発行日 :平成23年 1月
発行NO:No26
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説〜法律業務の改善をしました【Emacs・org-modeの利用】〜
1 Emacs・org-modeを用いることによる業務の改善
  部分的・実験的ですが(達成主観度8割),業務の改善のために,Emacs・org-modeを取り入れました。  お客様の目からみて,便利になった点を,これを機会に報告します。  なお,Emacs・org-modeに興味をお持ちの方で,ご相談,ご紹介,ないし事件受任に至った場合には,まだ作成途中(随時追加中,未完状態)なるも拙著「書面作りのために【Emacs・org-modeを用いて】(仮)」を差し上げます。

2 業務改善の例
2.1 より速い文書の作成!
  「従来のワープロソフト(Word,一太郎,OOo等)に比較して,極めて速い感覚で書類を作ります。
  弁護士の手間も省いた上での業務改善ですので,文書作成について従来より,よりお得なサービスをご提供できると考えています。

2.2 見栄えのよい文書作成!
  従来の弁護士作成の書面は,厳しい(いかめしい)が取っ付きにくい書面が多かったとおもわれます。よりアピール型を重視するように,書面の体裁も少し変えました。htmlによる作成ですので,htmlのタグをご提供いただければ,それに沿った書面も作成できます(ご要望が完全に満たされるというわけではありませんが)。
  見栄えのよい文書作成の観点を取り入れることにより,よりアピール面を取り入れた文書を作成できるようになりました

2.3 電子メール,携帯メールによる追加・変更!
  事件を依頼されたばあい,私の書面に追加や変更がある場合には,電子メールや携帯メールで,私のメールアドレス宛に送付いただければ,簡単に書面の変更をお受けします。
  特に,決まったWord(そのバージョン)その他のワープロソフトのご用意は不要です。むしろ,私としましても,テキスト形式による御提供の方が,労力がありません。

2.4 全てを一つのファイルに!
  私が作成する書面は,全てお客様ごとに,一ファイルとなるのが,基本です。
  それから,裁判所へ提出する書面,期日の報告等の正式書面を作成するのは,もちろん,そこに,打ち合わせのメモ等一切合切を入れ込んでいきます。
  そのため,紛失がないのは当たり前ですが,メモ等の分散化が少なくなるはずです。  全てを一つのファイルに基本的に管理することにより,より効率的な訴訟・交渉進行ができるようになりました。

2.5 わかりやすい提案・提示!
  弁護士から,よりわかりやすい提案・提示ができるようになりました。
  事件を依頼されたばあい,私がたとえば裁判所に提出する書面は,基本は提出する前に見ていただくことになります。従来では,画像の引用がワープロソフトの限界もあって控えめでした。文字ばかりで,なかなか分かりにくい(裁判所向けにはきちんと書いてあったとしても)面があったことは否定できないところです。
  そこで,証拠の引用などに画像を,より積極的に取り入れ,より視覚的な(見て分かりやすい)提案・提示ができるようになりました。

3 IT化に向けた努力ないし取り組みの例:読み物「仕事文書を,はやくシンプルに作るために」

3.1 はじめに
  ここからは,事務所または私のIT化に向けた努力ないし取り組みの一環をお知らせする一環として,私が採用したEmacs・org-modeについての一般的な説明・方法を書いていきます。現状の到達点については,私のブログ( http://utsuboiwa.blogspot.com/ )か,拙著「書面作りのために【Emacs・org-modeを用いて】(仮)」にまとめていますが,ここでは,読み物的になるように,なるたけわかり易い説明をすることとします。

3.2 Emacsとは?
  Emacsとは,Windows(XPとか,VISTAとか,7とか)とは元々の基本ソフト(これも分かりやすさを優先します。OSといいます)が異なる主にOS:Linuxを主戦場とするテキストエディタです。元々は,プログラミング用のソフトですが,歴史は長く,プログラミングの世界では,とてもメジャーなものです。
  エディタとは,簡単にいえば,Windowsでいうメモ帳みたいなものです。はやくシンプルに動き,もっとも汎用性が高い(どの機械・ソフトでも使える)テキスト形式文書を作成するものです。
  私は,これを利用して法律文書を作成していますが,他の仕事文書(仕事で作る書面のことをいいます。報告書,稟議書,企画書等世の中でもっとも作られる,作らなければならない書面のことをいいます)でも応用できます。

