発行日 :平成27年 1月
発行NO:No34
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】論説:特許異議申立制度の復活について                         
〜新制度の運用と実務対応の注意点〜

1 平成26年特許法改正の経緯
  特許異議申立制度の復活などを規定した特許法等の一部を改正する法律(平成26年法律第36号)が平成26年4月1日参議院本会議を通過し、同月25日の衆議院本会議で可決・成立し、同年5月14日に公布されました。平成15年の特許法改正で旧特許異議申立制度が廃止されて以来12年ぶりに異議申立が復活することになります。

  旧特許異議申立制度は、申立人が異議申立後に意見を述べる機会がなかったため、異議を認められなかった申立人が別途無効審判を請求するという事例が多くあり、紛争が長期化しやすいとの問題などがあったため、無効審判に一元化する方向で廃止されました。廃止後は、権利付与後、第三者は無効審判により特許の成立を争うしかなくなったのですが、無効審判は、口頭審理を原則とするため負担が大きく、特許権者を直接の相手方とするので関係が悪化したり、特許権と自己の技術・商品との関係を詮索されるリスクがあり、その件数は必ずしも増大せず、情報提供が飛躍的に増大していたのが実情でした。そして、平成24年に米国で特許異議申立制度が導入されたこともあり、現在の無効審判制度では誰でもいつでも請求可能であるため、権利を得たにもかかわらず、いつ、誰からも無効の主張を受けるかわからない期間が半永久的に続くこととなり、権利の不安定化につながる側面を有していたので、今回の改正により特許権を見直すための新たな簡便な機会として特許異議申立制度を創設することになったものです。
  平成26年改正特許法は、公布日から1年以内に施行されますが、現在、施行日は未定であり、平成27年4月1日もしくは同年5月13日のいずれかが施行日とされるのが有力です。なお、施行日以降に出願される特許だけでなく、施行日までに特許公報が発行されていない特許についても適用されます。

2 新特許異議申立制度の概要と変更点
  新たに導入される新特許異議申立制度(以下、新制度という。)は、何人も、特許掲載公報発行の日から6カ月以内に限り、特許異議申立をすることができ(113条柱書)、特許異議申立理由が冒認出願や共同出願違反などを除く公益的事由に限られるという点は従来の特許異議申立制度(以下、「旧制度」という。)と同じです(113条)。何人も申立人になれますが、住所氏名を記載するとされていますので(115条)、匿名での申立はできません。しかし、新制度は、旧制度を単純に復活させたものではなく、旧制度の問題点を踏まえ、いくつかの点でその仕組みを変更しています。
  新制度における主な変更点は、次のとおりです。

@ 全件書面審理(118条1項)
  旧制度においても原則書面審理とされていましたが、口頭審理が行われることもありました。しかし、新制度では、すべての審理について書面審理となり、特許権者及び申立人の負担軽減が徹底されました。

A 訂正請求に対する意見提出機会の付与(120条の5)
  特許権者から特許請求の範囲の訂正の請求があったときは、申立人に対し意見書の提出の機会を与えなければならないとされました。旧制度においては、訂正請求に対して意見書提出の機会がなく、申立人が関知し得ない方法で審理が進められ、特許権者に不利にクレームが訂正される虞がありましたが、その点が改善され、訂正請求に対する判断の適正化と制度の利便性の向上が図られました。  なお、異議申立人が意見書の提出を希望しないとき、又は特別の事情があるときは意見提出機会の付与はしなくて構いませんが、特別な事情とは、訂正が訂正要件に適合しない場合、誤記等軽微な場合、請求項の削除のみである場合、特許異議の申立がされていない請求項についてのみされた場合が考えられます。

B 申立書の要旨変更可能期間が短縮(115条)
  旧制度では、6カ月の申立期間が経過するまで、申立理由や証拠などについて申立の要旨の変更が可能でしたが、新制度では、申立期間の経過前に審判官の合議体が特許権者に取消理由を通知した場合、それ以降は申立の要旨を変更することができなくなりました。 したがって、異議申立をするに際しては、採用する証拠や理由について十分に調査・検討して、取消理由が通知されるまでに有力な証拠や理由がないか確認しておくべきと思われます。

3 無効審判制度との関係  
  今回の特許法の改正で、特許無効審判制度は、異議申立期間を経過した後、当事者が参加する口頭審理により特許の有効性を争うより確実な手段として存続させることになりましたが、何人も申立できる異議申立制度が復活したことにより、一方で、審判を請求できる者を利害関係人のみに限ることとなりました(123条4項)。したがって、審判請求をするについて法律上正当な利益を有しないときには利害関係を欠くことになるので(東京高裁昭和45年2月25日判決/判例時報587号36頁)、利害関係の存否についての争いとなる可能性がある場合には、異議申立期間内に異議申立をしておくよう注意することが必要です。この利害関係人の範囲をどのように解すべきかは、問題となるところではありますが、単なる個人では利害関係はなく、少なくとも競業もしくは競業の可能性が必要ではないかと考えられているので、その点も留意事項となります。
  また、新制度についての政令・省令ないし運用基準はまだ公表されていませんが、特許異議の申立と無効審判が同時係属したときは、原則として無効審判の審理を優先し、特許異議申立の審理を中止する運用になるものと思われます。例外的に特許異議の申立が優先されるのは、すでに特許異議の申立が相当程度進行していて、早期に特許異議申立についての決定ができるときや特許異議申立の根拠となる引例の方が無効審判請求の引例より明らかに有力であるときなど特許の成立についての紛争の迅速な解決に資する場合が想定されます。

4 訂正審判との関係
  特許異議の申立が係属したときからその決定が確定するまでの間は、独立して訂正審判を請求することはできないとされています(126条2項)。  この規定の趣旨からすると、特許異議申立と訂正審判が同時係属したときは、原則として特許異議申立についての審理を優先し、訂正審判の審理を中止する運用になると思われます。

5 実務対応の注意点
  特許異議申立制度の復活により、事業者は、他人の特許の成否を争う簡便な機会を手に入れたことになります。しかし、これまでのその役割を担ってきた情報提供の制度はそのまま残り、無効審判は請求についての利害関係が必要になって少しハードルが上がったということになります。したがって、事業活動に伴って、他社の特許の成立を争う場合は、これらの制度の請求人適格、請求可能期間、請求理由の範囲、手続の進行の違いなどを整理・把握して、日頃からどのように対応するか基本方針を策定しておき、適切な対象特許のステージに応じて、適切かつタイムリーに制度の採択をすることが必要と思われます。

(H27.01作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)


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