発行日 :平成14年 7月
発行NO:No9
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説〜特定商取引に関する法律について〜
(1)はじめに

平成12年11月、従来のいわゆる訪問販売法が改正され、「特定商取引に関する法律」(昭和五十一年六月四日法律第五十七号)、いわゆる、「特定商取引法」と名称を新たにし、平成13年6月1日、施行されました(最終改正 平成14年4月19日)。 複雑な法律ですが、悪質な取引業者を排除するために、また、悪質な業者と言われないためにも、消費者にとっても、業者にとっても重要な法律ですので、簡単に紹介がてらに「特定商取引法」を見てみます。

(2)法律の目的と性格

2-1 監督官庁(通商産業省)による行政規制・刑罰規制
まず、特定商取引法は、直接私法上の権利を規制したものではなく、行政規制法それに伴う刑罰規制法です。つまり、特定商取引法に違反したからといって、直ちに、例えば、契約が無効となったり、取消できたりできるものではありません。特定商取引法は、あくまで、業者が遵守すべき事項、禁止されるべき事項を定めたものです。 私法上の権利の有効性については、民法や商法、消費者契約法などの制約の中で論議されるものです。 とはいえ、遵守すべき事項、禁止事項の違反は、例えば、民法90条の「公序良俗」に反する行為となると言いやすくなったとはいえるでしょう。

2-2 消費者保護制度
(1)開業規制なし
先に述べたように、特定商取引法は、私法上の権利を直接制約したものではありません。そのため、開業規制はありません。特定商取引法が規制する業種を行うことは、職業選択の自由といえます。
(2)情報開示を中心にした規制内容
規制内容は、情報開示を中心にした規制となっています。消費者として、情報開示は、商品や役務提供を受ける場合に重要な判断要素となっているからです。  
(3)指定商品・指定役務制度
批判はあるかもしれませんが、特定商取引法の規制は、指定商品・指定役務として認められたものだけに規制がかかります。したがって、ある商品等が、指定商品・指定役務と認められるかは、特定商取引法の適用において、重要な意味を持つことになります。  
(4)クーリングオフ制度(通信販売にはない。)
消費者保護制度として、最も重要で、効果のあるのは、いわゆるクーリングオフ制度です。
消費者に、熟慮の期間を定めたものといわれ、消費者になんの負担もなく契約の解消が認められます。クーリングオフ制度を利用する際には、後日、証拠を残すために、できれば配達証明付きの内容証明郵便を利用するようにし、葉書・封書で送る際にも、コピーをとるなり、書留にするなり、消費者として最低限の自衛をしましょう。
クーリングオフの期間は、期間が定まっており、以下のとおりとなっています。

訪問販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供取引→8日間
連鎖販売、業務提供誘引販売取引→20日間
通信販売→なし

通信販売には、適用がないこと、そして、先に述べたように、指定商品・指定役務に関する取引でなければ、適用がないことは十分に注意しましょう。  
(5)行政監督制度
特定商取引法は、本質的には、業者に対する行政規制を定めたものです。違反業者には、行政監督制度があります。積極的に、行政を利用することが、特定商取引法の今後の運用に有用であることは意識した方がよいでしょう。 どこに、連絡をすればいいかという問題ですが、市役所などに問い合わせれば、担当部署を教えてくれます。まずは、電話をし、聞くことが、対応を早くするコツだと思います。  
(6)行政処分の申出制度
これも、特定商取引法の規制に関するものです。違法業者、不遵守業者を撲滅するためには、消費者の声が必要です。この行政処分の申出を証拠を添付した書面で行うためには、法律家のアドバイスが必要でしょう。悪徳業者の撲滅には、消費者、消費者団体、行政、法律家等の連携が重要です。

2-3 消費者契約法(平成13年4月1日施行)などによる救済
特定商取引法に反した行為の効果については、民法、商法等の法律で決せられます。  ここで、注目すべきは、やはり、消費者契約法でしょう。
消費者契約法は、巷では、役立たないのではないかとも批判のある法律ですが、特定商取引法の対象となる取引についても適用できる場合があります。法律に不備な点があるのは、当然のことで、やはり、ここでも、法律を知り、現実を知り、時には、法律家のアドバイスを交えながら、法律を育てていく努力が必要でしょう。

