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発行日 :令和元年 8月
発行NO:No43
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【1】知的財産調停について〜
1 知的財産事件に関する調停について
「特許や著作権など知的財産を巡るトラブルを迅速に解決するため、東京、大阪両地裁が10月から『知財調停』の新制度を導入する。テレビ会議も活用し、裁判官などを交えた非公開の話し合いによって最短3カ月程度での決着を図る。」と
日経新聞
などで報道されています。 本稿では、これまであまり解説されて来なかった知的財産に関する調停について説明したいと思います。
2 これまでの知的財産に関する調停の取り扱い
先ず、上記報道では、新制度を導入するとなっていますが、これは、正確ではありません。知的財産事件についでは、これまで民事調停法に定める民事調停事件として調停が行われてきました。民事調停法3条1項は、「調停事件は、特別の定めがある場合を除いて、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所若しくは簡易裁判所の管轄とする。」と規定しており、知的財産に関する調停についても、相手方となる当事者の所在地の簡易裁判所で行われてきました。私は大阪簡易裁判所の調停委員をしていたことがありますが、その在職中にも、2件の著作権に関する調停事件を担当したことがあります。訴訟事件のように、知的財産についての専属管轄の規定がなく、全国津々浦々の簡易裁判所で知的財産事件に関する調停がなされてきたことになります。そして、今回の新制度の導入にあたって法改正はなされていませんので、簡易裁判所における知的財産調停は、これまで通り行うことができます。
また、大阪地方裁判所の知財部では、平成11年から知的財産専門調停制度の運用がなされてきました。民事調停法20条1項は、「受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、事件を調停に付した上、管轄裁判所に処理させ又は自ら処理することができる。ただし、事件について争点及び証拠の整理が完了した後において、当事者の合意がない場合には、この限りでない。」と規定していますが、この規定に基づいて、知的財産に関する訴訟事件が積極的に調停に付され、大阪地方裁判所の知財部で知的財産専門調停がなされていました。付調停事件以外にも、民事調停法3条1項で管轄の合意がなされた事件や大阪地裁に直接調停を申し立てる事件もこの制度によって審理されています(小松一雄・守山修生「大阪地方裁判所知的財産権部における審理充実のための取り組みについて」NBL769号27頁)。他の類型の事件は、調停の事物管轄が簡易裁判所を原則とするため、地方裁判所に調停を申し立てると管轄違いとして移送されることになりますが、大阪地方裁判所では、知的財産専門調停制度への取り組みがなされているため、大阪地裁に「自庁処理の上申書」を添付して直接調停を申し立てれば、知財部を担当部とする調停事件として受理されています。弊所もこれまで、この方法を利用して、2件の調停申立をしたことがあります。
3 知的財産調停と類似する知的財産紛争の解決方法
知的財産調停は、話し合いによる知的財産紛争の解決手段の一つです。知的財産紛争の解決の方法としては、下記のような方法があり、その長所と短所は記載のとおりです。
「和解」は、知財担当者または代理人が交渉をして、訴訟外でいわゆる示談をする方法です。本来的に非公開であり、示談に際して、秘密保持条項も盛り込めますが、第三者の関与のないことも短所となります。 「ADR」は、裁判外紛争解決機関のことで、知的財産分野では、
知的財産仲裁センター
があり、東京と大阪をテレビ会議システムで繋いで期日を行うことも可能です。大阪のADRとしては、
公益社団法人民間総合調停センター
も知財紛争を取り扱っています。 「民事調停」は、本稿で解説する民事調停法に基づく調停ですが、調停一般の特徴である@柔軟性、A非公開に加えて、知財専門部が取り組む調停は、B専門性、C迅速性というメリットが付け加わることになります。
日本弁理士会知的財産支援キャラバン隊「知的財産の権利活用〜警告から訴訟まで」より引用
4 東京地裁知財部における知的財産調停の新たな運用の開始
今回、東京地裁知財部で新たに運用が開始された知的財産調停の詳細は、
裁判所HP
で発表されています。
その中では、3回の期日、約4か月〜5か月で調停を決着させる
審理モデル
が発表されています。まだ、大阪地裁知財部からの発表はありませんが、同様の取り組みがなされると思われます。
このように環境整備がなされることによって、今後、東京・大阪地裁の知的財産専門部での調停が増加することが見込まれます。
5 弊所の対応について
弊所では、これまでも調停による解決を模索することが適切な事件については、積極的に知的財産専門部での調停を利用してきました。知財訴訟で判決を行う裁判官によって、非公開でありながら争点整理や心証開示が行われることは、知財紛争の解決のためには極めて有効であると思われます。
例えば、特許権者でない製造会社と販売会社との間で特許権侵害品を販売したのではないかという紛争が起こった場合、この紛争を公開の裁判で行うことは適切ではありません。また、職務発明の対価をめぐって元社員との紛争が起こった場合には、個別の問題として非公開の調停で解決するのが適切です、さらに、創業者の相続人が特許権を承継したが、現在経営していた会社は、元従業員が引き継いでいたという場合、相続人には証拠書類がなく調停で事実を整理することが適切と言えます。
このような案件の場合、今回、発表された知財専門部への調停申立が第1選択になると思われます。このような事例に限らず、弊所にご相談ください。
以 上
(2019.8作成: 弁護士 溝上 哲也)
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→【4】記事のコーナー:事務所の場所について〜
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