発行日 :平成27年 7月
発行NO:No35
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】論説:買物代行業と小売役務商標の侵害事例について                         
〜東京地裁 H27.1.29 判決(判例時報2249号86頁)〜

1 IKEA「通販」をご存じでしょうか
  イケア(IKEA International Group)は、スウェーデン発祥で、ヨーロッパ・北米・アジア・オセアニアなど世界に出店している世界最大の家具販売店です。日本においても、関東・関西など7店舗が営業し、そのリーズナブルな価格やデザイン性が評価されて、多くの消費者が利用する有名店になっています。イケアは、客がルームセットを見て気に入った商品をレジ前の陳列倉庫から自ら持ち帰るといったスタイルで販売しているため、ウェブ上での通販を行っていません。一部店舗の会員を対象として九州本土と山口県向けにメ−ルショッピングを実施しているようですが、イケアが通販を行っていないことは、そのHPにも明記されています。

  ところが、インターネットの検索エンジンで「IKEA」を検索すると、「IKEAオンラインショップ」とか、「IKEA通販」と表示したリンク先が多数表示されてきます。これは、イケアがウェブ上での通販を行なわず、消費者自らが店舗に直接行って購入しなければならないことに目をつけて、近くに店舗がない人や忙しくて行けない人のための買物代行をするという第三者のビジネスが展開されているためです。買物代行業者は、注文があると実際にイケアの店舗に行って商品を購入し、注文主にこれを梱包して発送するという仕組みです。イケアでは、自家用車で持ち帰ることを前提とするため、家具の商品代金には配送料が一切含まれておらず、梱包や配送の料金も他の家具販売店に比較して高い設定になっていることから、買物代行業者から購入する方が安く購入できる場合もありますが、イケアでの販売価格を示さずに自らの手数料を多めに付加した販売価格を表示して販売している業者もあって、買物代行業者に対する苦情の声も多く上がっているようです。
  本件は、イケアが無断でロゴや商品写真などを使用されたとして、買物代行業者を著作権侵害・商標権侵害・不正競争防止法違反で提訴した事案です。

2 事案の概要
  本件は、@買物代行業者がある時点で事業譲渡をしたことによりそれ以降のサイトの運営に関する責任を負うか、A買物代行業者がイケアの商品写真及び沿革等にかかる写真と文章を自社サイトに掲載したことがイケアの著作権を侵害するか、B買物代行業者が「【IKEA STORE】」「イケア通販」「IKEA【STORE】」「IKEA通販」の各表示をそのhtmlファイルのタイトルタグ及びメタタグとして使用したことについてイケアが「小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」の役務に有する標準文字「IKEA」商標とロゴ「イケア」商標の各商標権を侵害し、又は不正競争行為に該当するか、Cイケアが侵害行為の結果、損害を蒙ったか、その額はいくらかが争点となったものです。

  そして、イケアは、買物代行業者に対し、@商品写真及び沿革等にかかる写真と文章のウェブサイトへの掲載の差止め、これらの自動公衆送信及び送信可能化の差止め並びにこれらの廃棄、Aそのhtmlファイルのタイトルタグ及びメタタグとしての上記各表示の使用の差止め並びに除去、B著作権侵害の損害賠償金として一著作物当たり年間1000円の割合の使用料相当額合計である金35万4735万円の支払、C商標権侵害又は不正競争による損害賠償金として、買物代行業者が受けた3年9か月分の利益の額である合計金5412万4025円の一部である金1213万4265円の支払、D権利侵害行為と因果関係のある弁護士費用として金124万8000円の支払、Eこれらに対する平成26年11月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ請求しました。

  本判決は、結論として、買物代行業者の著作権侵害及び商標権侵害又は不正競争行為を認め、差止及び除去請求はを認容しましたが、損害賠償請求については著作権侵害に係る部分のみを認容し、買物代行業者に金24万円のみの支払いを命じたものです。

3 当事者の主張  
  争点のうち、@のある時点以降、買物代行業者がサイト運営の責任を負うかについては、本件に固有の争点で、知的財産権分野の争点ではないので、その他について、当事者の主張を紹介します。以下のとおりです。

