発行日 :平成30年 8月
発行NO:No41
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説~近年の商標の判例について(その3)~
  平成25年1月1日以降、原則として月に1回、裁判所のホームページを閲覧し、審決取消訴訟を中心に、商標の直近の判例をフォローアップし、その中から関心を引いた判決を1件選び、要旨を短くまとめておく取り組みを続けてきました。  業務が立て込んで忙しいときは、判例を読むこと自体ができない月もありましたが、幸いにしてこの取り組みが2ヶ月以上連続して中断したことはなく、約5年半分の成果物が蓄積されました。  そこで、事務所報第39号より、上記成果物を「近年の商標の判例について」と題してシリーズでご紹介させて頂いております。
  3回目となる今回は、平成26年8月~平成27年5月の判例の中から下記5件を選びました。商標の実務をされている方の一助になることがありましたら幸いです。

  1)H26.9.11 知財高裁 平成26(行ケ) 10092 商標 審決取消請求事件
  第41類「技芸,スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」等を指定役務とし、「東京維新の会」の文字よりなる出願商標について、非営利公益団体を表示する標章であって著名なものと類似する商標(商標法4条1項6号)に該当するとして不服審判請求を不成立とした審決が維持された事例。
  同号の判断基準時である審決時において政治団体東京維新の会は解散していたが、それが東京都公報に掲載されたのは審決後であり、東京維新の会と日本維新の会の関係を考えると、「東京維新の会」の標章は、東京維新の会の解散後においても当面は、その出所の混同を防止するために同一又は類似の商標の登録を妨げる事由となるべきものと判断された。

  2)H26.10.29 知財高裁 平成26(行ケ)10093 商標審決取消請求事件
  第31類「辛味大根」等を指定商品とし、「江戸辛味大根」の標準文字よりなる出願商標について、商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するとして不服審判請求を不成立とした審決が維持された事例。
  原告主張の「江戸時代から栽培されていた辛味大根」等の観念を否定するものではないが、生産地又は生産開始時期に特徴を有する辛味大根という野菜の商品としての特性、すなわち「品質」を表したものとすることには変わりがなく、審決の認定を左右するものではないと判断された。
  3)H26.11.26 知財高裁 平成26(行ケ)10127 商標審決取消請求事件
  無効審決の取り消しを求めた原告の訴えが、不適法と判断されて却下された事例。
  別件審決取消訴訟の判決は、本件商標と引用商標が類似することを前提とし、第25類の指定商品について本件商標を無効とした審決を維持するものであった。本件審決取消訴訟は、第14類と第18類の指定商品についての争いであるから訴訟物は異なるとはいえ、特定の指定商品についてのみ妥当するような判断もないことからすれば、本件の訴えは、既に確定している別件審決取消訴訟の判決を、実質的に蒸し返すものといえ、訴訟上の信義則に反し、許されないと判断された。

  4)H27.3.25 東京地裁 平成25(ワ)13862  商標権侵害差止等請求事件
  被告標章の使用差止や損害賠償を求めた原告の請求がいずれも棄却された事例。
  本件商標と被告標章は類似する関係にあるが、原告が本件商標を出願した当時、既に、新インディアン社が旧インディアン社の事業を復活させようとしていたこと、新インディアン社から日本におけるインディアンブランドの事業を譲り受けた被告による事業展開が、少なくともオートバイ愛好家やアメリカンカジュアルファッションに関心がある取引者及び需用者の間において相当程度周知されていたと認められることなどから、原告による本件商標の出願は、新インディアン社及び被告の事業展開や宣伝広告に便乗し、被告による事業展開を妨げる目的で行われたものと認めるのが相当であるとして、原告による本件商標権の行使は、少なくとも、被告に対する関係では、公正な競争秩序を乱すものであって、もはや自由競争の範囲内にあるということはできないから、商標法1条及び民法1条3項に照らし、権利の濫用として許されないと判断された。
  5)H27.5.13 知財高裁 平成26年(行ケ)10170等 商標審決取消請求事件
  被告の通常使用権者による商標の使用は、原告の業務に係る商品等と具体的な混同のおそれを生じさせたものということができるとして、商標法53条1項の不正使用取消審判の請求を不成立とした審決が取り消された事例。
  同一の商標に係る商標権が互いに類似する商品を指定商品として分割移転され、別々の商標権者である原告と被告とに帰属した場合の商標法53条1項の適用が争点となった。本判決は、このような場合に使用権者による使用が商標法53条1項の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたとき」に該当するというためには、商標法52条の2の規定の趣旨を類推し、通常生じ得る混同の範囲を超えて、社会通念上、登録商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様、すなわち、不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により、客観的に、他人の業務に係る商品・役務と具体的な混同のおそれを生じさせるものをしたことを要するというべきであると判示した。
以 上
(H30. 8作成: 弁理士 山本 進)


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