発行日 :平成15年 7月
発行NO:No11
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説〜貸金〜
(1)本稿の目的
本稿は、お金を貸す際の、そして、貸したお金を返済してもらうときの基本的な法律的な注意点を示します。
知っている人には、当たり前という法律的な一般的教養の一助となれば幸いです。
本稿では、一般の人が、お金を貸した場合という貸主の立場に立った場合の視点から書きます。
(2)お金を貸すときの注意
2-1 借用書の意味について
お金の貸し借りを法的にいえば「金銭消費貸借契約」といい、法律的には借用書がなくても契約を成立させることができます。つまり、借用書がなくても貸したお金を返せと言えますし、借用書がないからといって返す義務がないとは言えないことを意味します。
ただ、実際、裁判をするときなどで口頭のみで消費貸借契約が認められるのは難しく、借用書は、後述するように金銭消費貸借契約の証拠として重要な意味を持ちます。
つまり、借用書は、書いてもらうだけ(これだけでも大変かもしれませんが)では足りず、さらに、将来、借主が貸金を否定したり、支払いをしない場合に備えて、スムーズに証拠として役立つかどうかの視点が重要となります。

2-2 借用書の重要性
貸主は、借主から、金を借りた覚えはないとか、金を受けとったことはあるが貰ったものだと言われた場合には貸した者が「貸付けたこと」を立証しなければなりません。このことを「立証責任」といいます。
「貸付けたこと」を立証するとは、貸主が借主に対し、いつ(日付の特定)、幾らを貸して(貸付金の特定)、いつまでに返すという約束で(返済期限の特定)、利息をとる場合は利率はいくらかなどの特定は全て貸主の責任にあるということを意味します。
借用書は、上記のことを一通で全て立証できる証拠となります。借用書があることによって、貸主にとってみれば事実と異なる借主の言い訳を封じることができますし、借主にとってみれば借りた覚えのない請求を拒否することができます。その意味で、借用書は、貸主にとっても借主にとっても意味のある重要な書面と言えます。

2-3 借用書の作成について
借用書は、上記のとおり証拠の1つであり、その形式を問いません。理論的には、手書きであろうと広告のチラシの裏に書いてあろうと良いことになります。借用書を作成する場合、例えば、文房具屋で売っている定型書式を使うというのも一つの方法です。気をつけなければならないのは、借用書が証拠としての意味を持つかということです。定型書式は、それぞれに特有な具体的な事情までは盛り込まれてないからです。
この借用書が証拠としての意味を持つかの契約書チェック業務、または契約書作成業務は、法的作業となりますから重要な弁護士業務ともなっています。  また、直ちに差押等の強制的手段を採ることができるように公正証書(後述)にしておくこともできます(公正証書申請代理業務を弁護士に依頼することもできます。)。
平成16年4月1日に廃止された従来の日弁連報酬等基準では、契約書作成についての弁護士報酬は、定型と非定型、さらに公正証書にする場合とで分類され、経済的利益によりその額が定まっていましたが、当事務所でもこれを基本にしています。
また、これに関連して、例えば時間が限られている公的機関の相談の際に、借用書を持参され、契約書チェックをして欲しいと言われることがありますが、これは相談の仕方(弁護士の利用と言ってもよいでしょう。)として、特に複雑な事情を伴う場合には、適切ではありません。契約書チェックは、個々の具体的事情をしっかりと聴取した上で、必要ならば文献、判例等もチェックの上で、判断するものですから、到底限られた時間の中で判断を下すことは難しいといえます。この場合には、本当に必要とあらば上記の契約書チェック業務として弁護士に依頼することが必要です。

2-4 担保の重要性について
お金がない人から返済をさせるのは、とても困難です。例え、しっかりした借用書を作っても、返すお金がなければ返済することはできませんし、例え、返済する資産を持っていてもそれが把握できていなければ回収の困難性は変わりありません。
そのために、不動産に抵当権を設定したり、信用ある保証人をとるなどの担保をとり自衛をすることが肝心です。


(3)貸したお金が返ってこない
3-1 弁護士の利用について
貸したお金を回収することを「債権取立」といいますが、弁護士以外の者が報酬目的で債権取立をすることは弁護士法に違反する行為です。
したがって、貸主としては、債権取立に、弁護士以外の者を雇わないようにしなければなりません。弁護士以外の者を雇うことにより貸したお金が戻ってこないこともあり得ることは心に留めなければなりません。法(裁判所)は、不法なことをした者に対し手を差し伸べることを躊躇します。

3-2 弁護士を入れるタイミングについて
一般的には、法律的に難しい手続を頼むほど弁護士に対する費用はかさみます。
借用書作成段階から訴訟、差押に至るまで各々の段階で弁護士による相談が可能です。
結局のところ、費用対効果の問題とはいえますが、どのタイミングで弁護士を入れるのかという判断も弁護士の相談によって得られると思われます。

3-3 資産調査について
実は、債権回収で、一番難しいのは、この点です。
何もない人から回収することはできません。
お金を借りて返済することができなくなった点を捉えて詐欺などの刑事事件にして欲しい旨言われる方もおりますが、当初から騙そうと思って金を借りたことと、借りてから後に返済不可能になったこととは根本から異なりますので、後者の場合は、詐欺とはなりません。
貸し付けたときに、資産に不安がある場合には、そもそも貸さないこと、担保や保証人をとることで自衛する必要があります。

3-4 時効について
通常の貸金の時効は、10年です。貸金の請求を受けたときに、具体的事情を聞いた上で、時効によって支払義務がないとされる場合もあります。
時効が認められるか否かというのも法律判断ですから、弁護士による相談が役立つといえます。