(1)商品写真等の著作権侵害
  買物代行業者は、そのサイトの商品紹介ページにおいて、イケアの公式サイトにアップロードされていた商品写真や沿革等に関する写真と文章をそのまま転載していました。これらのコンテンツは、イケアが創作したものであったので、イケアは、これらのコンテンツを無断で転載することが著作権侵害にあたると主張しました。
  これに対して、買物代行業者は、沿革等に関する写真と文章については反論しなかったものの、商品写真については、オリジナリティーや創造性に欠け、背景が白であれば誰でも同じ画像が撮影可能であって、著作物性に疑問があると反論すると共に、自社の事業は、イケア商品をインターネット上で販売する事業なのであるから、イケアの商品写真等をそのまま掲載する必要があると主張しました。
  買物代行業者の主張に対して、イケアは、商品写真は、被写体の組合せ、配置、構図、カメラアングル、陰影、背景等に独自性があり、創作性が認められるし、イケアの商品をインターネット上で販売する事業において、その商品を独自に撮影した写真等を掲載することは可能であり、現に同種の事業を営む者のなかにはそのような方法を採っている事業者も複数存在するのであるから、イケアの商品写真を使用する必要性はないと反論しました。

(2)タイトルタグとメタタグにイケアを含む表示を使用した行為
  イケアは、買物代行業者の使用した「【IKEA STORE】」「イケア通販」「IKEA【STORE】」「IKEA通販」の各表示は、著名な「IKEA」、「イケア」の各商標に「通販」「STORE」「【】」を付加したものにすぎず、インターネット上の店舗において使用されているから、「STORE」や「通販」の部分は識別力がないし、また、「【】」の部分にも識別力がないから、「IKEA」ないし「イケア」の部分が要部であり、要部がイケア商標と同一であるから、全体としてイケア商標に類似する。買物代行業者の表示をメタタグとして使用することにより、検索エンジンの検索結果に買物代行業者サイトのホームページ内容の説明文ないし概要として表示され、また、タイトルタグとして使用することにより、検索エンジンの検索結果に買物代行業者サイトのホームページタイトルとして表示されるから、このような使用態様は商標的使用又は商品等表示としての営業的使用に当たる。そして、買物代行業者は、周知、著名な他人の商品等表示であるイケア商標に類似する表示を買物代行業者の商品等表示として使用し、これにより、買物代行業者サイト事業とイケアの営業との混同が生じ、イケアの事業に対し信用の毀損を含む営業上の利益侵害が生じていると主張しました。

  これに対して、買物代行業者は、「IKEA STORE」「イケア通販」及び「IKEA通販」は、イケアの商標である「イケア」及び「IKEA」に類似しない。買物代行業者がこれらの表示を自社サイトのメタタグないしタイトルタグとして使用したとしても、メタタグやタイトルタグは通常人の目に触れるものではないから、商標的使用にも営業的使用にも当たらない。 「イケア」及び「IKEA」という単語をメタタグとして使用しているウェブサイトは多数存在するところ、これが違法だとの認識は一般社会にはないと反論した上、買物代行業者のサイトでは、「「イケア」、「IKEA」など、【IKEA STORE】イケア通販に掲載しているブランド名、製品名などは一般にInter IKEA Systems B.V.の商標または登録商標です。【IKEA STORE】イケア通販では説明の便宜のためにその商品名、団体名などを引用する場合がありますが、それらの商標権の侵害を行う意志、目的はありません。当店はイケア通販専門店になります。」という文章を記載しているから、これらの表示の使用は、正当な引用行為であると主張しました。
  そして、イケアは、この主張に対して、これらの表示は、買物代行業者サイトのページ最下部に小さな文字で記載してあるから、インターネットユーザーがこのような記載に気づく保証はないし、仮に気づいたとしても他の箇所でこれらの表示を無断使用している限り、誤認混同を生じるおそれはなくならないから、買物代行業者の主張には理由がないと反論しています。

