被告特許庁の主張(審決の判断)
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知財高裁の判断
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(1) 当初明細書には、マイク及びスピーカに関する補正事項について、直接の記載がない。
『これらの記載からは,使用可能な複数の機能としては「通信機能」「電子手帳機能」「電話帳機能」「時計機能」のみが示され,そのまま動作可能な複数の機能としては「電子手帳機能」「電話帳機能」「時計機能」のみが示されていると解され,使用可能又はそのまま動作可能な複数の機能としての「マイクによる音声を電気信号に変換する機能」,「スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」は読み取ることができない。』(審決)
『審決では,補正事項イ)について,文言上,他の機能に並列する「機能」として,「マイクによる音声を電気信号に変換する機能」,「スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」の記載はみあたらないとしているだけであり,本願明細書に「マイクによる音声を電気信号に変換する機能」,「スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」という直接の記載はないのであるから,そもそも審決の認定に誤りはない。』(被告の主張・判決14頁11〜16行)
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(1) 従来技術に関する記載であっても、本願の構成とほぼ同様と説明されていれば、その記載も読み併せて判断すべきである。
『前記1の段落【0002】及び図7を参照すると,従来の携帯電話端末は,「音響信号(音声)を音声電気信号に変換するマイク8」と,「音声電気信号を音響信号に変換するスピーカ9」を備えており,また,本願発明の携帯電話端末に関して,「本装置の基本的な構成は,図7に示した従来の携帯電話端末とほぼ同様であり,従来と同様の部分としてアンテナ1と,無線部2と,ベースバンド処理部3と,表示部7と,マイク8と,スピーカ9と,バッテリ11と,電源制御部12とを備え,」(段落【0016】参照)と記載されているとともに,発明の実施の形態を示す図1には,マイク8及びスピーカ9が制御部10と矢印線により結ばれている様子が示されている。
すると,当初明細書等に記載された本願発明の実施例としての携帯電話端末は,「マイク8」と「スピーカ9」とを備え,従来の携帯電話端末と同様に,「マイク8」は「音響信号(音声)を音声電気信号に変換する」ものであり,「スピーカ9」は「音声電気信号を音響信号に変換する」ものであると認められる。』(判決28頁5〜17行)
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(2) 当初明細書にはマイク及びスピーカの「機能」について、明示的な記載がない。
『本願明細書では,「マイク」及び「スピーカ」の動作について「機能」という表現はなく,「はたらき」,「役割」,「作用」という表現もされていないから,「マイク」や「スピーカ」の動作を「機能」と表現すること自体に必然性がなく,仮に「動作すること」を「機能」と表現できるとしたところで,「マイクの機能」,「スピーカの機能」にとどまるものである。』(被告の主張・判決14頁17〜21行)
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(2) 物が動作することによって作用が生じ、その結果「機能」が提供されると解すべきである。
『「広辞苑第6版」(甲6)によれば,「機能」とは,「物のはたらき。相互に関連し合って全体を構成している各要素や部分が有する固有な役割。また,その役割を果たすこと。作用。」を意味するものと認められるから,物が動作することによって,作用が生じ,その結果「機能」が提供されると解されるから,当初明細書等に「マイク」及び「スピーカ」に関して「機能」との明示的な記載がないとしても,「音響信号(音声)を音声電気信号に変換する」ことが「マイク8」の機能であり,「音声電気信号を音響信号に変換する」ことが「スピーカ9」の機能であるということができ,また,「マイク8」及び「スピーカ9」を備えた携帯電話端末が,「音響信号(音声)を音声電気信号に変換する機能」と「音声電気信号を音響信号に変換する機能」を有していると認定することができる。』(判決28頁18行〜29頁1行)
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(3) 当初明細書には、マイク及びスピーカに関し、回路部品単体としての動作が示されているだけで、アプリケーションとしての機能は記載されていない。
