発行日 :平成29年 1月
発行NO:No38
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】知的財産紛争をめぐる弁護士の役割 〜侵害警告への対応方法〜
  ネットショップで販売した商品について特許権者から警告書が送られて来たことはありませんか?また、開設したWebページのコンテンツについて著作権を侵害するとの指摘を受けたことはありませんか?本稿では、皆さんが知的財産をめぐる紛争に遭遇したとき、誰に相談し、どのように対応したら良いかについて、弁護士の役割という視点から解説します。

1 知的財産の種類について

  「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいうと定義されています(知的財産基本法2条1項)。知的財産にかかる権利のうち、工業上及び商業上の知的創造活動の成果を保護する「特許」「実用新案」「意匠」「商標」を総称して、産業財産権と呼んでいて、特許庁に出願という手続を行って権利が付与されています。他方、工業的生産物とは異なり、文芸、学術、美術、音楽などの文化的活動に属する知的創作物を保護する法律として著作権法があり、著作権法では、自ら創作した著作物を独占的に支配して財産的利益を受ける権利である「著作権」と、既存の著作物を利用してこれを一般公衆に伝達する役目を担う実演家、レコード製作者、放送事業者等の経済的利益の保護を図る「著作隣接権」が規定され、これらの権利は登録手続を不要として保護されています。また、知的財産にかかるその他の権利としては、営業上の標識である商法上の権利としての「商号」や民法の不法行為となる個人の「氏名や肖像を利用する権利」、技術ノウハウや顧客情報などの営業秘密の不正取得や商品形態の模倣、周知又は著名な表示へのフリーライドを規制する「不正競争防止法上の権利」があります。さらに、近年におけるバイオテクノロジーやエレクトロニクスなどの技術革新に対応して植物の新品種の保護を図る種苗法の「育成者権」や半導体集積回路の回路配置に関する法律による「回路配置利用権」の登録など新たに保護されるようになった権利も生まれています。

2 知的財産を巡る紛争の実情

  知的財産を巡っては、このように多種多様の権利がある一方で、近年のIT技術の進歩により、個人や小規模の企業がネットショップやオークションで商取引を行ったり、特定の分野に特化したホームページを作成して情報発信を行ったりして、知的財産を自ら創造したり、他人の知的財産を利用しています。そして、これらの利用に際しては、知的財産についての理解が必ずしも十分でないこともあって、気づかないうちに他人の権利を侵害してしまったり、侵害と疑われる行為を行ってしまうことがあり、権利者からの侵害警告を受けることが生じています。また、権利者の側もネットを通じて、侵害を発見することや、誰がそのコンテンツをアップロードしたのかを特定することが容易になっており、知的財産を巡る紛争が多くなっている実情があります。

3 知的財産に関連する資格と弁護士の役割

  それでは、このような知的財産を巡る紛争に巻き込まれたときに皆さんはどのような資格を持つ人に相談をしたり、示談交渉を依頼したら良いのでしょうか。
  知的財産に関連する資格としては、弁護士、弁理士、技術士、司法書士、行政書士があります。
  このうち、技術士は、特許・実用新案といった技術に関する権利についての技術事項のアドバイスには適していますが、対外的紛争の解決や権利の有効無効や範囲の解釈判断には適していません。また、行政書士は、紛争解決の代理権限が無く、著作権や種苗の登録など行政庁に提出する書類を作成することを主たる業務としていますので、同様に対外的紛争の解決や権利の有効無効ないし範囲の解釈判断には適していません。さらに、司法書士は、法律的文書や裁判書類を作成することを業務範囲としていますが、訴訟事件の代理をすることができるのは、訴額140万円を超えない簡易裁判所の事件であり、知的財産専門部は東京地裁と大阪地裁にしかないので、知財分野における紛争解決の資格としては限界があります。

  これらのことからすると、知的財産を巡る紛争については、紛争処理とすべての裁判所に対応できる弁護士か、産業財産権の有効無効や範囲を解釈することに慣れている弁理士に依頼すべきと言うことになります。もっとも、弁護士の中には、知的財産分野の紛争に慣れていない人がいるので、どのような経歴の人か確認して相談することが必要です。また、弁理士は、営業秘密にかかわる不正競争や種苗法に関する事件などについては業務範囲外であり、産業財産権の侵害訴訟についても特定侵害訴訟代理業務試験に合格しなければ、訴訟代理人とはなれませんので、いわゆる「付記弁理士」であることを確認して相談することが必要です。そして、付記弁理士も弁護士と共同代理でなければ、訴訟代理人になれませんので、重要な案件については、弁護士と付記弁理士の双方に相談依頼するのが最善の方法となります。結局、知的財産を巡る紛争は、その権利の内容についての知識を有することに加えて、訴訟による解決を見据えた対応が必要であり、裁判手続や証拠の収集、評価に慣れた弁護士の役割が不可欠ということになります。

4 侵害警告を受けたときの対応方法

     知的財産を巡って警告書が届いたり、メールや電話で侵害の指摘を受けたときには、相手方が有効な権利を有しているのか、自分が行った行為がその権利を侵害する行為と言えるのかをまず確認することが必要です。「特許」「実用新案」「意匠」の場合は、権利を維持するため毎年登録料を納付する必要がありますので、警告の根拠となった権利が登録料未納によって失効していたというようなこともあるからです。また、「商標」の場合は、類似商標の調査を行うことにより、権利範囲がそれほど広くないことが判ったり、無効原因のある登録であったりすることもあります。
   そして、これらの確認をした後に、相手方の要求する内容の当否を判断し、相手方に回答を行うと共に、場合によっては示談交渉を開始する必要があります。個人的にネット販売をしているだけだとか、趣味のWebサイトだからと放置していたりすると、権利者の認識とのずれが生じ、事案によっては、相手方が差止の訴訟や仮処分に及んだり、刑事告訴を行う可能性まであります。また、侵害が間違いない場合であっても、損害賠償額を減額する事由があるかどうか確認しないと、権利者の請求する損害賠償の額が相当であるかどうかは判りません。
  侵害警告を受けた場合に、これらの確認と判断をするためには、先ず、知的財産についての知識と経験を有し、紛争処理についてノウハウを有する弁護士や弁理士に相談することが肝要です。そして、相談結果によっては、その知財紛争の解決を弁護士や弁理士に依頼して、侵害の疑いを晴らしたり、権利を無効化したり、適正な損害額での示談を模索することになります。

以 上

(H29.12作成: 弁護士 溝上 哲也)
→【2】論説:知財高裁における技術系事件の審決取消率の推移について 〜
→【3】論説:犯罪被害に遭った場合に〜
→【4】記事のコーナー:アンケート「自分自身に対して、普段頑張っているなーと思う事、自分をほめたくなる事」〜
→【5】記事のコーナー:事務所の近況〜
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