(3)著作権侵害の損害の有無及び額
  イケアは、買物代行業者の複製権又は翻案権の侵害及び公衆送信権の侵害により、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害を被ったとして、買物代行業者サイト事業が、イケア商品の買物代行事業であり、商品写真等が事業に貢献する度合いが大きいことに照らすと、少なくとも、一著作物当たり年間1000円が上記金銭に当たると解するとしてその損害の額は、合計35万4734円となると主張しました。

  これに対して、買物代行業者は、自社サイト上に商品写真等が掲載されていた期間に関するイケアの主張は不合理である。自社サイト上に商品写真等の掲載が開始された時期について、イケアは、イケア商品の販売開始時期と同じであると主張するが、イケアサイトではその商品の販売期間や新製品の発売日を事前に告知することはないから、このようなことはありえない。また、イケアの提出する証拠は信用できないものであり、自社による調査の結果では、一部の商品写真については掲載が確認できなかったと反論しました。

(4)商標権侵害又は不正競争の損害の有無及び額について
  イケアは、商標法38条2項、不正競争防止法5条2項に基づき、商標権侵害又は不正競争により買物代行業者が受けた利益の額に相当する額の損害を受けた。買物代行業者は、著名で顧客吸引力のあるイケア商標又はイケアの商品等表示を使用することにより、多くのインターネットユーザーを買物代行業者サイトに誘導して売上げを得ているから、イケア商標又はイケアの商品等表示の買物代行業者サイト事業における売上げに対する寄与率は高い。買物代行業者サイトは、事業開始以降、サイトの名称変更及びドメイン名の変更を除き、基本的に変更が加えられてこなかったと考えられるから、買物代行業者は、買物代行業者サイト事業を開始した平成22年1月以降、買物代行業者の各表示を買物代行業者サイトのhtmlファイルに記載し、検索エンジンによる検索結果に反映させていたと考えるべきであるので、それ以降、平成26年9月までの買物代行業者サイトの売上げに対し、限界利益率を50%、寄与率を50%を順次乗じて乗じた額をイケアの受けた損害とするべきであると主張しました。

  これに対して、買物代行業者は、各表示の使用の事実が認められるのは平成22年7月29日以降であり、それ以前に買物代行業者が表示を使用していたことの証拠はない。買物代行業者の営業所得には当時運営していた他の4つのウェブサイトの売上げが含まれているから、これらを控除すると、買物代行業者サイト事業による利益は少ない。また、粗利については、商品の仕入れが約60%、送料が約10%、クレジット決済手数料が4.5%であるから、約25.5%であるなどと反論しました。

4 裁判所の判断
  本件判決における裁判所の判断のポイントは以下のとおりです。

(1)商品写真の著作物性について
  商品写真は、イケア商品の広告写真であり、いずれも、被写体の影がなく、背景が白であるなどの特徴がある。また、被写体の配置や構図、カメラアングルは、製品に応じて異なるが、商品写真の一部については、同種製品を色が虹を想起せしめるグラデーションとなるように整然と並べるなどの工夫が凝らされているし、別の商品写真の一部についても、マット等をほぼ真上から撮影したもので、生地の質感が看取できるよう撮影方法に工夫が凝らされている。これらの工夫により、商品写真は、原色を多用した色彩豊かな製品を白い背景とのコントラストの中で鮮やかに浮かび上がらせる効果を生み、イケア商品の広告写真としての統一感を出し、商品の特性を消費者に視覚的に伝えるものとなっている。これについては、買物代行業者自身も、「当店が撮影した画像を使用するよりは、IKEA様が撮影した画像を掲載し説明したほうが、商品の状態等がしっかりと伝わると考えております。ネットでの通信販売という性質上、お客様は画像で全てを判断いたします。当店が撮影した画像ではIKEA様ほど鮮明に綺麗に商品を撮影することができません。」と述べているところである。そうであるから、商品写真については創作性を認めることができ、いずれも著作物であると認められる。

