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発行日 :平成23年 1月
発行NO:No26
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【1】論説〜知財関連訴訟における弁護士・弁理士の役割〜
1 知財関連訴訟における弁護士・弁理士の関与
特許権、商標権、著作権に基づく差止請求や損害賠償請求訴訟、職務発明の対価請求訴訟などの知的財産にかかわる訴訟には、一般の訴訟と異なり、弁護士以外に弁理士の関与する場合があります。
弁護士は、日々の業務において、法的紛争の予防や解決に関する業務を行っており、訴訟手続、紛争解決の知識と経験があるのに対し、弁理士は、産業財産権についての権利取得や争訟を行っており、出願手続、技術内容について知識と経験がある点で得意とするポイントが違うのが通常です。弁護士は、訴訟についてどのような裁判所でもどのような事件でも訴訟代理人となってこれを遂行する権限がありますが、弁理士が知財関連訴訟に関与できるのはどのような場合なのでしょうか。
2 知財関連訴訟における弁理士の関与形態
知財関連訴訟における弁理士の関与形態としては、付記弁理士による共同訴訟代理と弁理士による補佐人の形態があります。
(1) 共同訴訟代理
弁理士の業務範囲の拡大などを目的とした平成14年の弁理士法の改正により新設された制度で、弁理士に一定の条件の下で、特定の侵害訴訟の訴訟代理人となることが認められました。
弁理士法6条の2 (共同訴訟代理)
弁理士は、第十五条の二第一項に規定する特定侵害訴訟代理業務試験に合格し、かつ、第二十七条の三第一項の規定によりその旨の付記を受けたときは、特定侵害訴訟に関して、弁護士が同一の依頼者から受任している事件に限り、その訴訟代理人となることができる。
2 前項の規定により訴訟代理人となった弁理士が期日に出頭するときは、弁護士とともに出頭しなければならない。
3 前項の規定にかかわらず、弁理士は、裁判所が相当と認めるときは、単独で出頭することができる。
ここで、「特定侵害訴訟」とは、特許、実用新案、意匠、商標若しくは回路配置に関する権利の侵害又は特定不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟と定義されていますが、その訴訟代理業務に関する研修を終了し、論文式の試験に合格し、日本弁理士会において、特定侵害訴訟代理業務の付記の登録を受ければ、「付記弁理士」の資格が得られます。その付記弁理士が@特定侵害訴訟に関して、A弁護士が同一の依頼者に関して受任している事件に限り、B期日に出頭するときは弁護士とともに出頭して、訴訟代理人として関与できることになります。但し、期日の出頭については、裁判所が相当と認めるときは単独でも出頭できますが、相当と判断されるのは、弁護士が一時的に出頭できない場合で、書類の受送達や期日の指定などの訴訟追行能力が十分でなくても対応できるような事項について行うときなどに限られると解されます。弁護士が同一の依頼者に関して受任している事件については、特定侵害訴訟に付随する仮処分、証拠保全、当事者照会も共同訴訟代理人として関与できることになります。
ちなみに平成22年11月30日現在、弁理士8717名中、2428名(27.9%)が「付記弁理士」の登録を受けています。
(2) 補佐人
上述した共同訴訟代理人とは別に、従来からの弁理士法には、補佐人業務ができる旨が規定されています。
補佐人となるには、試験や登録は不要で、弁理士の資格を得れば、それだけで業務を行うことができます。
弁理士法5条 (補佐人)
弁理士は、特許、実用新案、意匠若しくは商標、国際出願若しくは国際登録出願、回路配置又は特定不正競争に関する事項について、裁判所において、補佐人として、当事者又は訴訟代理人とともに出頭し、陳述又は尋問をすることができる。
2 前項の陳述及び尋問は、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。ただし、当事者又は訴訟代理人が同項の陳述を直ちに取り消し、又は更正したときは、この限りでない。
この補佐人業務は、侵害訴訟に限られず、職務発明に関する訴訟、実施料請求訴訟なども含まれる点で、対象となる訴訟は共同訴訟代理権の範囲より広くなっていますが、著作権や技術上の秘密でない営業秘密に関する不正競争などは、どちらの資格であっても弁理士の関与は認められていません。
