発行日 :平成19年 1月
発行NO:No18
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説〜テレビ番組の一括録画配信装置と著作権侵害〜
<平成19年1月9日追記>
1 知財高裁の判断
  東京地裁の「まねきTV」仮処分却下決定に対する抗告審である知財高裁において原審を是認した判断(差止を認めない判断。)が出された(平成18(ラ)10009、平成18(ラ)10010、平成18(ラ)10011、平成18(ラ)10012、平成18(ラ)10013、平成18(ラ)10014)。
争点は、いずれも同じで、
  @ベースステーション等の「自動公衆送信装置」該当性
  A送信可能化行為の主体
  B「送信可能化行為」の該当性判断等
となっている。
  判断の理由も、いずれもほぼ同じであり、知財高裁は民放会社の主張を認めず、抗告を棄却している。

2 争点@について、
2-1 知財高裁の判断
  「全体としてみれば、一つの自動公衆送信装置」であるとする民放会社の主張に対して、 知財高裁は、
「ベースステーションによって行われている送信は、個別の利用者の求めに応じて、当該利用者の所有するベースステーションから利用者があらかじめ指定されたアドレス(通常は利用者自身)宛てにされているものであり、送信の実質がこのようなものである以上、本件サービスに関係する機器を一体としてみたとしても、『自動公衆送信装置』該当性の判断を左右するものではない。」 とした。
  また、民放会社は、 一個のグローバルIPアドレスだけで複数の端末がインターネットにアクセスすることができるようにする技術である「ポートフォワーディング」をルータにおいて用い設定している、すなわち、システム全体を一台のコンピュータとして認識できるようにしている旨主張した。
  しかし、知財高裁は、
  各端末が「1対1」の送信を行う機能しか有していないときは、この技術を用いたとしても、「1対1」の送信しかできないのであって、「1対多」の送信が可能になるものではない。したがって「ポートフォワーディング」の技術故に、直ちに「一連の機器が全体」とはいえないと判断した。

2-2 知財高裁の重視した点について
  知財高裁の判断は、まず、「送信の実質」である「機能」(「1対1のみ」か「1対多」か)が「自動公衆送信装置」該当性判断に重要であって、システムや技術自体から直ちに「一連の機器が全体」とはいえないとしたものである。「送信可能化」が可能なシステムや技術を採用していても、設定等により「1対1のみ」の「送信の機能」を有していれば、「自動公衆送信装置」に該当しないということになる。
  システムや技術を理由に差止を認めてしまえば、結局当該システムや技術自体の否定になってしまう虞れは大きい。また、独立か独立でないかの判断について、送信以外の機能部分(本件は、ポート番号の競合を避けるための設定が行われている。)についても判断に入れるのならば、「独立でない」と考えても理論的にはおかしくはない。しかし、これを否定したといえるもので、意味は大きい。

3 争点Aについて
3-1 知財高裁の判断
 「商品の形態」については、平成17年改正不正競争防止法により、新たに定義規定が設けられ、
 知財高裁は、
 ベースステーションは、
 「『1対1』の送信を行う機能のみを有するものであるものであって」、「自動公衆送信装置」に該当するものではない  「ベースステーションにアンテナを接続したり、ベースステーションをインターネット回線に接続したりしても、その行為が送信可能化行為に該当しない」 と判断している。

3-2 インターネットの接続について
   アンテナ単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく、受信機に接続して受信設備の一環をなすものであることであることを理由に、ベースステーションにアンテナを接続しても、ベースステーションへの送信を行ったことにはならないと判断をしているが、「インターネット回線に接続」する行為が送信可能化行為に該当しないことについては、結論のみが述べられて理由が明確でない。しかし、これも上記と同様に、「送信可能化」が可能なシステムや技術の採用自体から、「1対1」の送信のみを行う機能しかないことが否定されるものではないとしたものと考えられる。

4 争点Bについて
4-1 知財高裁の定立した基準について
 知財高裁は、「送信可能化行為」該当性の判断について以下の基準を定立している。 (1) ベースステーションの機能
 「あらかじめ設定された単一のアドレス宛に送信する機能しかなく、1台のベースステーションについてみれば、『1対1』の送受信が行われるもので、『1対多』の送受信を行う機能を有しない。」
  (2) 本件サービスにおけるベースステーションの利用形態
 利用者各自が所有する各ベースステーションからの送信の宛先は、利用者が別途設置している専用モニター又はパソコンに設定されており、被抗告人(サービス会社)はこの設定を任意に変更することはない。
(3) 送信の契機等
 各ベースステーションからの送信は、これを所有する利用者の発する指令により開始され、当該利用者の選択する放送について行われるものに限られており、被抗告人(サービス会社)はこれに関与しない。

4-2 (1)と(2),(3)の基準の有する意味
 (1)の基準は、「自動公衆送信装置」に該当する基準であり、これは、機能を重視したものである。(2)、(3)の基準は、サービス会社の関与を論じたものであるが、そもそも1の基準によりベースステーションが「自動公衆送信装置」に該当しなければ、サービス会社の行為が「送信可能化行為」になるわけがない。「送信可能化行為」該当性が否定される複数の要素を念のために判断したものと考えられる。  

5 全体的な知財高裁の判断に対して

 知財高裁の判断は、「送信可能化」が可能なシステムや技術自体を理由に否定したものではない。その「送信の実質」的な機能(1対1のみか1対多か)が重要であることを明言した意味は大きい。しかし、逆にいえば、「1対1のみ」の機能を有していなければ、「自動公衆送信装置」に該当することになる。
 知財高裁は、「個別の利用者の求めに応じて、当該利用者の所有するベースステーションから利用者があらかじめ指定されたアドレス(通常は利用者自身)宛てにされているもので」として送信の実質を「1対1のみ」と判断したものであるが、これ以上は語っていない。  このような設定等は技術的には些細なものと思えるが、このような有る意味技術上の選択それだけで差止が認められるか否かという重大な結論の差が出ることについては、疑問の余地はないこともないが、それは立法論で解決すべき問題として知財高裁はみたものと判断できる。

以 上


(H19.1作成 :弁護士 岩原 義則) 




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