(2)タイトルタグ及びメタタグとしての使用が商標権侵害又は不正競争となるか
  買物代行業者の表示は、著名なイケア商標に「通販」「STORE」「【】」を付加してなるものであるが、買物代行業者の表示のうち「通販」や「STORE」の部分は、インターネット上の店舗において使用されるものであって識別力が弱く、また「【】」の部分も符号であって識別力はないから、買物代行業者の表示の要部は、「IKEA」ないし「イケア」の部分であると認められる。これは、イケア商標と少なくとも外観及び称呼が同一ないし類似するから、買物代行業者表示は、イケア商標に類似すると認められる。インターネットの検索エンジンの検索結果において表示されるウェブページの説明は、ウェブサイトの概要等を示す広告であるということができるから、これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグないしタイトルタグを記載することは、役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為に当たる。そして、買物代行業者の表示は、htmlファイルにメタタグないしタイトルタグとして記載された結果、検索エンジンの検索結果において、買物代行業者サイトの内容の説明文ないし概要やホームページタイトルとして表示され、これらが買物代行業者サイトにおける家具等の小売業務の出所等を表示し、インターネットユーザーの目に触れることにより、顧客が買物代行業者サイトにアクセスするよう誘引するのであるから、メタタグないしタイトルタグとしての使用は、商標的使用に当たるということができる。買物代行業者の表示は、原告の商品等表示である「IKEA」ないし「イケア」に類似し、また、両者とも家具等の小売を目的とするウェブサイトで使用され、現に、買物代行業者サイトを原告サイトと勘違いした旨の意見が複数原告のもとに寄せられていることが認められるから、買物代行業者各標章を使用する行為は、原告の営業等と混同を生じさせるものである。

(3)買物代行業者の引用に関する主張について
  買物代行業者サイトにおいて、「『イケア』、『IKEA』など、【IKEA STORE】イケア通販に掲載しているブランド名、製品名などは一般にInter IKEA Systems B.V.の商標または登録商標です。【IKEA STORE】イケア通販では説明の便宜のためにその商品名、団体名などを引用する場合がありますが、それらの商標権の侵害を行う意志、目的はありません。当店はイケア通販専門店になります。」という文言が記載されているとしても、これは買物代行業者サイトのウェブページの最下部に記載されていることが認められ、タイトルタグ又はメタタグと一体となって記載されているものではないから、かかる文言のみを根拠としてメタタグ又はタイトルタグに買物代行業者の表示を使用することが正当な行為であるということはできない。買物代行業者の主張は、採用することができない。

(4)著作物使用料相当額について
  買物代行業者は、イケアの複製権又は翻案権及び公衆送信権を侵害したところ、これについて、少なくとも過失があると認められるから、イケアは、買物代行業者に対し、これによる損害の賠償を請求することができる。そして、イケアは、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害を被ったものと認められる。
  商品写真の著作物使用料相当額については、商品写真は買物代行業者サイト事業において極めて重要なものであるとは考えられるものの、広告写真としての商品写真の創作性の程度が比較的低いことやイケアの請求額に加え、ウェブサイトにおけるデータ変更の容易性等に鑑みれば、掲載期間に関わらず、一著作物当たり1000円と認めるのが相当である。

  イケアの沿革等にかかる文章と写真の著作物使用料相当額については、これにより買物代行業者サイトがイケアの公式サイトであるかのような外観を作出することができるという点において極めて重要なものであると考えられること、イケアの沿革等にかかる文章と写真の創作性の程度が比較的高いことやイケアの請求額に加え、ウェブサイトにおけるデータ変更の容易性等に鑑みれば、証拠上認定できる掲載期間に関わらず、一著作物当たり3000円と認めるのが相当である。
  そうすると、各著作物使用料相当額の合計は、金14万円となる。

