正目的を重視したものである。不正目的がある以上、控訴審の判断は妥当と思われる
 【参考資料】

小野昌延「不正競争防止法概説」有斐閣(1994)
通商産業省知的財産政策室監修「逐条解説不正競争防止法」有斐閣(1994)

本判例
⇒最高裁判所HP知的財産権判決速報

JPドメイン名紛争処理手続について、
⇒「情報社会と法研究会」HP弁護士・弁理士溝上哲也より

「JPドメイン名紛争処理手続」の流れ
⇒JPNICホームページより

最後に、上記知的財産権判決速報から、本判例全文を引用する。

(H13.1作成 H16.4.1修正:弁護士 岩原義則)


→【1】論説:侵害警告への対処法について
→【3】記事のコーナー:「コンピュータ・ソフトウェア関連発明」の審査基準の改訂について
→【4】「台湾」事務所旅行
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