発行日 :平成19年 1月
発行NO:No18
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説〜テレビ番組の一括録画配信装置と著作権侵害〜
1 2つの結論を異にする判例
  放送事業者である民放会社が、テレビ番組の一括録画配信装置を製造・開発等をする会社(以下「設置会社」という。)に対し、著作隣接権(送信可能化権)を侵害するとして法的手続を求めた裁判例として、2つの結論を異にするものが存在する。
 すなわち、
@差止認容:大阪地裁平成17年10月24日判決・判例時報1911号65頁
A差止却下:東京地裁平成18年8月4日決定・裁判所ホームページ (本文 添付資料1 ) である。
  @Aは、いずれも抗告されて現在高裁で係争中であるが、本稿では、両者の事実認定等が正しいものとして、なぜ結論が異なったかを探るものである。そして、争点は多岐に渡るが、設置会社の行為が「送信可能化」権侵害に該たるか否かで違いが出ている。これは、システム乃至装置の違いが大きいことと考えられるので、このシステムの違いに焦点をあてて論じることにする。

2 問題となったシステムについて
2-1 @の装置におけるシステム
  「集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステム」
  「サーバーは、集合住宅の共用部分(管理人室等)に設置される。また、サーバーのチューナー部はテレビ放送受信用アンテナに接続される。各利用者用のビューワー及びそのコントローラーは、集合住宅の居室に、各戸1台ずつ設置され、各ビューワーとサーバーとの間が配線で電気的に接続される。」

2-2 Aの装置におけるシステム
  決定・添付資料1のとおり

2-3 システムの特徴と相違点
  @Aのシステムは、いずれも、テレビ番組の一括録画配信をすることが可能な装置であることは、共通する。重要な相違点は、@の装置は、共用のサーバーが存在するのに対し、Aの装置は、テレビチューナーを内蔵し、アンテナ端子からの放送をデジタルデータ化し、対応する専用モニター又はパソコンからの指令に応じて、インターネット回線を通じて専用モニター又はパソコンへ自動的に送信する機能を有する「ベースステーション」が存在するが、特定の利用者のベースステーションと他の利用者のベースステーションとは、全く無関係に稼働し、それぞれ独立しており、更に、ベースステーションとは別個のサーバー等は設置していない。

3 著作権法上の定義
3-1 「商品の形態の模倣」(不正競争防止法2条1項3号)
 「商品の形態」については、平成17年改正不正競争防止法により、新たに定義規定が設けられ、
 「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる  商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質  感をいう。」
と規定された(不正競争防止法2条4項)。
 知財高裁判決は、従来の判例により受け入れられた解釈を規定により明確化したものとして、改正前であっても、この解釈が妥当とした。

3-2 具体的判断
  本件に関連する用語の定義は、次のとおりである。以下、著作権法の条項を引用する際には、単に「法○条」と表記する。

@「送信可能化」(法2条1項9の2)
 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。

イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
→自動公衆送信装置:公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。

ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続を行うこと。
→電気通信回線への接続:配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。

A自動公衆送信(法2条1項9号の4)
 公衆送信のうち、放送又は有線放送に該当するものを除く、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの。

B公衆送信(法2条1項7号の2)
 公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うこと。
→有線電気通信の送信:有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。

C放送(法2条1項8号)
 公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信。

D有線放送(法2条1項9号の2)
 公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信。
 また、著作権法において、「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとされている(法2条5項)。  
 複雑ではあるが、
「公衆送信」(B)
→「放送」(C)又は「有線放送」(D)を除く「自動公衆送信」(A)
→「送信可能化」(@)
というように定義を追っていくと分かりやすい。

4 具体的な判断
4-1 @の場合
「ビューワーのいずれかから録画予約された番組について、そのサーバーのハードディスク上の1か所にのみその音声及び影像の信号を記録し、そのサーバーに接続されたビューワーで、当該番組の予約をしたビューワーから・・・番組再生の予約があった場合には、自動的に、録画した番組の音声及び影像の情報信号を、当該ビューワーにのみ、送信するものである。」
 「サーバーとビューワーは有線回路によって電気的に接続され、サーバーは・・・共用部分に、ビューワーは個々の入居室の居室に設置されている。」
 → 自動公衆送信性
「サーバーに接続されたビューワーの設置された居室の入居者によって直接受信されることを目的とした有線電気通信の送信」であり、「当該入居者からの求めに応じ自動的に行われるもので、放送又は有線放送のいずれにも該当しないもの」が、行われる状態になる。
→送信可能化
 サーバーとビューワーとを接続している配線
     →公衆に該当する利用者の用に供されている。
 サーバー→自動公衆送信装置
 そのハードディスク
     →公衆送信用記録媒体
 →送信可能化権の侵害に該当する。