(5)買物代行業者の表示の使用による損害について
  イケアは、商標法38条2項、不正競争防止法5条2項に基づき、商標権侵害又は不正競争により買物代行業者が受けた利益の額に相当する額の損害を受けたと主張する。
  商標法38条2項、不正競争防止法5条2項にいう損害の額が認められるためには、権利者に、侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情等損害の発生の基礎となる事情が存在する必要があると解される。ところが、イケアは、イケア商品のインターネット販売を行っていないのであって、買物代行業者による侵害行為がなければ、買物代行業者サイト経由でイケア商品を購入した顧客が原告サイトでイケア商品を購入したということにはならないし、また、買物代行業者サイト事業は、イケア商品の注文を受けるとイケアストアでイケア商品を仕入れてこれを梱包し発送するというものであり、買物代行業者サイトに誘引された顧客の購入したイケア商品は、イケアストアで購入されることによりイケアのフランチャイジーを通してイケアの利益となっているのであるから、イケアについては、買物代行業者サイトによる侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情等損害の発生の基礎となる事情があると認めることはできない。
  そうであるから、商標法38条2項、不正競争防止法5条2項にいう損害の額は認められない。そして、原告は、損害について他に主張も立証もしないから、商標権侵害又は不正競争による損害は認められないものといわざるを得ない。

(6)弁護士費用について
  買物代行業者の不法行為等と相当因果関係のある弁護士費用は、前記認定に係るイケアの損害額その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、10万円が相当であると認める。


5 本事例についての検討
(1)商品写真の著作物性について
  インターネット上に掲載された商品写真の著作物性については、知的財産高等裁判所平成18年03月29日判決(判例タイムズ1234号295頁)が「写真は、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等)、陰影の付け方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景等の諸要素を総合してなる一つの表現である。このような表現は、レンズの選択、露光の調節、シャッタースピードや被写界深度の設定、照明等の撮影技法を駆使した成果として得られることもあれば、オートフォーカスカメラやデジタルカメラの機械的作用を利用した結果として得られることもある。また、構図やシャッターチャンスのように人為的操作により決定されることの多い要素についても、偶然にシャッターチャンスを捉えた場合のように、撮影者の意図を離れて偶然の結果に左右されることもある。そして、ある写真が、どのような撮影技法を用いて得られたものであるのかを、その写真自体から知ることは困難であることが多く、写真から知り得るのは、結果として得られた表現の内容である。撮影に当たってどのような技法が用いられたのかにかかわらず、静物や風景を撮影した写真でも、その構図、光線、背景等には何らかの独自性が表れることが多く、結果として得られた写真の表現自体に独自性が表れ、創作性の存在を肯定し得る場合があるというべきである。」と判示して、その著作物性の判断基準を明らかにしている。この基準は、他の著作物と同様に表現自体に独自性が表れていれば、「創作性」を認められるとするもので、結果として得られた写真で判断するというものであるから、実際上はかなりハードルが低く、上記判決の事案でも創作性が肯定されています。
  本件判決は、上記知財高裁判決の基準に従い、イケアの商品写真の創作性を認めたものであり、商品写真が一般にプロに依頼して撮影されることを勘案すると、結論において妥当と考えられます。比較的単純な商品写真について著作物性を認めた事例を追加するものとして意義があると言えます。

(2)タイトルタグ及びメタタグとしての使用が商標権侵害又は不正競争となるか
  メタタグとしての使用が商標権侵害に該るか否かについては、「くるまの110番事件」大阪地方裁判所平成17年12月26日判決(判例タイムズ1212号275頁・判例時報1934号109頁)が、「 一般に、事業者が、その役務に関してインターネット上にウェブサイトを開設した際のページの表示は、その役務に関する広告であるということができるから、インターネットの検索サイトにおいて表示される当該ページの説明についても、同様に、その役務に関する広告であるというべきであり、これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグを記載することは、役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為にあたる。ある事業者が、複数の標章を並行して用いることはしばしばあることであるから、インターネットの検索サイトにおけるページの説明文の内容と、そこからリンクされたページの内容が全く異なるものであるような場合はともかく、ページの説明文に存在する標章が、リンクされたページに表示されなかったとしても、それだけで、出所識別機能が害されないということはできない。」と判示して、商標権侵害を肯定しています。

  本判決は、上記大阪地裁判決と同様に、他人の商標と類似する表示のメタタグとしての使用を商標権侵害と判断したもので、この点おいても事例を追加したものと言えます。その結論については、弊所事務所報で詳述したとおり、妥当な結論と考えます。
  なお、本判決は、サイト内容を説明する説明メタタグや検索エンジン向けのキーワードメタタグでないタイトルタグについての商標権侵害を認めた点において、新しい事例を追加したものです。