『本願発明における「機能」として本願明細書に明確な技術概念の定義はなく,本願明細書の段落【0012】【0015】【0022】【0029】に記載されているように,電子手帳,電話帳,時計等の使用者に認識され,使用者の要求・意志によって使用状態を制御できる携帯電話端末の機能,つまり,携帯電話端末におけるいわゆる「アプリケーションとしての機能」が例示されるのみである。そして,「マイク」及び「スピーカ」に至っては,従来技術において回路部品単体としての動作が示されるだけであり,「マイク」及び「スピーカ」に上述のような携帯電話端末のアプリケーションとしての機能は本願明細書から何ら読み取ることはできない。』(被告の主張・判決15頁1〜9行)
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(3) 本願発明にいう「機能」は、アプリケーションとしての機能に限られると解することはできない。
『機械的な部品や電気回路等のハードウエア構成も,それらの動作によって使用者に固有の機能を提供すると解されるから,「アプリケーションとしての機能」に限られる理由はなく,また,前記1の段落【0005】においては,通信用接続情報に関して,「無線チャネルの設定,維持,切り替え等を行う無線管理機能」,「位置登録,認証を行う移動管理機能」,「発呼切断等の呼制御機能」等,携帯電話端末内で行われる様々な働きを「機能」と称しているから,本願発明にいう「機能」が「アプリケーションとしての機能」に限られると解することはできないというべきである。』(判決29頁17〜24行)
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(4) 当初明細書の記載からは、通信機能が停止したときにマイク及びスピーカに電源が供給されて動作可能となっていることは読み取れない。また、その点は、当初明細書の記載を考慮しても、自明とはいえない。
『本願明細書では,発明の詳細な説明において,「マイク」及び「スピーカ」の動作が記載されていないから,通信機能が停止した場合に「マイク」及び「スピーカ」に電源が供給されて動作可能となっていることを読み取ることはできない。
また,それらの記載を考慮しても,通信機能停止時に「マイク」及び「スピーカ」が動作可能であることは自明ではない。』(被告の主張・判決16頁3〜7行)
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(4) 図面においてマイク及びスピーカは制御部と矢印線で結ばれている。また、一般に、マイク及びスピーカは本体部に電力供給されていれば、使用可能な状態となるものと解される。
『図1において,「マイク8」及び「スピーカ9」が制御部10と矢印線で結ばれていることから判断して,「マイク8」及び「スピーカ9」は制御部10に接続されて,制御部10との間で電気信号の授受をするものと解され,また,物理学辞典改訂版(甲16)によれば,「マイク」及び「スピーカ」には様々な構造があるものの,一般にそれらが接続されている本体部(制御部10)が電力供給されて動作可能となっていれば,本体部との電気信号の授受に基づいて,それぞれ音声の入出力に関する固有の動作を実行することができ,使用可能な状態となるものと解されるから,本願発明の実施例において,「マイク8」及び「スピーカ9」は制御部10とともに,使用可能な状態となると認められる。』(判決30頁22行〜31頁5行)
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(5) 通話は無線通信を用いて行うものであるから、通信機能停止時にマイク及びスピーカが動作可能であるとはいえない。
『携帯電話端末における通話は,無線通信を用いて行うのであるから「通信機能」を必須としており,通話にマイク及びスピーカの動作は必須であるから,「通信機能」と「通話機能」という表現を用いて両者が技術的に全く異なるものとして扱い,通信機能停止時に「マイク」及び「スピーカ」を動作可能となると結論づける原告の主張には根拠がない。…
本願明細書等において,通信機能が停止した状態で「マイク」及び「スピーカ」への電源供給がされて動作可能であるか否かは記載されていないから,「マイク及びスピーカへ電源が供給され続け,使用可能と理解する」という原告の主張は誤りである。』(被告の主張・判決16頁8〜19行)
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(5) 当初明細書の記載を総合して考慮すれば、無線信号の発着信を行わないすべての機能は使用可能になっていると解するのが自然である。
『「通信機能のみを停止させ,電話番号帳,電子手帳,時計等の通信とは無関係の機能を使用できるように」する(前記1の段落【0015】),「病院等の無線通信禁止区域において,通信機能のみを停止させて電子手帳機能や電話帳機能等はそのまま用いることができるため,利便性を向上させることができ,また,通信機能を停止させて消費電力を低減することができる。」(前記1の段落【0040】)と記載されているから,上記「等」の記載に基づくと,「時計機能」及び「電話帳機能」は,通信とは無関係の機能の例示であって,この両者の機能のみが使用可能となることを意味するものではなく,むしろ,「通信機能のみ」を停止させるとの記載によれば,無線信号の発着信を行わないすべての機能は使用可能になっていると解するのが自然である。』(判決33頁3〜13行)
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