■商標出願Q&A


  • Q,01
  • 商標登録の出願をした場合、出願から登録までの期間は、その商標を使用することが出来るのでしょうか?
  • A01
  • 「出願から登録までの間は、その商標を使用することが出来るか」についてですが、その商標が、他人の商標権を侵害していないのであれば、登録前に使用しても、特に問題はないと言えます。 しかし、出願中の商標は、特許庁の審査は、まだ完了していない訳ですから、他人の商標権を侵害していないか否かの判断がつきません。 そこで、登録前に使用を開始する商標については、出願の前に、商標調査をされることをお勧めします。商標調査を行えば、ごく最近に出願されたもの(6ヶ月位前まで)は、データ範囲外となりますが、それ以外については、同一又は類似の先願、先登録がないかを調査することができるので、出願商標の登録可能性や使用の可否について、おおよその判断をすることが可能です。また、特に慎重を期する案件については、データ範囲外の期間をなくすために、出願後6ヶ月程度経過した時点で、再度商標調査をされることをお勧めしています。 なお、未登録の商標に「登録商標」等の商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付することは、虚偽表示として禁止されています(商標法74条)。


  • Q,02
  • 商標登録出願は、代理人に依頼せずに、自分ですることが可能でしょうか。また、弁理士に一連の手続を依頼した場合、費用はどのくらいかかるのでしょうか。
  • A,02
  • 出願人本人にて申請することは可能ですが、指定商品又は役務の表示方法や出願形態などについて、実務的なアドバイスを受けた方が良いこともあります。また、弊所ホームページにてご説明しているように、出願後、形式審査、実体審査などを受けますので、これらに対する対応のことも考慮すると、弁理士にご依頼されるのが無難と思われます。 商標の出願から登録までの費用は、図形商標の場合、1商標1区分の出願で出願時金84,000円(消費税込)、登録時金108,000円(10年分一括納付、消費税込)の合計192,000円となっております。 調査の結果、「登録可能」と判断された場合は、通常、上記の合計額以外の費用はかかりませんが、特許庁から拒絶理由通知がなされた場合には、別途、手続補正書又は意見書の提出費用(内容により約5万円〜約9万円程度)が必要となります。


  • Q,03
  • 商標調査の結果が「○」であったため出願をしようと思いますが、指定商品又は役務について、出願商標を実際に使用している必要はありますか。
  • A,03
  • 商標法は、商標を使用することにより商標に化体した事業者の業務上の信用を保護し、併せて需要者の利益保護を図ることを法目的としています。すなわち、商標は、事業者によって使用されることを前提としていますから、商標法2条では、「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であつて、業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品又は役務について使用をするもの」を「商標」と定義しています。  また、商標の登録要件を定めた商標法3条1項の柱書きでは、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」と規定されており、使用予定のない商品又は役務については、商標登録は受けられないというのが原則となっています。例えば、第35類「財務書類の監査」や第42類「工業所有権に関する手続の代理」等は公認会計士や弁護士又は弁理士のみが行う業務であるため、通常の株式会社が出願した場合には3条1項柱書き違反の拒絶理由になると考えられます。  しかし、わが国の商標法は、登録主義を採用しているので、出願時に現に商標を使用していることや使用計画があることの証明を求められることはありません。すなわち、商標法3条1項柱書きの「自己の業務」については、査定時に出願人に業務があることの蓋然性があれば足りると解されており、特許庁における審査実務も、そのように運用されています。  従って、当面使用する予定の商品が例えば「洋服」のみであるとしても、将来の業務拡張も考慮に入れて、例えば「ベルト類,靴類」等も併せて出願しておくことは、問題なく認められます。  但し、わが国の商標法は、登録主義を基調としつつも、商標権の登録後においては、第三者からの請求によって不使用商標の登録を取り消す不使用取消審判の制度を別途記載のように設けており、上記した法目的に沿うように調整が図られています。


