発行日 :平成29年 8月
発行NO:No39
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【3】歌詞の転載・引用と著作権侵害について〜
1、はじめに
  最近、大学の総長が入学式の式辞において、著名な楽曲の歌詞を使用したことで、一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)から著作権料が請求されたという報道がありました。その後の報道で、実際には著作権料の請求はなされておらず、あくまで歌詞の利用状況の調査や利用許諾手続の案内がなされたのみであるとされていましたが、スマートフォンが普及し、SNSやブログなどで多くの方が著名な楽曲の一部を引用しているのを目にしますので、その行為の法律上の問題点について考察します。

2、歌詞の著作物性
   そもそも検討の前提として、歌詞に著作権が認められるかどうかですが、歌詞は楽曲と一体の音楽の著作物として保護される(著作権法10条1項2号)のに加えて、本件のように歌詞だけが抜き出された場合には言語の著作物として保護されます(同項1号)。そのため前記のように、歌詞を利用するには著作権者の許諾を得る必要があります。

3、許容される可能性
  そうすると、著作権者の許諾を得ずに無断で掲載することが全て禁止されることになるのかというとそうではありません。著作権法においては、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」(同法32条1項)とされ、同項にいう「引用」にあたれば、歌詞の転載は許容されることになります。
  ここでいう、「引用」に該当するかどうかについては、裁判例において、@引用する側の著作物と引用される側の著作物が明瞭に区別して認識できること(明瞭区別性)、A引用する側の著作物が「主」で、引用される側の著作物が「従」といえること(主従関係)の二要件から判断されていると解されています。

4、明瞭区別性について
  これは「引用」が許容されていることから比較的想到しやすい要件だとは思いますが、ブログやSNSで、当該歌詞が投稿記事と格別区別なく記載されていると、当該歌詞が他者の著作物であるとは読者はとらえない可能性が高いため、具体的には当該歌詞を『』で括るとか、出典を明記するなどの方法により、他者の著作物であることを明確にする必要があるわけです。

5、主従関係について
  この点については、裁判例において、引用の目的、両著作物の性質・分量、掲載方法・態様等を総合考慮し、引用著作物が主体性を保持し、被引用著作物が引用著作物にとって、内容の補足説明となっているとか、例証となっているとか、参考資料を提供しているなど、付従的な性質を有しているかどうかを一般想定読者の観念に照らして個別具体的に判断されるものとされています。

6、他の要件について
  前記3の通り、裁判例において、「引用」に該当するために、@明瞭区別性及びA主従関係が必要であるとされていましたが、旧法下の裁判例である上、@・Aという要件は条文の文言上からは一義的に明確とはいえない要件であり、近時では文言に忠実な解釈をすべきであるという学説も有力です。また、条文上、「公正な慣行に合致する」ことや「正当な範囲内」であることも要求されており、これらの文言にも当然該当する必要があるため、念の為これらの要件にも言及しておきます。ただし、前記@・Aの要件と考慮する要素は重なる点が多いものと考えられます。
(1)「公正な慣行に合致する」場合とは、報道の材料として著作物を引用する場合や、自説を展開するための裏付けとして学説を引用する場合、他人の学説を論評する場合などが一般的に挙げられますが、歌詞を引用する場合であっても、公正な慣行に合致しなければなりません。ここでいう「公正な慣行」がどういったものであるかについては、各分野においてまちまちと考えられますので、個々の具体的事例ごとに判断されることとなります。

(2)「正当な範囲内」といえるかどうかについては、引用の必要性や引用の量・範囲、引用方法等からみて、正当な引用の範囲を逸脱していないかどうか判断されるものと解されます。

7、結語
   前記までの通り、歌詞を転載することは「引用」として一定の要件を満たせば許容されることとなりますが、歌詞の一部であっても創作的な表現とまでは言えない、ごく短いフレーズ等であれば、そもそも著作物とは言えない場合もありますので、そのような場合であれば「引用」に該当するかどうかを論じるまでもなく、掲載は許容されることになります。 本稿では、歌詞の転載の法的問題点について考察しましたが、その他にも、自分が著名な楽曲を演奏・歌唱する動画をインターネット上に掲載するといったことも昨今では多く行われており、著作権侵害が問題となりうる事態は身近なものになっています。みんながやっているし大丈夫だろうという考えだけで進んでいくと思いがけず、違法行為を行っており、賠償請求を受けるということにもなりかねませんので、十分ご注意頂き、場合によっては弁護士等専門家に相談して頂くのが宜しいかと思います。
以 上

(H29.08作成: 弁護士 河原 秀樹)


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〜既に他社が登録している商標を自社の商標として登録することができる方法〜〜
→【2】論説:近年の商標の判例について(その1)〜
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