発行日 :平成18年 1月
発行NO:No18
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【4】記事のコーナー〜平成18年意匠法・商標法等の改正について〜
特許庁リンク

平成18年度法改正説明会テキスト(PDF)

<法律改正の目的>

(1)権利保護の強化
 デザイン(意匠)の創作やブランド(商標)の確立、革新的な発明(特許)によって日本の産業の国際競争力を強化するため、国際的な制度調和の観点も踏まえて、産業財産権の保護の強化、権利取得の容易化を図ることを目的としています。 上記法律により実用新案制度について改正された主な事項は下記のとおりです。

(2)模倣品対策の強化
 模倣品被害の国際的拡がりが見られる中で、模倣品の流通・輸出入を防止するための措置を強化することを目的としています。

<改正の概略>
 上記の(1)権利保護の強化、(2)模倣品対策の強化の観点から、産業財産権四法及び不正競争防止法について、以下の措置を講ずるために、該当の条項が括弧書きに記述するように改正されました。

1:デザインの保護(意匠法)
@意匠権の存続期間を延長する(登録から15 年→20年
A情報家電等の操作画面のデザインの保護対象を拡大する(初期画面以外の画面や別の表示機器に表示される画面)
B意匠の類似判断は需要者(消費者、取引業者)の視覚による美感に基づいて行うことを明確化する
Cデザインのバリエーション(関連意匠)や部品・部分のデザイン(部分意匠)の出願期限を延長する(出願と同日のみ→公報発行まで可能)
D秘密意匠制度(3年を限度に登録意匠を公開しない制度)の請求可能時期の追加を行う(出願と同日のみ→登録料納付時も可能に)
E公知となった自らの意匠によって出願した意匠が新規でないとされないための証明書類の提出期限を延長する(出願から14日以内→30日以内)

2:ブランドの保護(商標法)
@小売業者等が使用する商標について、事業者の利便性向上や国際的制度調和のため、役務商標として保護する制度を 導入する
A団体商標の主体を見直し、広く社団(法人格を有しないもの及び会社を除く)も主体となることを可能とする

3:発明の保護(特許法)
@出願に複数の発明が含まれる場合に、発明を切り離して新たな出願(分割出願)とすることができる時期を延長する(審査終了まで→審査終了後30日以内までに延長)
A一次審査の結果(最初の拒絶理由通知)を受けた後は、審査の対象を技術的特徴の異なる別発明に変更することを制限する
B最初に外国語で日本に出願した場合に、追って提出すべき日本語翻訳文の提出期限を延長する(2ヶ月以内→1年2ヶ月以内)

4:模倣品対策の強化
@侵害行為に模倣品の輸出を追加する(産業財産権四法)
A譲渡等を目的として模倣品を所持する行為を侵害行為に追加する(意匠法、特許法、実用新案法)
B特許権、意匠権及び商標権の侵害罪並びに営業秘密侵害罪について、懲役刑の上限を10年、罰金刑の上限を1 ,000 万円に引き上げる等の措置を講じる

<改正内容の説明>
1:デザインの保護(意匠法) @ 意匠権の存続期間の延長
1)意匠権の存続期間が現行15年から20年に延長されます(意匠法21条)。
2)第16年〜第20年の登録料は、現行の第10年〜第15年と同額となります(意匠法42条1項)。
3)改正の経緯  ロングライフ商品やリバイバル商品など、魅力あるデザインは長期間にわたり付加価値の源泉となる一方、意匠権の存続期間満了後に当該製品を模倣する事案も存在していたため、意匠権を適切に保護するために、現行の15年の存続期間では不十分とされました。
4)施行日  平成19年4月1日以降の出願より適用されます。

A保護対象の拡大
1)物品がその本来的な機能を発揮できる状態にする際に必要とされる操作に使用される画面デザインについて、当該画面デザインがその物品の表示部に表示されている場合だけでなく、同時に使用される別の物品の表示部に表示される場合も、物品の部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に含まれるものとして保護されます(意匠法2条2項)。