(3)買物代行業者の引用に関する主張について
  本件判決は、買物代行業者が「イケア」は他社の商標で説明の便宜のためにその商品名、団体名などを引用する場合がありますが、それらの商標権の侵害を行う意志、目的はありませんと表示していたから、正当な引用であると主張したことについて、物代行業者サイトのウェブページの最下部に記載され、タイトルタグ又はメタタグと一体となって記載されていないことを根拠に排斥しています。タイトルタグにこのような記載をすることは実際的ではありませんが、説明メタタグにおいてこのような記述を一体として記載した場合は、本判決の論旨からすると正当な引用となって商標権侵害を構成しないとなると考えられます。そもそも、買物代行業者は、イケアと同じものを買うことができるのを売りにしており、イケアに関心のある消費者をできるだけ自社サイトに誘導したいと思っているので、説明メタタグに余計な記述はしたくないはずです。しかし、上記のような記述が説明メタタグにされ、買物代行業者の営業形態が真に買物を代行し、梱包・発送をするに限られる場合は、「イケア」の表示が使用されていたとしても、イケア商標の出所識別機能、品質保証機能、広告宣伝機能が損なわれることはないので、正当な引用として商標権侵害を構成しないと考えられます。

(4)著作物使用料相当額について
  著作物使用料相当額について、イケアが商品写真と文章を区別せず少なくとも一著作物当たり年間1000円と主張したのに対し、本判決は、「イケアの請求額に加え、ウェブサイトにおけるデータ変更の容易性等に鑑みれば、」との理由を述べた上で、証拠上認定できる掲載期間に関わらず、商品写真は一著作物当たり1000円、文章は一著作物当たり3000円と認定しています。文章についてイケアの主張より高い単価を認定したことは妥当と考えますが、証拠上認定できる掲載期間に関わらず1回しか著作物使用料を計算しない点は、商品写真の掲載期間が長いほど売上が上がることや侵害者が早期に侵害を止めても損害賠償額が変わらないという結果を招来することから、妥当とは考えられません。また、データ変更の容易性が使用料相当額を減額する根拠となることも説明不足である上、イケアが控え目名な請求額であったことを根拠に低廉な損害賠償しか認めないのも妥当性を欠く判断と考えられます。

(5)買物代行業者の表示の使用による損害について
  本件判決は、イケアについて、「買物代行業者サイトによる侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情等損害の発生の基礎となる事情があると認めることはできない。」と判示して、買物代行業者の表示の使用による損害賠償請求を棄却しました。
  そもそも、買物代行業者は、イケア店舗で注文のあったイケア商品を買って注文主に発送していたのですから、その売上に対応してイケアの売上が上がっていたことになります。したがって、本件判決の判断は妥当であり、イケアがなぜそのような関係がありながらそのような請求をしたのかが疑問に思えます。

  しいて言えば、イケアは、店舗において梱包・発送サービスを提供していたので、梱包・発送サービスについて利益を得られる機会が減少したとか、イケアが提供してるかのような梱包・発送サービスに対して使用料相当額の損害を受けたと主張すれば、金額は少ないとしても損害賠償が認容されたと思われます。梱包・発送サービスが他社と比べて比較的高額であったためそのような主張をすることを避けたのではないかと推測されます。

(6)弁護士費用について
  本件判決は、イケアが金124万8000円の弁護士費用を請求したのに対して、認容額は金10万円に止まりました。損害賠償の認容額が14万円であることとの関係では相当な額といえますが、差止及び除去請求が全面的に認容されていながら、その部分に対する弁護士費用が算定されていません。著作権侵害、商標権侵害、不正競争行為に対する救済について、知財訴訟の専門家である弁護士を使うしかないことに勘案すると。差止請求部分について弁護士費用の算定がされていない点で本件判決は妥当性を欠くと考えます。

(H27.07作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)


→【2】論説:色彩のみからなる商標の出願状況について
→【3】論説:成年後見制度の活用について
→【4】記事のコーナー:アンケート:自分の名前をどう思っているか〜
→【5】記事のコーナー:ウェアラブル端末〜
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