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発行日 :平成29年 1月
発行NO:No38
発行 :溝上法律特許事務所
弁護士・弁理士 溝上哲也
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【3】犯罪被害に遭った場合に〜
1、はじめに
突然、窃盗被害に遭う、振り込め詐欺に遭う、傷害の被害に遭うなど、誰しもが突然犯罪行為の被害者になったり、身内の方が犯罪被害に巻き込まれるリスクを抱えています。そこで、本稿では、不幸にもそのような被害に遭った場合には、犯罪被害者として法的にどのように対処することが考えられるのか、一般的な方法論を中心にご説明したいと思います。
2、刑事手続きへの関与
(1)捜査段階における関与
被害内容によっては、すぐに被害申告を行うのが適切ではない場合もありますが、いずれかのタイミングで被害者として被害申告(被害届、告訴)をすると、警察の捜査が開始されます。そして、警察での捜査段階においては、「被害者連絡制度」を利用して、捜査状況や検挙状況を警察に直接確認することができます。また、その後の民事賠償(後述)に備えて、加害者情報(氏名・連絡先)を知らせてもらうこともできます(犯罪捜査規範10条の3)。
その後、犯罪被害者として警察等により取調べを受けることになり、その内容は調書化され、末尾に署名・指印を求められますが、その際には、自身が記憶している事実経過が正確に記載されているかどうか確認し、仮に、記載内容で事実と異なる部分があれば必ず訂正を求める必要があります。このように作成された調書や被害届などは後に、民事賠償を求める際の重要な資料となりますので、正確にポイントを押さえたものとしておく必要があります。ですから、中々難しい面はあるとは思いますが、犯罪被害に遭った場合には、その被害内容や被害状況等の記憶が鮮明な段階で記録しておくなどの対応をとっておくのが望ましいといえます。取調べに際しては、精神的に不安だという様な場合には、身内の方に付添ってもらって出頭することも当然可能です。また、被害者は、被害者等通知制度として、検察庁に照会することで、事件の処理結果(起訴・不起訴、家裁送致の有無等)、係属裁判所、公判日時、公訴事実の要旨、不起訴裁定の主文・理由、勾留・保釈等の状況等の通知を受けることができます(一部、通知するのが相当でないと検察官が判断した部分については不開示となる場合もあります)。なお、不起訴とされた場合には担当検察官に対して、その理由の説明を求め、その判断に不服がある場合には、上級官庁宛に不服上申を行ったり、検察審査会での審査の申立てを行うといった対応策が考えられます。なお、不起訴処分となった場合であっても、民事賠償請求を目的として、一定の証拠(実況見分調書、写真撮影報告書等)については、閲覧・謄写が可能です。
(2)公判段階での関与
殺人、傷害、危険運転致死傷などの故意の犯罪により人を死亡させたり傷つけた事件や、 強姦・強制わいせつ、逮捕・監禁、過失運転致死傷などの事件の被害者及び被害者が亡くなった場合や心身に重大な故障がある場合における被害者の配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹などは、事件を担当する検察官に申し出ることにより、刑事裁判に被害者参加人として参加し、公判期日に法廷で検察官の隣などに着席して出席し、一定の場合には証人に対して尋問をしたり、被告人に対して質問することができ、証拠調べ請求や論告・求刑などの検察官の訴訟活動に対して意見を述べること等ができます。但し、参加を希望しても、裁判所が相当ではないと判断した場合には許可されない場合もあります。
他方で、被害者参加制度対象事件以外の場合及び被害者参加が許可されなかった場合には、被害者としては、証人として出廷を求められる場合や心情等の意見陳述(被害感情や処罰感情、量刑についての意見等を述べることができますが、犯罪事実認定のための証拠とすることは許されず、情状証拠として扱われることとなります)を希望された場合程度しか、公判手続きに関与する場面はありません。
(3)判決の関与
前記のような関与の結果、刑事裁判につき判決が言い渡されることになりますが、その判決内容に不満がある場合には、担当検事から、判決内容に説明を受けるなどして、その内容を検討し、それでも不満が解消されない場合には、被害者には控訴権は認められてはいないため、検察官に対して、控訴を求める上申書を提出することなどによって、控訴の希望を伝えることとなります。検察官は被害者の要望を重視するものとは言えませんが、検察官は判決に対する上訴を検討する際には、必要に応じて被害者から意見聴取を行うこととされていることからも、一定の判断要素とはなるものと考えられます。