2)改正の経緯  情報技術の発展に伴い登場してきた画面デザインについては、当該物品に一般に期待される使用目的を実現するために必須であるものであっても、意匠法上、保護されませんでした。この結果、画面デザインを当該物品の一部として創作し、その創作に投資をしている企業等による製品開発の実情と合致しないものとなっていました。  そのため、画面デザインについて、意匠権を取得することを可能とし、模倣被害を防止することとしました。

3)施行日  平成19年4月1日以降の出願より適用されます。
B意匠の類似判断の明確化
1)意匠の類否判断について、需要者の視覚による美感に基づいて行うことを明確化し、これにより、統一性をもった類否判断をすることになります(意匠法24条)。

2)改正の経緯  現行の意匠法において、互いの意匠が類似しているか否かの判断は、意匠の登録要件や意匠権の効力範囲を定める重要な要素となっています。例えば、意匠の登録要件である新規性の判断においては、意匠登録出願に係る意匠が国内外で知られた公知の意匠と同一又は類似する意匠であるか否かが判断され(意匠法3条1項)、同一又は類似の意匠について二以上の意匠登録出願が、異なった日にあったときは最先の意匠登録出願人のみが、同日にあったときは協議に基づいて一の意匠登録出願のみが、意匠登録を受けることができることになっています(意匠法9条)。また、意匠権の効力範囲については、業としてなされる登録意匠及びこれに類似する意匠の実施に及ぶものと規定されています(意匠法23条)。
 その一方で、最高裁判例においては、新規性の要件については、一般需要者の視点から見た美感の類否を判断するものとされ、意匠権の効力範囲については、一般需要者から見て登録意匠と類似の美感を生ぜしめる意匠に及ぶものとされていましたが(最高裁昭和49年3月19日判決・民集28巻2号308頁/最高裁昭50年2月28日判決・判例タイムズ320号160頁)、これらの判例を前提に意匠の類否判断について、需要者の視覚による美感に基づいて行うことを明確化しました。

3)施行日  平成19年4月1日とされています。
C部分意匠・関連意匠の出願期限の延長
1)先願意匠(全体)の一部と、同一又は類似である後願意匠(部分)は、先願の意匠公報の発行までに、同一出願人が出願した場合には登録を受けられることになります(意匠法3条の2)
 なお、先願意匠(全体)が秘密意匠(意匠法14条)であっても、後願意匠(部分)の出願可能時期は、同様に先願意匠(全体)の最初の公報発行の前日までとされました。

2)本意匠の公報発行の前日までの間に出願された関連意匠の登録が認められます(意匠法10条1項)
 なお、本意匠が秘密意匠(意匠法14条)であっても、関連意匠の出願可能時期は、同様に本意匠の最初の公報発行の前日までとされました。但し、専用実施権が設定された本意匠についての関連意匠の登録は、上記期限内であってもできません(意匠法10条4項)。

3)改正の経緯
−部分意匠−
 交換部品のデザイン模倣やデザインの特徴的な部分のみを巧みに取り入れる模倣など、模倣の手口が多様化していることから、模倣品対策として、部品や部分意匠の意匠権を取得する重要性が高まっています。
 現行法では、先願の意匠の一部と同一又は類似である後願の意匠は、意匠法3条の2の規定により登録を受けることができないので、部品や部分意匠の意匠登録を受けるには、全体の意匠の出願より先か同日に出願する必要がありました。
 一方、デザイン開発上、製品全体のデザインが創作された時点では部品の詳細なデザインが決定していない場合など、部品や部分意匠の出願が間に合わず、意匠権を取得できない場合が生じていました。
 このため、自己の出願意匠の後願意匠となる部品の意匠や部分意匠についても意匠登録を可能とすることで模倣被害を防止することとなりました。

−関連意匠−
 企業における商品開発は、開発当初から全てのバリエーションを創作する場合のみならず、当初製品投入後に追加的にデザイン・バリエーションを開発する場合があるなど多様化しつつあります。
 また、本意匠と同日出願の場合にのみ関連意匠の出願を認める現行制度下にあっては、市場投入が予測される全てのデザイン・バリエーションについての図面や資料等を当初出願時に準備しなければならず、当面の実施製品に係る意匠から先行して出願するなどの柔軟な出願方法に対応できないとの指摘があったので、関連意匠についても、本意匠の出願後の出願を認めることになりました。