4-2 Aの場合
 個々のベースステーションが「自動公衆送信装置」に該当するか?  その理由としては、次のようにAは述べる。   ベースステーションの所有権は、名実と共に利用者にある。   そのソフトウェアも独自のものはない。   特定の利用者のベースステーションと他の利用者のベースステーションと は、全く無関係に稼働し、それぞれ独立している。   サーバーを設置しておらず、利用者は、インターネット回線を通じて自己のベースステーションに直接アクセスし、必要な指令を送って、ベースステーションから選択した放送データのみの送信をうけているのであって、複数のベースステーション全体が一体のシステムとして機能しているとは評価し難い。   (基本的には、ソニーの)ロケーションフリーテレビのNetAV機能を使用するのと同じである。   ベースステーションによる放送データの送信は、1主体(利用者)から特定の1主体(当該利用者自身)に対してされたものである。  →「公衆」に対する送信ではない。  →「自動公衆送信装置」に該当しない。   →送信可能化権の侵害とならない。  

5 結論が別れた理由と考察について

 共用のサーバーがあるか(@の場合)、ないか(Aの場合)というサーバーシステムの採否の違いが大きいものと思われる。特に、Aでの判示のように、全く無関係に独立しているか否かが重要な意味を持つ。技術的には、あるシステムを採用する場合に、@の場合、Aの場合と採用するのがどちらが困難とは言い難いと思われるが、システムの形態により、一方では、差止が認められ(@の場合)、一方では、差止が認められなかった(Aの場合)ということになる。
 簡単にいえば、共用サーバーを介してインターネットに接続するか(@の場合)、共用サーバーを介することなく、直接インターネットに接続するかという(Aの場合)違いでもあるといえる。実際的な問題としては、ベースステーション自体は独立していても、ベースステーションがインターネットに接続している以上、ベースステーション相互が、「全く無関係に独立」といえるのかは疑問とも思えるが、この「無関係に独立」は、「送信可能化」権が、物理的な存在であるサーバー等の装置自体を問題にする以上、著作権法上の解釈としては、仕方がないものと@は考えたのであろう。

 @の場合、サーバーさえも個人で所有することは現在では可能であるため、サーバーという物理的な存在さえ共用にすることがなければ、判示上からは、送信可能化権侵害とはならないともいえる。このことは、Aの債務者も、次のとおり、主張しており、
 「利用者が所有するサーバー等を預かって保守及び管理を行い,この保守等を 行う者においてサーバー等に電気を供給し,サーバー等をインターネット回線 等に接続する,いわゆるハウジングサービス」
と同じく
 「その実体は,利用者が自宅外に設置したサーバー等に自らのデータを蓄積し, 同サーバー等からデータを自宅内でダウンロードするのと何ら変わりがない。」
としている。
 利用者の立場からは、@Aのシステムのどちらでも便宜は変わらない。利用者の操作上の便宜からも、両者は余り変わらないであろう(まさに接続のシステムが違うだけである。)。
 逆に放送事業者側の立場からでも、共用サーバーを介すか、インターネットに直接接続できるかで、利益状況には何ら変化はないものと思われる。

 Aにおいて、民放会社の保全の必要性に関する主張について、次のようにまとめられている。
「本件サービスが存続するときは、債権者らがコンテンツの提供を受けている権利者との関係に重大な影響を及ぼす。
 すなわち,債権者らが放送する番組には,債権者ら以外の権利者から許諾を受けて放送しているものも多数存在する。その中には,海外の権利者も多いが,債権者らに放送を許諾するにあたって,契約条件の中で,必ず放送地域を日本国内に限定している。これらのコンテンツは,各国ごとに個別にライセンスが付与されるため,権利者にとっては,放送地域が限定されていることが,ライセンスを与える不可欠の前提となっている。しかしながら,仮に本件サービスのような事業が日本法上適法とされてしまうと,このような前提は根底から崩れる。
 このような状況に至れば,海外の権利者としては,日本の放送事業者に放送を許諾すること自体を躊躇せざるを得なくなる。すると,債権者らは,これまで問題なく許諾を受けられていたコンテンツについても許諾が受けられなくなり,日本の視聴者は,海外の多数の優良なコンテンツを視聴できなくなってしまう。
 このような被害は,事後的な損害賠償請求で修復できるものではない。」
 敢えて、コメントを付さないが、@Aはいずれも、係属中である。理論的には、ともかく、実際的には同じことであるから、Aについても、インターネット接続をしていること全体を捉えて「全く無関係に独立」といえないとも考えられないこともない。ただし、この場合、Aにおいて判示されているような、民放会社でさえ著作隣接権侵害を主張していないソニーのロケーションフリー自体の存続も危ぶまれることになるのではないか。
 今後、上級審の判断が待たれるところである。
平成19年1月9日追記へ

以 上


(H19.1作成 :弁護士 岩原 義則) 


→【1】論説 :先使用権制度の意義と活用について
→【3】論説:特許権を侵害する旨の取引先への告知が、権利非侵害となった場合に、不正競争防止法2条1項14号に該当するかについて
→【4】記事のコーナー :平成18年意匠法・商標法等の改正について
→【5】記事のコーナー :おせち料理について
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