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事務所報No.36,INDEX
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発行日 :平成28年 1月
発行NO:No36
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【3】相隣関係でのトラブルについて〜
1、 はじめに
近頃、相隣関係における悪臭問題や眺望侵害、騒音等によるトラブルについて法律相談等において相談される方が多くいらっしゃり、このような相隣関係での問題が長期化・悪質化したケース等が事件化し、新聞・テレビなどで報道されることが多くあります。そこで、不幸にもそのような被害に遭った場合に、被害者本人が具体的にどのように対応することが考えられるのかについて述べてみようと思います。但し、一概に相隣関係の問題といっても前述の通り、悪臭問題、眺望侵害、騒音問題等多様な問題が存在するため、ここでは、騒音問題を取り上げることとし、その他の問題についてはまた別の機会に触れることにします。
2、どのような場合に・どのような請求をなしうるのか
(1)行政による指導
騒音については騒音規制法で一定の規制が行われていますが、生活騒音については規制の対象外とされています。しかし、地域によっては条例で規制されている場合もあります。そこで騒音被害に遭っている場合には、まずは地方公共団体の担当窓口に相談し、役所等の行政による指導による改善を図るべく申入れを行うことが考えられます。このような申入れに対して騒音測定器の貸出しを実施している地域も存在します。
(2)私人間での対応
前記のような行政による指導が期待できない場合、あるいは指導によっても状況が改善されない場合には、他の方策を検討する必要があります。ここで、考えられるのが調停や仲裁などの第三者を介在させた話し合いによる解決手段です。相隣関係での騒音問題は、以後も当事者は継続して隣地に居住を続け、付き合っていく必要がある場合が大半であり、両当事者が納得できる結論を合意により形成することが望ましいからです。この点、調停や仲裁といった手続きであれば、裁判所や私人である第三者を介在させて話し合うことができるため、お互い主張をぶつけやすく、第三者の冷静な判断も参考にしつつ話し合いを進めることができるものと考えられます。弁護士を代理人としての話し合いも当然可能ですから、両当事者が話し合うこと自体を拒絶していないケースでは有効であるといえます。また、マンション住人同士での問題であれば、管理規則違反や区分所有法等を元に、管理組合による対応を期待することも考えられます。
しかし、このような方策での対処が奏功しない場合あるいは困難な場合には、いよいよ裁判で解決を図ることを考える必要があります。また、実際に裁判に至らないケースであっても、実際に裁判になった場合にどのような結論となる可能性が高いのかを頭にいれつつ交渉を進める必要があります。裁判上の請求については、騒音問題に限らず、悪臭問題、眺望侵害等についても同様の考え方をとる場合が多いのですが、被害に遭っている方の人格権が侵害されていることを理由に、騒音の差し止め及び損害賠償を請求することが考えられます。そして、違法な人格権侵害として、実際に騒音の差し止めや損害賠償請求が認められるかどうかは、「侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、騒音等発生場所の地域環境、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間にとられた被害防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の諸般の事情を総合的に考察して、被害が一般社会生活上受忍限度を超えるものかどうかによって決」(最判平6・3・24最判民集172号99頁)せられることになります。ただ、ここで、注意してもらいたいのが、騒音の差し止めについては、相手方の活動に制限を加えるものであり、その利益制限の程度が大きいため、損害賠償請求は認容されても、差止め請求までは認容されないという場合が多いことです。ですから、被害に遭われている方が一番望まれるのは騒音発生をやめさせることであると思いますが、なかなかそこまでが認められるケースは多くないということです。もちろん、これは裁判上請求した場合の結論ですから、当事者間での交渉・調停等において賠償額を減額する代わりに、差止めを認めてもらう等の方策は考えられるところです。
3、損害賠償額について
相隣間の騒音に伴う損害賠償請求においては、騒音を原因として病気になったことを理由とする治療費等の請求や慰謝料を請求することが多いです。ここで、慰謝料額は様々な事情を考慮して算定されるため、相場額を挙げることは難しいですが、侵害行為の態様、侵害の程度、騒音等発生場所の地域環境、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間にとられた被害防止に関する措置の有無及びその内容、効果等に加え、前述のような当事者間の交渉段階において相手方が誠意に欠ける対応を繰り返していた等の事情によって増額が認められた事案があります(東京地判平19・10・3判タ1263号297頁)。
4、立証の問題
前記までの様々な方策をとる場合に大切なのが立証の問題です。騒音の程度を立証するには測定機器を利用するのが最も効果的です。この点前記の通り、地方自治体によっては測定器の貸し出しを行っているところもあるようですから、お住まいの地域が貸し出しを行っている場合には利用することが考えられる他、裁判例の中には、不法行為立証のため不可欠であるなどとして、専門家による騒音測定費用・報酬を損害額として認めたケースもあります(東京地判平24・3・15判時2155号71頁)。測定機器の利用等が難しい場合には、同じように騒音被害に遭っている近隣住民と連携しての立証方法を検討することも考えられます。その他、騒音発生頻度や時刻帯、時間などについてもボイスレコーダー等を利用し記録しておくこと等も考えられます。
5、おわりに
相隣間における騒音トラブルについては、以後も継続的な近所付き合いが必要であるため、当事者間のみでの解決が難しい場合が多く我慢を重ねられることが多いのではないかと思います。しかし、それで体調を崩してしまったりしては大変です。ですから、前述したような方策の内から、適切な対処方法を検討し、的確に証拠収集を行うためにも、早期に弁護士に相談し、アドバイスを受けられるのが望ましいと思います。
(H28.01作成: 弁護士 河原 秀樹)
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