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発行日 :平成27年 7月
発行NO:No35
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【2】論説〜色彩のみからなる商標の出願状況について〜
1.はじめに
商標法の改正により、本年4月1日から新しいタイプの商標が出願可能になりました。本稿で取り上げる色彩のみからなる商標は、その新しいタイプの商標の中の1つの類型であり、従前、「商標」の定義については「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」との規定が置かれ、これに該当しない「文字等と結合していない色彩のみ」については商標法の保護を受けることができなかったのに対し、商標法2条を改正し、「商標」の定義を「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩…」とすることで、色彩のみからなる商標の出願が可能になったものです。
特許庁ホームページの特許情報プラットフォーム(J−PlatPat)の情報によると、平成27年6月24日の時点で公開されている色彩のみからなる商標の出願件数は267件となっています。
2.願書における特定方法
色彩のみからなる商標は、願書の商標登録を受けようとする商標の欄により特定すると共に、商標の詳細な説明の欄には当該色彩を例えばRGB法で記述し、色彩を正確に特定することが求められています。また、商標審査基準によると、色彩のみからなる商標の出願態様については、単色のみで出願するもの、色彩の組み合わせで出願するもの、色彩を付する位置を特定して出願するものという3つの類型が想定されています。
3.識別性
商標の登録要件である識別性については、特許庁の審査基準において商品等が通常有する色彩のみからなる商標については原則として商標法3条1項3号の規定に該当する旨が規定されている点に注意が必要です。つまり、原則として識別性は認められませんので、拒絶理由に対応する形で、その色彩のみからなる商標を使用した商品のこれまでの販売実績や使用形態を証拠で提出するケースが大半を占めると考えられます。
なお、商標審査基準には、色彩のみからなる商標を構成するものは色彩のみであることから、色彩を付する位置を特定する類型で出願したとしても、識別性の審査においてその位置は考慮されず、色彩自体が第3条第1項各号の規定に該当するものであるかの点が審査されることが説明されています。この点は位置商標において形状も含めて色彩を出願するケースとは、扱いが異なることになります。
4.出願事例
商標の識別性の立証においては、出願商標と使用商標の同一性が問題にされることがあります。同一性が認められない場合、それなりの使用実績があっても有効な証拠とみなされず、登録が認められないことが考えられます。
以下は、現在出願中の色彩のみからなる商標の事例を6例ピックアップしたものですが、将来、使用実績の証拠を提出しやすくすることを考慮したものと思われる出願が含まれています。なお、使用商標は、参考のために出願人のウェブサイトなどから転載したもので、出願書類中に含まれているものではありません。
(1)商願2015−29958
出願人 株式会社王将フードサービス
出願商標
使用商標
(2)商願2015−36238
出願人 東日本旅客鉄道株式会社
出願商標
使用商標
(3)商願2015−30281
出願人 株式会社大塚製薬工場
出願商標
使用商標
(4)商願2015−30118
出願人 佐久間製菓株式会社
出願商標
使用商標
(5)商願2015−29914
出願人 株式会社トンボ鉛筆
出願商標
使用商標
(6)商願2015−30127
出願人 京王電鉄株式会社
出願商標
使用商標
5.考察
(1)は、色彩の組み合わせについて出願するものですが、単純な縦方向のボーダーラインにするのではなく、実際の使用態様とよく一致させるために、中央部が外側に膨らんだ形態にしている点で、審査便覧には明記されていない事例といえます。(2)は、商標の詳細な説明の欄に「ICカードの破線は、商品の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。」との記載があるため、色彩を付する位置を特定する類型で出願していることになります。(4)は、商標の詳細な説明の欄に「赤色部分の両側縁から上方へのびた2本の想像線は、これら両想像線とこれらの想像線の上端間を結ぶ水平線(表示なし)で囲まれる部分が白色なので、その輪郭を示すための参考線で、これらの想像線は本件商標の構成に直接的な関係はない。」との説明があり、出願人の意図としては、色彩を付する位置を特定している訳ではなく、色彩の組み合わせで出願しているものと推測されます。
ただ、ここで注意を要するのは、商標審査便覧51.400.01の5項には、色彩を組み合わせることによって明らかに図形を認識させるもの(色彩を組み合わせているが連続反覆することが想定し得ないものを含む。)については、色彩のみからなる商標とは認めないという方針が示されている点です。この審査便覧の規定との兼ね合いで、(1)と(4)は、実務上どのあたりまで許容されるのかを示す限界事例の1つになると考えられます。
実務上は、明らかに図形を認識させるものを権利化したいのであれば、通常の出願とするか、位置商標で出願するか、あるいは色彩のみからなる商標を選択するとしても(2)の事例のように色彩を付する位置を特定する類型で出願することも検討するべきと考えられます。
(H27.07作成: 弁理士 山本 進)
→【1】論説:買物代行業と小売役務商標の侵害事例について〜東京地裁 H27.1.29 判決(判例時報2249号86頁)〜
→【3】論説:成年後見制度の活用について〜
→【4】記事のコーナー:アンケート:自分の名前をどう思っているか〜
→【5】記事のコーナー:ウェアラブル端末〜
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