4)施行日   平成19年4月1日以降の出願より適用されます。
D秘密意匠の請求可能時期の追加
1)秘密意匠の請求ができる時期について、従来の出願と同時に行う場合に加え、第1年分の登録料の納付(20条)と同時に行う場合も認められます(14条)。
 なお、登録料の納付は本人に限られないため、第三者が納付してしまい、その結果、秘密意匠請求の機会を逃すことのないよう留意する必要があります。また、早期公開を避けたい意匠については、可能な限り出願と同時に秘密意匠の請求を行うことが望ましいとされています。

2)改正の経緯  登録意匠は意匠登録後に発行される意匠公報によって公開されることから、権利者が商品化する前に模倣品が発生することを防止するため、現行制度では、出願と同時に秘密意匠の請求をすることにより、意匠登録後に発行される意匠公報では、当該登録意匠を公開せず、登録意匠の公開時期について最大3年間の猶予を得ることができます(14条、20条)。
 一方、審査期間が短縮化してきており、出願当初は秘密意匠の請求は不要と判断していたものの、審査が早く終了したため、商品化の前にもかかわらず、意匠公報の発行によって登録意匠が公開され、商品の広告・販売戦略等に支障が出る場合が生じています。
 このため、審査の終了後であって、意匠登録前に秘密意匠の請求を行うことを可能として、権利者が商品化する前に模倣品が発生することを防止することができるようにしました。

3)施行日   平成19年4月1日以降の出願より適用されます。
E新規性喪失の例外の適用に必要な証明書類提出期限の延長
1)新規性喪失の例外規定の適用を受けるために必要な証明書類の提出期限について、現行法において出願の日から14日以内とされているのを、出願の日から30日以内に延長しました(意匠法4条)。

2)改正の経緯
 意匠法では、出願前に国内又は海外で公然知られた意匠又はこれに類似する意匠等は新規性の要件を満たさないことから意匠登録を受けられませんが(3条)、出願日から遡って6ヶ月間に意匠登録を受ける権利を有する者が意匠を公開した場合は、それにより出願意匠の新規性等が喪失しない(新規性喪失の例外)ものとして扱われます(4条)。
 現行意匠法では、当該例外の適用を受けるためには、出願時にその旨を願書に記載し、出願日から14日以内に適用の要件を満たす事実を証明する書面を提出することが必要となっていますが、企業の製品開発の活発化に伴って、出願前に自ら意匠を公開する場合が増加する一方、本規定の適用を受けるために、公開事実について第三者からの証明を取得することに時間を要し、証明書類の準備期間が不十分である場合もあり、新規性喪失の例外の適用を受けやすくしました。

3)施行日  平成18年9月1日以降の出願より適用されています。
2:ブランドの保護(商標法)
@小売業者等が使用する商標の保護
1)顧客が来店してから立ち去るまでの間に、小売・卸売業者が顧客に提供する商品の販売により収益を得るための総合的なサービス活動の提供を、「小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」として商標法上の役務とみなし、役務商標(サービスマーク)として登録できるようになります(商標法2条2項)。
 具体的な小売サービスとしては、商品を取り扱い販売する小売及び卸売業に関するもので、例えば、デパート、コンビニエンスストア、家電量販店などの総合小売店、靴屋、本屋、八百屋などの専門店により提供される顧客に対して行う便益の提供が含まれます。
 また、通信販売事業者、インターネット販売事業者などによるものも含まれます

2)改正の経緯
 小売業者等の使用する商標は、これまで個別の商品と関連して使用される限りにおいて、商品に係る商標(商品商標)としての保護がなされていました。
 他方、小売業者等は、商品の販売を促進するために、需要者による商品の選択が容易となるようなサービス活動を行っていますが、このようなサービスは、商品を販売するための付随的な役務であり、かつ対価の支払いが商品価格に転嫁して間接的に支払われ、直接的な対価の支払いが行われていない以上、商標法上の「役務」(サービス)には該当しないとされていました(「シャディ事件」東京高等裁判所平成12年8月29日判決・判例時報1737号124頁/「ESPRIT 事件」東京高等裁判所平成13年1月31日判決)。

