B 保証人に対する情報提供義務の新設
改正民法は、保証人が主債務者の財産状況を十分に把握したうえで、保証人となるかどうかを慎重に判断することができるようにし、保証契約を締結した後も状況提供を受けて不測の損害を蒙ることがないように、保証人に対する様々な情報提供義務を新設しました。
まず、主債務者は、個人に保証人となってもらう場合、主債務者の財産状況,すなわち、a財産及び収支の状況、b主債務以外の債務の有無、その債務の額、その債務の履行状況 c担保として提供するものがあればその内容について情報を提供しなければなりません(民法465条の10)。そして、保証人は、債務者が情報提供を怠ったために保証契約が締結され、かつ情報提供がされなかったことを債権者が知り、または知ることができたときには、保証契約を取り消すことができます(民法465条の10第2項)。
次に、債権者は、主債務者が期限の利益を喪失したときは、個人である保証人に対しその喪失を知った時から2か月以内にその旨を通知しなければならず、通知をしなかったときは、債権者は、期限の利益が喪失された時からその後に通知をするまでに生じた遅延損害金を保証人に請求することはできないとされています(民法458条の3)。また、債権者は、保証人から請求があったときは、主債務の元本、利息及び違約金等に関して、a不履行の有無、b残額、c残額のうち支払期限が到来しているものはあるか、あればその金額について、情報を提供しなければなりません(民法458の2)。
このようなルール変更を前提とすれば、債権者としては、主債務者の情報提供が不十分であったり、不正確であったりして、保証契約が取り消されないようにするため、「主債務者は、本契約に先立ち、連帯保証人に対し、(1)財産及び収支の詳細、(2)主債務以外に負担している債務の有無並びにその返済状況、(3)主債務について別紙に記載する以外の担保を提供していない事実について情報の提供を行い、連帯保証人は、当該情報の提供を受けたことを確認する。」といった条項を保証契約で約定しておくことになります。
C 連帯保証人への請求の効力の制限
これまでは、債権者が連帯保証人に対して履行の請求をすれば、主債務者にその効力が生じて時効の完成を阻止することができましたが、改正民法では、連帯保証人への請求が相対的効力事由になったので(民法458条、441条)、連帯保証人に請求をしても、主債務の時効の完成を阻止することができなくなりました。
このような変更は、債権者にとっては不利であり、主債務者、特に連絡先を知らせずに放置している主債務者にとって有利なものです。しかし、改正民法においても、民法441条は、「ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。」と定めて、別段の意思表示をすることで、原則として相対効しかない事由についても絶対効を生じさせることができる旨の但書を新設しているので、債権者としては、契約の締結に際して、「連帯保証人に対する履行の請求は、主債務者に対しても、その効力を生じる。」との条項を追加しておくべきです。