3.3. org-modeとは?
3.3.1 org-modeの書面を作る上での三大機能

  org-modeは,Emacsの一機能(分かりやすさを優先します。modeといいます。Emacsにはmodeがたくさんあり,その一つです)で,

         1. アウトライナーとしての機能
         2. HTML出力機能

を有するものです。
  org-modeは,極めて多機能ですが,書面を作るという面からすれば,この二大機能が重要な役目を果たします。
  この二つは,普通,ワープロにも機能的にはあるばあいが多いです。
  そこで,もう一つ,これは,org-modeの特長というよりは,Emacs自体にある大きな特長ですが,

         3. テキストベースのもっともシンプルな機能

を追加します。テキストエディタがベースとなっていますので,もっともシンプルな形になります。シンプルなことは,結局,速さと軽さにつながります。私が,Emacs・org-modeに踏み切った最も魅力的な機能は,このシンプルさです。

3.3.2 アウトライナー(アウトラインプロセッサ)機能

  アウトライナー(アウトラインプロセッサ)とは,簡単にいえば,見出し(項目)ごとに文章を考えることができる機能を備えたものです。普通のワープロソフトにも機能自体はあることが多いですが,操作自体が難しかったり,複雑だったりします。
  普通のワープロソフト(WordやOOo)を普通に使う場合では,最初に,見出し(項目)数字を書いて,やっと完成したと考えたとき,また,この部分に,この見出し(項目)をいれたい,立てたいという場合,見出し(項目)数字を変更するのに,また,その確認をするのに,とても手間がかかります。入れ替えも簡単ではなく,思う設定も困難です。Wordでやっていたので分かっているつもりですが,完璧なものは,できませんでした。OOoも,基本的には,Wordと同じ仕様ですので,やはり,難しいのです。

  org-modeでは,アウトラインの見出し(項目)自体を増やすことも減らすことも,見出しレベルを上げることも下げることも,一操作です。そして,見出しの「*」が,最初のデフォルトで,html出力したときに,数字に変化します。数字を入れ替えて飛んでた!とか,二重になっていた!とかはありません(逆にそうする方が難しい)。
  文章を書く一つのコツに,書けるところから書く,書きたいところから書くということがあります。org-modeは,文章を作るのに最適な機能を備えています。
  アウトラインで仕事文章を書くことができれば,かなり効率的になることはまちがいありません。

3.3.3 HTML出力機能

  htmlは,インターネットのホームページといえば分かりやすいでしょうか。ホームページは,html形式で書かれています。どのブラウザー(InternetExploreとかFIrefoxとかGoogleChromeとかのことです)で見ても,読めるというものです。
  従来のアウトライナー(アウトラインプロセッサ)は,アウトラインはできるが,実際の印刷は今イチというものが多くありました。反対に,ワープロ(ソフト)は,印刷はきれいだが,アウトラインには余り力を入れた機能になっていません。

  Wordの功罪については,「アウトライナーとしてのWord」( )に同感するところですが,Wordが,見出しと本文を完全に分けてしまうというアウトライナーとしての致命的な欠点をもちながら通用してしまっていたのは,Wordが備える印刷機能でした。これは,私としても,とても不満なところで今までアウトライナーの便利さを知っていながら実用には踏み切れなかった大きな理由になっていました。
  org-modeは,アウトラインで書いた文章を,整ったhtml文書に直してくれます。
  私は仕事用に使いますので,若干htmlやcssをいじりますが,そのままでも,かなり綺麗な書面を作ることができます。

  3.3.4 テキストベースによるシンプルな機能

  Wordを代表とするワープロソフトは,上記の機能はたいがいあります,しかも,かなりの高性能であることは確かです。
  しかし,かなりの高性能ゆえに,たとえばメールアップ表示されたとき,不意にウィルスソフトが起動したときなどに,不意に固まることがあります。複雑な操作・設定が必要な場合が多く,文章を作るということに集中をそがれます。
  シンプルさ,これが,Emacs・org-modeの最も魅力的な機能です。

3.4 Emacs・org-modeを採用することによる利点
  3.4.1 文章を作るコツをつかむ

  文章を書くコツとして,色々書いてみます。

       1 書けるところから書く
  悩む前に,書けるところから書きます。

       2 同時並行作業をする。
  悩んでいる暇があったら,同時並行作業をして,別の書面を書くべきです。

       3 引用部分を先に書く。
  これも書けるところと一緒ですが,引用部分は,引用したかったから取ってきた(資料として集めた)のですから,なぜ取ってきたのか,自分の主張の根拠で使いたいところは,こうだ!というところは,割と書きやすいところです。
  こういうところから始めると,なんとなく文章はできてきます。

       4 相手方への反論を書く。
  何でもそうですが,作るより批判する方が簡単です。
  書くべきことが見つからない内は,どうせしなければいけない,相手方の反論を書くと楽です。