 商標法においては、登録商標が商品や役務との関係において「使用」されていない場合には取り消され(商標法50条)、またその効力範囲も商品又は役務について「使用」する権利を専有する(商標法25条)とされるなど、商標法において商標の「使用」とは商標権の外延を定める重要な概念とされますが、商品に係る商標(商品商標)により保護される商標権は、一般的な小売サービスの使用態様において商標の使用と認められていませんでした。
 例えば、多品種の商品を扱う総合小売店における店舗名として使用される商標や、ショッピングカート、従業員の制服などに使用される商標のように、個別の商品との具体的関連性が見出しにくい態様で使用される商標は、商品としての出所を表示せずに、小売業者等によるサービス活動の出所を表示するものと考えられ、商標法により直接的な保護の対象とはなっていませんでした。
 このため、小売・卸売業者の利便性の向上を図ると共に、標章の登録のための共通の分類である国際分類を採用することを目的に締結されたニース協定の国際分類の第9版の改正(2007年1月発効予定)に伴い、現在、小売サービスを独立したサービスとして取り扱う米国、2000年10月から小売業商標をサービスマークとして認めることとした英国、2001年3月から小売業者の使用する商標についてサービスマークとしての保護を認めることとした欧州共同体商標意匠庁(OHIM )の動向に合わせて、わが国においても、「小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を役務商標として、登録することができるようにしました。

3)施行日
 平成19年4月1日以降の出願より適用されます。
 なお、経過措置として、施行の際に、小売サービスを行っている範囲内については、小売サービスについての登録商標があったとしても継続して使用できるとする「継続的使用権」が認められています(附則6条)。また、これに伴い、継続的使用権を有する者の業務に係る役務と自己の業務に係る役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求できるとする「混同防止表示請求権」が規定されています(附則6条)。さらに、施行後3か月以内(特例期間)に出願された小売サービスを指定役務とする出願同士は同日出願として審査が行われ、出願日の特例の適用を受けた結果同日出願となった出願同士については、協議命令の応答中に施行前から使用していることを証明する書面等を提出することにより、施行前から使用していた商標に係る出願が優先して登録されます(附則7条、8条)
A団体商標の主体の拡大
1)事業者を構成員に有する団体がその構成員に共通に使用させる商標であり、商品又は役務の出所が当該団体の構成員であることを明らかにする団体商標(登録要件は通常の商標権と同じ)の主体を、商工会議所、商工会、NPO 法人、中間法人等の社団(法人格を有しないもの及び会社を除く)についても広く認めることになりました(商標法7条)。
 なお、団体商標は団体の構成員が使用許諾を得ることなく使用権を与えられること(商標法31条の2)にメリットがあることから、その構成員が扱う商品や役務の共通的特質を表示する商標について出願することが望ましいとされています。また、今回改正で主体が拡大するのは団体商標のみであり、地域団体商標の主体までを拡大するものではありません。

2)改正の経緯
 近年、商工会議所、商工会、NPO 法人等についても、その構成員が扱う商品又は役務を明らかにするため、その構成員に商標を共通して使用させている実態があります。
 また、公益法人制度改革の一貫として、社団法人は一般社団法人への移行が予定されていることから、中間法人についても、一般社団法人として団体商標の主体として認められることとなりました。

3)施行日  平成18年9月1日から施行されています。 3:発明の保護(特許法)
@分割の時期的制限の緩和と分割出願の補正制限
1)特許査定後又は拒絶査定後の一定期間(30日以内)にも、出願の分割が可能となりました。但し、特許査定後においては、設定登録前に限られます(特許法44条)。
 特許料納付期限又は拒絶査定不服審判の請求可能期間が延長された場合には、連動して分割可能な期間も延長されます。但し、審判請求以降の分割可能期間は、改正前と同様、明細書等について補正をすることができる期間に限られます。

2)分割出願の審査において、もとの特許出願等の審査において通知済みの拒絶の理由が解消されていない場合(例えば、分割出願の特許請求の範囲に、もとの特許出願の審査において進歩性が否定された発明と実質的に同じ発明が含まれている場合)には、拒絶の理由が既に通知されていることから、1回目の拒絶理由の通知であっても「最後の拒絶理由通知」を受けた場合と同様の補正制限が課されます。この場合、拒絶理由通知の回数は原則1回となります(特許法50条の2等)。したがって、上記の場合には、「最後の拒絶理由通知」が通知された後にする補正の制限に従い、@請求項の削除、A特許請求の範囲の限定的減縮、B誤記の訂正、C明瞭でない記載の釈明のいずれかを目的とする補正のみが可能となります。