(3)平成12年11月改正−訪問販売法から特定商取引法へ

3-1 業務提供誘引販売取引(内職・モニター商法)の規制
平成12年11月改正により、いわゆる内職・モニター商法が、新たに保護対象となりました。
逆をいえば、改正前に締結された内職・モニター商法には、適用がないのですが、今後は、インターネットを検索するなりして、消費者にも情報収集の努力が必要となります。
インターネットは、消費者にとって、重要な武器です。

3-2 マルチ商法の規制強化

(1)広告規制を一般会員にも拡大
(2)特定負担「2万円」の要件撤廃

マルチ商法にも規制が強化されました。
特に、従来、特定負担「2万円」の要件により、適用を免れていたいわゆるマルチ紛い商法にも適用されることになり、重要な意味を持つことになるでしょう。

3-3 インターネット通販における誤注文の防止

(1)有料申込の分かりやすい画面表示
(2)申込内容の確認画面義務づけ

インターネット通販における規制も備わりました。
インターネットは、従来の法体系を覆すようなものが多く、網羅的な適用は、今後も難しいものと思います。
特定商取引法は、業者にとって、最低限守るべきものと考えることが、正当な取引を行う業者にとっても、重要な意味を持ちます。
インターネットは、消費者に大きな武器を与えました。特定商取引法でさえ遵守できない業者は、ますます排除されていくものと思われます。
参考としては、いわゆる「オンラインマーク」制度があります。
詳しくは、オンラインマークで、インターネットを検索して下さい。リンク先を明示する方が親切ではないかという疑問があるかもしれませんが、インターネットは、日々進歩(もちろん、退化も)しますので、リンクは敢えてしません。

3-4 平成13年6月1日施行

(1)施行日以前→訪問販売法
施行日以前には、従来の訪問販売法が適用されます。したがって、施行日以前に契約した業務提供誘引販売取引には適用はありません。
 
(3)遡及効はなし
施行日以前の契約についても、遡及効はありません。
平成13年6月1日以降の取引に適用があるということは十分に頭に入れておく必要があるでしょう。
以下では、類型毎に、遵守事項・禁止事項を挙げ、最後にネガティブオプションについて簡単に説明します。
省令も日々改正されます。常に、新しいものに接しましょう。そして、類型についても一々、リンクや説明はしません。
消費者が、具体的な取引に接したときに、特定商取引法に違反するのではないかと思い、インターネットを検索し、行政、消費者センター、法律家のアドバイスを受けようと思うきっかけとなればよいのです。悪質業者は、払って貰えば儲けものという考えを持つ者が多いのです。重要なことは、泣き寝入りしないこと、あきらめないことです。

(4)訪問販売

4-1 法令違反(遵守事項・禁止事項)
(1)氏名等の明示義務(法3)
(2)書面交付義務(法4・5)
(3)不実告知の禁止(法6T)
(4)威迫・困惑させることの禁止(法6U2)
(5)債務の履行遅延等の禁止(法7T)
(6)事実の不告知の禁止(法7(2))
(7)迷惑勧誘等の禁止(法7(3)・省令7(1))
(8)判断力不足に便乗の禁止(同条・省令7(2))
(9)契約書虚偽記載の教唆の禁止(同条・省令7(3))
(10)つきまとい行為の禁止(同条・省令7(4))
(11)消耗品のクーリング・オフ妨害禁止(同条・省令7(5))

(5)通信販売

5-1 法令違反(遵守事項・禁止事項) 
(1)広告の表示義務(法11)
(2)誇大広告等の禁止(法12)
(3)前払式通信販売の承諾等の通知義務(法13)
(4)顧客の意思に反して申込みをさせようとする行為の禁止(法14・省令16T@〜B)

(6)電話勧誘販売

6-1 法令違反(遵守事項・禁止事項)
(1)氏名等の明示義務(法16)
(2)再勧誘等の禁止(法17)
(3)書面交付義務(法18・法19)
(4)前払式電話勧誘販売の承諾等の通知義務(法20)
(5)不実告知の禁止(法21T)
(6)威迫・困惑の禁止(法21U)
(7)債務の履行遅延等の禁止(法22T)
(8)事実不告知の禁止(法22A)
(9)迷惑勧誘等の禁止(法22B・省令23@)
(10)判断不足力による便乗の禁止(同条・省令23A)
(11)契約書虚偽記載の教唆の禁止(同条・省令23B)
(12)消耗品のクリーング・オフ妨害の禁止(同条・省令23C)