       5 項目を整理する。
  項目を整理していると,光明が…。

       6 書き出しなんか考えない。
  はじめに,とか適当に入れておきます。

       7 結論は書ける。
  結論は書けるところです。とにかく,自分の主張での結論は決まっているはずです。
  はじめにで,書いておけばいいですね。
 
       8 最初は,枚数を区切らない。
  時間は,区切らないとダラダラしますので,必然的に区切ることになりますが,枚数を区切ると考えなければなりません。
  最後にできあがりのときで削ればいいので,最初は,考えません。

       9 最初は,見出し名(項目名)なんか考えない。
  見出し名(項目名)は,実は一番難しいところです。これで文章が決まりますので大変に重要なところです。
  しかし,見出し(項目)を先に考えてたら先に進めません。最初は適当に入れておくか,書いた文章の要約をいれておけばいいです。

  ザッと挙げました。一般的な文章論をみると,まずは,見出しだ!とか,文章は構造を考えて書くべきだ!とか,よくあります。しかし,じつは,最初に見出しから考えるとか,構造を考えて書くのは,とても難しいのです。それができれば苦労はしません。
  それで先ほど挙げた方法論ですが,普通にワープロ機能だけを使っていると,これをするのは難しいことがわかるはずです。
  文章を書くには,まず,道具をそろえることです。色々試しましたが,私は,このEmacs・org-modeに落ち着こうとしています。

3.4.2 ブログ等の書面化

  拙著「書面作りのために【Emacs・org-modeを用いて】(仮)」は,基本は,ブログ一記事ごとを入れ込みながら作ったものです。現在(H221203現在)70頁超の大部になってきましたが,基本は,org-modeで,一投稿ずつを見出し(項目)をつけて,入れ込んでいっただけです。書き続けることで,記事がたまれば,それに見出しをつけて,順序を変えれば,立派な読み物ができます。

  ブログは,テーマや考えがあっちへ行ったりこっちへ行ったりしますので,自分では気づきにくいですが,100記事で,1記事1頁1見出しで,100頁です。
  ブログで書いた物語,一見,毎日あっちへ行ったりこっちへ行ったりしていたものを,まとめると,読み物になってしまう。  
  ワープロですると,意外と難しいものです。

3.4.3 使い回しの利点

  この文章の元々は,拙著「書面作りのために【Emacs・org-mode】(仮)」の文章を再構成したものです。
  あるひとまとめの文章から,新たな視点で,言葉は悪いですが,使い回し,新たなまとまった文章を作ることができます。

3.4.4 書くことに集中できます。

3.4.5 Emacs・org-modeへの壁を乗り越える利点について

  とはいっても,Emacsの主戦場が普及していないLinuxであること,Emacsのキーバインドが普通とは全く異なること,結局html・cssの知識が多少は必要であることなど,採用する壁がある,壁が高いといえば高いでしょうか。
  しかし,Emacs・org-modeには,その壁を乗り越える利点があります。
  つまり,

      Wordの設定に悩む必要はなくなります。
      固まって終わった…という事態もなくなります。
      突然の見出し(項目)追加にも慌てず対処できます。
      大量の書面が怖くなくなります。
      ついでに少しはPCに詳しくなります(?)
 
  そして,何よりも,時間を作ることができます。

4 さらなる業務改善へ

  IT技術と法律問題とは,割と密接な関係があります。法律や判例の考えが,実は,IT技術を使えば,簡単に解決できる,損害を回避できるということもよくあります。
  事務所Webサイトで公表していますが,私は,いわゆる「まねきTV」事件を追いかけて書きました。
   http://www.mizogami.gr.jp/news/ne_back/jim1901L25.htm
   http://www.mizogami.gr.jp/news/ne_back/jim1901L25-2.htm

  著作権法と不正競争防止法が問題になった事件でした。ここでも少し書いていますが,この事件は,技術的には些細なことで,結論が大きく分かれる可能性があると考えました。
  ある技術を採用するばあいには,差止!損害賠償!
  別のよくある技術を採用したばあいには,否定
ということが,現実にはあるということになります。
 
  これからの弁護士は,たとえば,経済産業省が出している,
      営業秘密管理指針にしたがえ!
というだけでは,不足するとおもいます。

  少しでも今問題となっている時流を把握しながらも,多種の法律問題に対処する取り組みが必要となると考えています。
  書面づくりというところから,ワープロ,アウトライナー(アウトラインプロセッサ)を検討し,Emacs・org-modeに行き着いたのも,その取り組みへの一環と理解いただけたらさいわいです。
  更に業務改善の例がまとまったら,また,報告することにします。
以上

(H23.1作成 :弁護士 岩原 義則) 



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