3)改正の経緯
 現行制度では、特許査定時の特許請求の範囲が十分実効的なものでない場合や、特許請求の範囲に発明を的確に表現できずに拒絶査定となってしまった場合に、出願を分割して適切な特許請求の範囲で再度権利取得を目指すことができませんでした。
 一方、拒絶理由が通知されることなく特許査定がなされると、出願を分割する機会が得られないため、出願人は、故意に拒絶理由を含む発明を特許請求の範囲に記載したり、念のため事前に出願を分割する場合がありました。また、拒絶査定後に出願を分割する機会を得るためにのみ、拒絶査定不服審判を請求する場合がありました。
 また、現行制度においては、もとの特許出願の審査において既に拒絶の理由が通知されている発明をそのままの内容で再度分割することが可能です。
 このため、権利化時期を先延ばしすることを目的として、あるいは別の審査官により異なる判断がなされることを期待して、拒絶理由通知の内容や特許請求の範囲の記載を充分に精査せずに、同じ発明を繰り返し分割出願するといった分割出願制度の濫用がされているとの指摘がありました。
 このような指摘に対応するため、出願人の適正な権利行使と制度の濫用を防止するために上記の改正がなされました。

4)施行日
 平成19年4月1日以降の出願より適用されます。
 なお、「もとの出願」が施行日以前になされた場合は、施行後にされた分割出願等に改正法は適用されません。
A別発明に変更する補正の禁止
1)拒絶理由通知を受けた後に特許請求の範囲に記載された発明を技術的特徴の異なる別発明に変更する補正が禁止されます(特許法17条の2第4項等)。
 別発明に変更する補正は拒絶の理由(最後の拒絶理由通知後の場合は補正却下)となりますが、別発明に変更する補正が行われても発明に実質的な瑕疵が生じる訳ではなく、特許されたとしても直接第三者の利益を著しく害することにはならないため、無効理由とはされません。

2)改正の経緯
 現行制度では、拒絶理由通知を受けた後に、特許請求の範囲を技術的特徴の異なる別発明に変更することにより、実質的に2件分の審査を受けることが可能となります。このため、審査を受ける前に取得しようとする権利を精査し絞り込んでいる出願人と、そうでない出願人との間で、出願の取扱いに不公平が生じ、審査効率も低下します。また、このような補正が許容されているため、二以上の発明を一の願書で出願できる範囲を制限している「発明の単一性」の要件(特許法37条)の趣旨が没却されていました。
 わが国の現行制度では、拒絶理由通知を受けた後に特許請求の範囲を補正して技術的特徴の異なる別発明に変更することが可能となっていますが、欧米ではこのような補正は認められていませんので、国際的な手続きの調和の趣旨も勘案し、改正がなされました。

3)施行日
 平成19年4月1日以降の出願より適用されます。
B外国語書面出願の翻訳文提出期間の延長
1)外国語書面出願の翻訳文提出期間を、出願日(日本に第1国出願した場合には、日本の出願日、パリ優先権を伴って日本に第2国出願した場合には、第1国出願日)から1年2月以内に延長されます(特許法36条の2第2項等)。
 但し、出願日(もとの出願等の出願日に遡及)から1年2月の翻訳文提出期間を経過する直前又はその経過後に外国語書面出願の分割若しくは出願の変更に係る外国語書面出願又は実用新案登録に基づく外国語書面出願を行う場合においては、現実の出願日から2月間、翻訳文を提出することが可能となります。

2)改正の経緯
 パリ優先権主張を伴う外国語書面出願を行う場合は、第1国出願から日本への第2国出願までに1年間の優先権期間が与えられているために、最大で1年2月を日本語の翻訳文作成に充てることができます。
 一方、日本に外国語書面出願による第1国出願を行った場合には、日本語の翻訳文を作成するための期間が2月しか与えられておらず、特にベンチャー企業等にとって大きな翻訳の負担がありました。
 外国語書面出願(先の出願)に基づき国内優先権を主張して新たな外国語書面出願(後の出願)を行う場合、現行制度では、(1年3月後にみなし取下げとなる)先の出願についても2月以内に翻訳文を提出しておかないと、先の出願から2月以上経過後に国内優先権を主張して後の出願を行うことができませんでした(特許法36条の2第4項)。
 これらに対応するものとして、上記の改正がなされました。