3、民事賠償請求の方法
(1)加害者からの示談の申入れ
被害申告などにより捜査が進行すると、いずれかのタイミングで加害者及び加害者代理人から、示談契約の提案や被害弁償の申入れがなされることがあります(当然被害者側から加害者に対して申し入れることも可能です)。示談契約も被害弁償もあくまで民事紛争の解決を図るものですが、示談や被害弁償の条件として、親告罪について告訴の取下げを求められる場合もありますし、そうではなくとも、示談契約が締結されたり、被害弁償がなされることは、加害者の刑事処分にも影響があることが多く(嘆願書や宥恕文言を求められることもあります)、加害者側には一定のメリットがあるのに対して、被害者としても、自分から何か手続きを踏まなくとも損害賠償金の回収ができるという面や、一括払いの提案であれば賠償金不払いのリスクが回避できるなどの面で一定のメリットが考えられますので、加害者側からの提案に対しては、総合的に慎重に判断する必要がありますし、示談条項としてどういった規定を盛り込むべきかの判断なども必要となります。
なお、被告人と被害者が、刑事事件についての民事上の争いについて合意が成立した場合(示談が成立した場合等)には当該刑事裁判の公判調書に記載することを求め、裁判所がその内容を公判調書に記載したときは、裁判上の和解と同一の効力を有するものとされている(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第19条1項・4項)ため、示談契約で示談金の分割支払いが約束されているなどの場合には同制度を利用することで、別途民事訴訟の提起等をしなくとも、当該調書を元に強制執行をすることができます。
(2)損害賠償命令制度
故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、強制わいせつ・強姦・準強制わいせつ・準強姦の罪、逮捕・監禁の罪等の一定の犯罪については、当該刑事裁判の弁論が終結するまでに、当該刑事裁判が係属している裁判所に対して、損害賠償命令の申立てを行うことにより、当該刑事裁判に付随する簡易・迅速な手続により、被告人に被害者への損害賠償を命じるように裁判所に求めることができます(同法第23条)。ただし、同申立てに対して、適法な異議の申立てがなされた場合等(同法第34条第1項、38条等)には、事件は民事裁判所に移行されることとなります。
(3)通常の民事上の請求手段
前述のような方法によらない場合には、刑事裁判とは別に民事訴訟を提起するなどの一般的な民事事件と同様の方法によって、加害者に対して損害の賠償を求めることとなります。
4、代理人選任のメリット
前記の通り、刑事手続きへの関与と民事損害賠償請求の方法について、大まかに説明しましたが、いずれの手続きについても被害者は代理人を選任することができます。もちろん、代理人を選任せずに被害者自身で進めることも可能ではありますし、経験されたことが有る方なら、刑事手続きにおいては、警察や検察から一定の説明を受けた上で、進められていくのが通常であるため、格別代理人を選任する必要性は感じられなかったかもしれません。しかし、刑事手続きにおいては、加害者の処分内容への影響だけではなく、後の民事賠償請求への影響も考えた上で、手続き及び関与の方法などを検討し進めていく必要があります。この点について、警察や検察が被害者に配慮して進めてくれることはなかなか考えられません。例えば、被害届や告訴状の内容について、警察からアドバイスを受けることは考えにくいですし、被害者として取調べを受けて調書を作成する際に、どのような内容を記載してもらうのが後の民事事件の関係で望ましいのかとか、加害者側から提案を受けた示談内容の妥当性や示談条項として盛り込むべき条項についてのアドバイスを警察や検察から受けること等考えられません。
従って、刑事手続き開始時から被害者代理人を選任することによる経済的メリットは大きいものといえますし、代理人が被害者に代わって書面を作成したり、加害者側からの連絡に対応したりすることにより、被害者の心理的な負担を軽減したり、被害者であるにもかかわらず様々な手続に多大な時間を奪われることを防ぐのにも役立ちます。また、前記の手続の全部ではなく一部についてのみ代理人を選任することもできますし、手続きの途中で選任することも当然可能です。代理人を選任した際の弁護士費用についても、日弁連犯罪被害者法律援助や民事法律扶助、国選被害者参加弁護士といった制度が用意されていますので、早い段階で弁護士に御相談頂くのが良いかと思います。
(H28.12作成: 弁護士 河原 秀樹)
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