民事訴訟法にも補佐人の規定がありますが、弁理士法に基づく場合は、裁判所の許可が不要である点、と尋問までできる点が一般の補佐人制度と異なっており、弁理士の権限が明確化されています。
(3) 単独訴訟代理
特許庁のなした審決等に対する訴え及び審判又は再審の請求書の却下の決定に対する訴えは、知的財産高等裁判所の専属管轄となりますが、従来から弁理士が単独で訴訟代理権を有するとされています。
弁理士法6条(単独訴訟代理)
弁理士は、特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第百七十八条第一項、実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)第四十七条第一項、意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)第五十九条第一項又は商標法第六十三条第一項に規定する訴訟に関して訴訟代理人となることができる。
弁理士が単独で訴訟代理権を有するのは、特許庁の拒絶査定不服審決に対する審決取消訴訟や第三者から特許権者に対して請求される特許無効の審判請求に対する審決取消訴訟があります。前者は、特許等を権利化する手続での最終的な不服申し立ての手続なので、出願代理人となった弁理士がその訴訟を引き続き単独で担当するのが通常です。これに対し、後者の特許無効審判請求は、侵害訴訟に対する抜本的な防衛策としてなされることがあるので、弁護士と弁理士が共同して受任する例も多くあります。
3 弁護士・弁理士の共同関与のメリット・デメリット
知財関連訴訟では、その得意分野の相違から弁護士と弁理士が共同して関与する場合が多く見られますが、共同して関与することのメリット・デメリットとして、どのようなことが考えられるでしょうか。
メリットとしては、弁護士が文科系の大学出身者である場合には、共同する弁理士が対象となる分野の技術に詳しいことで、技術的知見が得られることになります。また、弁護士は、通常、出願実務を行っていませんので、弁理士の関与により、審判、判定、情報提供など特許庁における手続が容易になります。また、特許事務所では、調査会社に頼らずとも行っている先行技術文献、参考事例検索のノウハウを活用できて、クレーム解釈、類否などの鑑定的意見が容易に得られることになります。これらの点からすると、知的財産に詳しくない弁護士の場合は、弁理士の関与を得て、知財関連訴訟を遂行すべきということになると思われます。
他方、弁護士と弁理士が共同して関与することのデメリットとしては、共同する以上、意思決定(判断)、書類作成に事前協議が必要となりますから、迅速な対応ができない場合があり、訴訟戦略、裁判所対応、和解協議で船頭が二人になるおそれがあります。また、関与する弁理士が特許などの出願にも関与していて、出願の仕方や補正に問題のあることが訴訟に際して判明するような場合もあるのですが、そのような場合は、依頼者にストレートに指摘しにくいといったようなこともありえます。そして、たぶんこれが依頼者にとって最も大きなデメリットかもしれませんが、弁護士と弁理士が共同して関与すれば、訴訟に要する報酬等の費用が増大することが挙げられます。
もっとも、事件には係争利益の大きな事件も、小さな事件もあり、弁護士や弁理士の訴訟の報酬もそれぞれ多寡がありますから、ケースバイケースで費用をかけるか、抑えるか考えるしかないとも言えます。
4 弁護士・弁理士の役割分担
知財関連訴訟においては、それが訴訟という裁判所での係争が対象となるのですから、訴訟実務の専門家たる弁護士が関与し、その全体戦略につき、指導的役割を演じることが不可欠です。
他方、弁理士は、技術と出願手続の専門家としてその関与形態に応じ、弁護士と連携してその専門性を相互補完することが重要となります。
それぞれの役割分担により、知財関連訴訟の審理の迅速化・充実化を図り、依頼会社の利益を最大限に擁護することが期待されています。
(H23.01作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)
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