  • Q,04
  • 例えば、「A図形+ANGEL」という商標を登録した場合(以下、「A図形」は、特定の称呼・観念を生じない図形であると仮定します。)、今後全ての商品に全く同じ図柄のネームタグをつけなければならないのですか。つまり、登録商標と全く同一の商標でないと、登録商標を使用している商品として認められないのでしょうか(大文字・小文字の区別。フォントの違いなど)。また、他人の使用についても、その他人が使用している商標が登録商標と同一でない場合には、使用の差し止めは出来ないのでしょうか。  また、標準文字で出願して登録を受けた場合は、「ANGEL」というブランド名のみの権利となるのですか。すなわち、「A図形」については、他人の使用を差し止めることは出来ないことになるのでしょうか。
  • A,04
  • 特許庁に出願した商標が、商標権として設定登録されると、商標権者は、願書に記載した指定商品について、登録商標の使用をする権利を専有します(商標法25条)。すなわち、法が、商標権者に対し、独占排他的な使用を積極的に認めるのは、登録商標と同一の商標のみということになります。 しかし、法は、上記専有権とは別に、登録商標の類似範囲に属するような商標の、権原なき第三者による使用については、商標権の侵害があったものとみなし、その使用を禁止し、または排除する権利(禁止権)を認めています(商標法37条1号)。そして、一般に商標の類似・非類似は、商標の有する外観、称呼、観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察して、判断されると言われています。 したがって、上記ご質問のように、「A図形+ANGEL」の態様で商標権を取得された場合、その登録商標からは、「エンジェル」の称呼のみが生ずると考えられることより、他人が、「ANGEL」の文字のみからなる商標を使用する行為に対しては、当該商標権の禁止権の効力が及ぶと解されます。また、他人が、貴社出願の後に、例えば、「ANGEL」の文字のみで商標登録出願をしても、その出願は特許庁において拒絶されると考えられます。なお、大文字から小文字への変更使用、フォントの変更使用についても、「エンジェル」の称呼及び「天使」の観念のみが生ずることに変りはなく、社会通念上、登録商標の使用と認められる範囲の変更であると考えられます(商標法50条1項かっこ書)。 このように、商標権者は、自己の登録商標の類似範囲に属するような商標については、第三者の権利を侵害することがなければ、事実上、使用することができると解されます。 次に、標準文字で出願して登録を受けた場合についてですが、標準文字出願は、商標登録を求める対象としての商標が文字のみにより構成される場合であって、出願人が商標の態様について特別に権利要求をしないときに、特許庁長官があらかじめ指定して公表している書体の文字(これを「標準文字」と呼んでいます。)をもって商標登録を受けることができる制度であるので、標準文字出願の場合、そもそも、「A図形」を出願商標の構成に含めること自体できないことになります。したがって、「ANGEL」の文字のみで標準文字出願をされて登録を受けた場合には、他人が、「A図形」を使用することに対しての差止請求は、全くできないことになります。