3)施行日
 平成19年4月1日以降の出願より適用されます。

4:模倣品対策の強化
@輸出の定義規定への追加(産業財産権四法)
1)意匠法、特許法及び実用新案法の「実施」の定義並びに商標法の「使用」の定義に、「輸出」が加わります。これにより、模倣品輸出行為の水際での差止め等を行うことが可能となります。

2)譲渡目的の所持が「侵害とみなす行為」とされることに伴い、「輸出目的の所持」行為を侵害とみなす行為として規定しました。

3)改正の経緯
 経済のグローバル化の進展により、企業等による国境を越えた経済取引が活発化し、わが国の産業財産権を侵害する物品が国境を越えて取引される事例が増大しています。
 国内における製造や譲渡が秘密裏に行われ、輸出段階で侵害品が発見された場合や、侵害者が自分で国外へ侵害物品を持ち出す場合など、産業財産権四法において実施又は使用とされている「製造」や「譲渡」等では適切な差止めを行うことができないという間隙があったので、上記のように侵害行為の範囲を拡大することになりました。

4)施行日
 平成19年1月1日以降の輸出行為から適用されます。
A譲渡等を目的とした所持の侵害行為への追加
1)侵害物品の譲渡、貸渡し、輸出を目的としてこれを所持する行為がみなし侵害規定に追加されます(特許法101条、実用新案法28条、意匠法38条)。
 なお、商標法においてはすでに規定されています(商標法37条2号)。

2)改正の経緯
 現行制度上、侵害物品の所持行為は侵害とされていません。したがって、模倣品が特定箇所で集積されている所持行為を発見した場合に、民事上の差止請求は、譲渡等の事実又はそのおそれを立証しなければならず、刑事上も所持行為を発見しただけでは取締りが困難な状況にありました。このような困難を解消し、権利行使をし易くするため、上記の改正がなされました。

3)施行日
 平成19年1月1日から適用されます。
B刑事罰の強化
1)意匠権、特許権及び商標権の直接侵害に対する懲役刑の上限を10年、罰金額の上限を1000万円に引き上げるとともに、実用新案権の侵害罪に係る懲役刑の上限が5年、罰金刑の上限が500万円にそれぞれ引き上げられます。

2)みなし侵害行為(いわゆる「間接侵害」)については、産業財産権四法ともに懲役5年とし、罰金刑は500万円となりました。

3)また、四法統一的に懲役刑と罰金額の併科を導入し、法人重課については、3億円以下の罰金に引き上げられます。

4)改正の経緯
 現行制度においては、特許権及び商標権侵害罪に係る刑事罰が5年以下の懲役又は500万円以下の罰金、実用新案権及び意匠権侵害罪に係る刑事罰が3年以下の懲役又は300万円以下の罰金となっています。また、いずれにおいても懲役刑と罰金刑の併科は規定されていません。
 両罰規定における法人重課の罰金額については、特許権及び商標権侵害罪に係る罰金額が1億5千万円以下、実用新案権及び意匠権侵害罪に係る罰金額が1億円以下となっていました。
 しかしながら、近年、デザインの創作やブランドの確立、革新的な技術発明などを通じた製品・サービスの差別化・高付加価値化が重視される傾向にあり、産業財産権の侵害による被害が甚大なものとなっていることから、産業財産権の侵害に対する強固な対応に資するものとして、刑罰の強化がなされました。

5)施行日
 平成19年1月1日から適用されます。

以上

(H19.1作成 : 特許商標部 竹内 幹晴)


→【1】論説 :先使用権制度の意義と活用について
→【2】論説:テレビ番組の一括録画配信装置と著作権侵害
→【3】論説:特許権を侵害する旨の取引先への告知が、権利非侵害となった場合に、不正競争防止法2条1項14号に該当するかについて
→【5】記事のコーナー :おせち料理について
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