3-5 返済を求める種々の手段
3-5-1 貸したお金が返ってこない場合、何らかの対応をする必要があります。
以下では、それぞれの対応手段毎に注意点を示します。

3-5-2 内容証明郵便
まずよく知られている方法として、 内容証明郵便 により返済を求めることができます。 内容証明郵便は、送付だけでもお金がかかりますので、お金をかけてもという意味で、貸主の返済意思が強いことを示すものと言えます。したがって、内容証明郵便の送付だけで満足を得る(支払ってくれる)ことも多いと一般的にはいえます。
注意すべきは、内容証明郵便は、法的にいえば、内容証明郵便を送付した時に内容証明郵便のとおりの内容記載の郵便を送付したという意味しか有しないということです。決して、内容証明郵便の内容とおりに債権があると認められたということにはなりません。
なお、内容証明郵便は時効主張を妨げる「催告」の効果を持ちます。この場合は6か月以内に訴訟等の手段を採る必要があり、内容証明郵便を繰り返し送付しても時効期間が延長されるわけではありません。
内容証明郵便を作成する場合にも借用書が「貸付けたこと」を立証する度合いがどれだけ強いかは、重要な意味を有します。つまり、貸主は、借主に対し、上記「貸付けたこと」を立証することを示しますが、借用書がなければ、その他の手段を参考にして記載する必要があります。逆にいえば、そのような記載さえもない内容証明郵便は、受け取った側からみれば何時のどの債務であるか判断できず、きちんと記載されれば返答ができたのに言われることになります。
内容証明郵便も弁護士にその作成を依頼することができます。報酬基準によれば、内容証明郵便に弁護士名を付するか否かで報酬が異なります。

3-5-1 貸したお金が返ってこない場合、何らかの対応をする必要があります。
以下では、それぞれの対応手段毎に注意点を示します。

3-5-3 調停
裁判所を使い調停委員という第三者を交えて話し合いをすることです。
あくまで話し合いですが、調停がまとまり、調停調書が作成されれば、差押等の強制的手段を採ることができます。
調停にも、借用書が、「貸付けたこと」を立証する度合いがどれだけ強いかは、調停が自分にとって有利に進むかに関係します。「貸付けたこと」を立証する度合いが強いほど、調停委員は、貸主に有利になる(裁判されれば負けますよなどのアドバイス等)ように調停が進むということになるはずです。
これも弁護士に依頼することができますが、弁護士が調停の手続を選択するのはあまりないのではないでしょうか。それは、そもそも話し合いができない状態で弁護士の下へ来られるという事情が多いということでしょう。

3-5-4 少額訴訟
今、話題の少額訴訟です。通常の訴訟より簡易な手続で判決が得られます。回数制限がありますが、30万円以下の貸金についても可能です。
原則、1回で判決が出ることとされています。ただし、異議が出されることで通常訴訟へと移行したり、控訴ができないなど、貸主にとっても不利なことが、ないわけではありません。
また、少額訴訟の場合には、即時に取り調べる証拠しか提出できません。
その意味で、「貸付けたこと」を立証するための借用書がどれだけ完全かは、重要な意味を持つということになります。

3-5-5 訴訟
訴状を裁判所に提出して判決を求める方法です。返済されない場合の最も原則的な手段といえましょう。証拠として借用書を提出して判決を求めることになります。訴状には法律上必要な要件を特定して記載する必要があります。貸金訴訟の場合には、最低限上記に述べた貸金の内容を特定して記載する必要があります。
裁判は、証拠に基づき判断されるので、ここで借用書の証拠の重要性が出ます。完全な借用書であればあるほど貸主が勝つ可能性が高くなるということになります。
金銭消費貸借契約は、口頭でも法律的には認められるのですが、実際上は、書面が何もなく裁判に勝つということは難しいと認識された方がよいと思われます。
借用書があれば、裁判で勝てたのにという事態に陥らないためにも、借用書は必ず必要なものです。裁判は、必ずしも真実が得られるわけではありません。
訴訟では、裁判所の勧告により和解になる可能性もあります。判決は、いうなれば一か八かの世界ですが、和解になれば話し合いによる柔軟な解決が望めます(分割払いの約束、強制執行をしないですむ債務の満足等)。
和解にも「貸付けたこと」を立証する度合いがどれだけ強いかは、重要な意味を持ちます。それが、強ければ強いほど裁判所は、貸主により有利になるような和解を勧めるということになります(逆に弱ければ、裁判所は、貸主に不利となる和解を進めるというになります)。
訴訟となれば、もはや弁護士によることが適当な段階となっているといえます。この場合も弁護士費用は、経済的利益の額により定まります。

3-5-6 仮差押
仮差押は、信用が乏しい債務者に対して、資産を仮に差し押さえることです。
預貯金口座が典型ですが、仮差押をするには、一定の担保を債権者が積まなければなりません。

3-5-7 差押等の強制的手段
判決等を得ても支払いがされない場合、預貯金口座、給与差押等の強制的手段を採る必要があります。
よく相談にのぼりますが、借用書のみでは、差押等はできません。差押等をするためには、公正証書や判決に基づくなど強制執行が許される書面が必要です(これを「債務名義」といいます。)。債務名義がなければ、先立って訴訟等をして債務名義を得ることが必要となります。
差押等の強制的手段は、書面の作成にも法的技術が必要ですから、弁護士によることが適当な段階といえます。

以上

(H15.7作成 H16.4.1修正 :弁護士 岩原 義則)


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