  • Q,05
  • 不使用取消審判の審判請求書の副本が送達されました。不使用取消審判とは、どのような制度ですか。また、取消を免れるためには、どのような要件が必要となりますか。
  • A,05
  • a.不使用取消審判の趣旨 商標法は、第1条(目的)において、「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」と定め、第2条(定義等)では、『この法律で「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。』とし、同条1号では、「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」、同条2号では、「業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)」と規定しています。 これらの規定から明らかなように、商標法は、第2条で「標章」といっている文字や図形そのものを保護対象とするものではなく、事業者が自己の商品又は役務に商標を長年使用することによって、商標に化体した業務上の信用の維持を図ることを目的とするものですから、商標権を付与しても使用されていないのでは上記法目的を達成することは出来ませんし、保護の必要もないことになります。そこで、第3条(商標登録の要件)では、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」と規定されており、商標の使用が登録要件となっていることが確認できます。 しかしながら、我が国の商標制度は、登録主義を採用しているので、第3条でいう「使用」は、商標登録出願の際に実際に使用している必要はなく、将来使用する意思や使用すると考えられる蓋然性が認められれば良いと解されています。したがって、我が国の商標制度の下では、登録阻却要件に該当しない商標は、現実に使用されているか否かにかかわらず登録が認められ、また、登録後も、使用していなくても更新は可能であるので、現実には一度も使用されていない商標でも、長年に亘って登録を維持することが可能になっています。 そこで、我が国の商標法は、登録主義を基調としつつも、第三者からの請求によって不使用商標の登録を取り消す不使用取消審判の制度を設け、上記した法目的に沿うように調整を図っているのです。 b.不使用取消審判の請求が認められる要件 商標法50条1項では、@「継続して三年以上」、A「日本国内において」、B「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが」、C「各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)」の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができると規定されており、同条2項では、「前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。」と規定されています。 そこで、上記@〜Cの要件について詳述すると、先ず、@「継続して三年以上使用していないとき」についてですが、この「三年」という期間の起算点は、当該不使用取消審判の請求が、商標登録原簿に予告登録された日であるとされています。したがって、審判請求書の副本送達前であっても、予告登録後に開始した使用によっては、取消しを免れることは出来ません。通常、予告登録は、審判請求書の副本が送達されるよりも数ヶ月前に行われているので、予告登録の日は、商標登録原簿を取寄せて確認する必要があります。なお、「継続して」であることより、予告登録の日から3年間遡った期間内に、少なくとも一度使用していれば、取消しを免れることができます。また、「使用していないとき」であることより、過去に3年以上の不使用期間があったとしても、予告登録前3年以内に使用されていれば、取消しが認められることはありません。 なお、商標法50条3項では、「第一項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは、その登録商標の使用は第一項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。」と規定されているので、例えば、審判請求の4ヶ月前に審判請求人から譲渡交渉があり、その日付を請求人が配達証明付郵便物等で証明した場合などは、予告登録直前の駆け込み使用を認めない上記規定に基づき、審判請求の3ヶ月前から予告登録までの期間の使用は、登録商標の使用として認められないことになります。 次に、上記Aについてですが、「日本国内において」と規定されているので、外国でのみ使用されていても、取消しを免れることはできないことになります。また、上記Bについてですが、「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが」と規定されているので、商標権者、専用使用権者、通常使用権者の何れかが使用していれば、取消しが認められることはありません。 さらに、C「各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないとき」についてですが、「各指定商品又は指定役務について」と規定されているので、取消請求に係る指定商品又は指定役務中、少なくとも1つの商品又は役務について使用していることを立証する必要があります。したがって、取消請求に係る指定商品又は指定商品と類似する商品又は役務であって、取消請求に係る指定商品又は指定役務には含まれない商品又は役務に使用していても、取消を免れることはできません。また、「登録商標の」と規定されているので、使用商標は登録商標と一致していることが原則ですが、(1) 書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、(2) 平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、(3) 外観において同視される図形からなる商標、(4) その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標については、登録商標の使用と認められることが規定されています。 c.不使用取消審判の効果  現行法では、商標法54条2項において、「前項の規定にかかわらず、第五十条第一項の審判により商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは、商標権は、同項の審判の請求の登録の日に消滅したものとみなす。」と規定しているので、不使用取消審判については、取消しの効果は、予告登録の日まで遡及することになります。 平成8年改正前の商標法では、不使用取消審判についても、他の取消審判と同様に、「商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは、商標権は、その後消滅する。」と規定されていたので、審判請求人は、審決が確定するまで不使用商標の使用を待たなければならず、それ以前に使用すると、不使用商標の商標権に基いて、差止請求や損害賠償請求を受けるおそれがありました。 上記の問題点に鑑みて、現行法では、不使用取消審判については、取消しの効果を予告登録の日まで遡及させたので、不使用取消審判の請求を受けた登録商標が実際に不使用である場合には、商標権者としては、予告登録の日に遡及して消滅するおそれのある商標権に基く権利行使は避けることが予測されます。