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発行日 :平成13年 7月
発行NO:No7
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【1】論説〜特許権の実施契約について〜
(1)実施契約とは何か。
企業が研究開発をした結果を特許として出願し、特許庁の審査を受けて、これを特許権として保有しておくことは、その研究開発結果を競合他社に使用させないようにするために必要なことですが、このような特許取得競争が激しくなると、企業が新しい技術による新製品を製造販売しようとしても、第三者が既に特許権を保有していて、その技術を採用することができないという事態が発生します。このような場合に、権利者との話し合いにより、その特許権を使用料はいくらか、使用期間は何年かとかの条件を取決めて使用させてもらうことが行われていますが、特許権について、その使用許諾の条件を取決めた契約のことを「実施契約」と呼んでいます。
(2)実施権の種類
財産権の一つである特許権を利用する権利として特許法では、専用実施権と通常実施権の2種類の実施権が規定されています。
(1)
専用実施権
専用実施権は、特許権者がその特許権について設定することができる実施権で、専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において業としてその特許発明の実施をする権利を専有するとされています(特許法77条1項、2項)。専用実施権は、第三者による同一内容の特許権の実施を排除できる物権的、排他的な効力、すなわち、侵害者に対して、自分で差止め、損害賠償請求、刑事告訴のできる効力があります。但し、専用実施権は、その設定につき、特許庁へ登録申請して、特許原簿に登録をされなければ、効力を生じないとされています(特許法98条1項)。専用実施権は、当事者間で地域や内容などその範囲を制限することができますが、特約がない限り、専用実施権者には、権利者も専用実施権者の許諾を受けなければ特許権を使えないという独占権が与えられます。
(2)
通常実施権
通常実施権は、特許権者又は特許権者の承諾を得た専用実施権者がその特許権について他人に許諾することができる実施権で、通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を有するとされています(特許法78条1項、2項)。通常実施権は、専用実施権と異なり、登録が効力発生要件とはされていませんので、当事者間で契約をするだけで設定することができます。また、通常実施権の設定を登録することはできますが、事後に設定された専用実施権に対して対抗できることとなるだけで、独占権はありません。そして、権利者は、同じ内容の通常実施権を複数の相手に許諾することができます。
なお、当事者間で通常実施権を他人には許諾しなと約束することはできますが、この場合でも、専用実施権と異なり、第三者に対して、権利主張をすることはできません。また、専用実施権設定契約をしたものの、その特許原簿への登録がなく、効力が発生していない場合も同様であり、これらを「独占的通常実施権」と呼ぶことがあります。
種類
複数に許諾できるか
登録の要否
侵害者に対する直接の権利行使
特許権者の実施の可否
専用実施権
独占的
要
可
許諾がなければ不可
通常実施権
独占的
不要
不可
契約で禁止されなければ可
非独占的
不要
不可
可
(3)実施契約の留意点
特許権の実施契約を締結するに際して、留意すべき点としては、先ず、対象となる権利の内容や技術範囲の確認が挙げられます。本来、実施権は、成立した特許権について設定するものですが、特許出願中の技術や特許出願していないノウハウを対象とする場合もあり、特許権を対象としても、これが失効していないか、権利者に変動がないか、第三者への実施権の設定がないか、実施許諾を受ける技術が特許権の内容となっているかなどについて、確認する必要があります。これらの事項は、通常、特許公報と特許原簿謄本によって、確認します。
次に、許諾を受けた技術により製造する新製品との関係で、実施料の額や実施期間が適正であるかどうかについて、留意すべきです。実施料については 当初支払額、継続支払額の有無及び額は相当か、技術指導に対する対価を含むかどうか、実施期間は、事業遂行上必要な期間をカバーできているかなどを確認し、トータルの負担が技術内容に応じて、適正と言えるかどうか検討する必要があります。
また、実施権の種類・範囲、実施料の支払方法、支払時期、販売状況の報告、実施権の移転や再許諾の可否、改良発明の取扱、秘密保持などの契約条項について、どちらとでも判断できるような表現を避け、明確な条項とすることが肝要です。そのためにできるだけ法令で定義された用語を使用し、過不足のない正確な表現に努めることが必要です。
なお、特許権の実施契約のうち、通常実施権許諾契約の一例を示すと、別掲のとおりですので、ご参照ください。
(H13.7作成 弁護士・弁理士 溝上 哲也)
→【2】論説:勝つ「証拠」負ける「証拠」、強い「証拠」弱い「証拠」
→【3】記事のコーナー:商標の金銭的請求権について
→【4】事務所の近況:2001年を迎え、あっという間に、半年が過ぎようとしています。
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