(7)連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)

7-1 法令違反(遵守事項・禁止事項)
(1)不実告知・事実不告知の禁止(法34T・U、省令31A)
(2)威迫・困惑の禁止(法34V)
(3)書面交付義務(法37)
(4)上記@AB類型の教唆の禁止(法38C・省令31B〜D)
(5)広告の表示義務(法35)
(6)誇大広告の禁止(法36)
(7)債務の履行遅延等の禁止(法38@)
(8)確定的判断の提供の禁止(法38A)
(9)迷惑勧誘等の禁止(法38B・C・省令31@)
(10)判断力不足に便乗の禁止(法38C・省令31E)
(11)契約書虚偽記載教唆の禁止(法38C・省令31F)  
(8)特定継続的役務提供取引

8-1 法令違反(遵守事項・禁止事項)
(1)書面交付義務(法42T〜V)
(2)誇大広告の禁止(法43・省令37)
(3)不実告知の禁止(法44T)
(4)威迫・困惑行為の禁止(法44U)
(5)履行の拒否等の禁止(法46@)
(6)重要事項の不告知の禁止(法46A)
(7)迷惑行為の禁止(法46B・省令39@)
(8)判断力不足に便乗の禁止(法46B・省令39B)
(9)契約書虚偽記載教唆の禁止(法46B・省令39B)
(10)クーリング・オフ妨害の禁止(法46B・省39C)

8-2 4種類のものを規制対象
(11)エステテッィクサロン 1か月を超え、5万円を超えるもの
(12)外国語会話教室    2か月を超え、5万円を超えるもの
(13)学習塾        2か月を超え、5万円を超えるもの
(14)家庭教師       2か月を超え、5万円を超えるもの

8-3 中途解約制度
クーリングオフ期間を過ぎても、中途解約制度が導入されました。
あきらめずに、泣き寝入りせずに、契約書をよく読み、さらに、中途解約が規定されていないのならば、特定商取引法に反しないかという姿勢が必要です。
(9)業務提供誘引販売取引(いわゆる内職・モニター商法)

9-1 法令違反(遵守事項・禁止事項)
(1)広告規制遵守(法53)
(2)誇大広告の禁止(法54)
(3)事実不告知・不実告知の禁止(法52T)
(4)威迫・困惑の禁止(法52U)
(5)書面交付義務(法55)
(6)履行の拒否等の禁止(法56(1))
(7)断定的判断提供の禁止(法56U)
(8)判断力不足に便乗の禁止(法56(4)・省令46条(2))
(10)契約書虚偽記載教唆の禁止(法56(4)・省令46(3))
(10)ネガティブ・オプション(法59)

10-1 商品の送り付けと購入義務の有無→無(承諾なし、ただし民526U)
これは、少し説明が必要でしょう。商品を勝手に送り付けられ、例えば、振込書が入っている場合に、料金を支払う義務は、全くありません。指定商品・指定役務に入っているかは関係がありません。
これは、法律的にいうと、申込に対応する承諾がないということがいえますが、悪徳業者は、払ってくれれば儲けものという考えの者もありますので、注意しましょう。
司法の世界では、払ったものを取り返すということは、払えと言われたものを払わないということよりも一般的には、難しいと考えられます。

10-2 送り付け商品と保管義務(せいぜい、民659、故意に処分しなけれ ばの見解も)
この点も、特定商取引法に関する特有の問題ではありません。送り付けられた商品の代金を支払う必要はありませんが、送り付けられた者が、直ちに処分することはできません。あくまで、商品は業者のものだからです。
保管義務については、依然存在するということです。これをついて、業者が買取を迫ることもありますので、消費者としては注意すべき点でしょう。

10-3 返還請求権の喪失(法59)
原則は、以上のとおりですが、特定商取引法は、この送り付け商品について、特別な規定を設けました。
(1)消費者が商品を受領した日から14日を経過するまで、
(2)または消費者が商品の引取りを請求したときは請求日から7日を経過するまで

以 上


(H14.7作成 :弁護士 岩原 義則) 


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