発行日 :平成12年 10月
発行NO:No5
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】論説〜ビジネス方法特許について〜
(1)ビジネス方法特許とは何か?

最近、新聞・雑誌やテレビなどで「ビジネスモデル特許」という言葉が多用され、簡単なビジネスの仕掛けが特許となる時代が来たというような衝撃的な報道がなされています。しかし、この「ビジネスモデル特許」という言葉は、特許法上の用語ではなく、むしろ、日本のマスコミが作った言葉と言われています。これまで特許関係者の間で使用され、特許庁のホームページでも使用されているのは、「ビジネス方法特許」という用語であり、英訳は、「buisiness method patent 」であって、「ビジネスモデル特許」という表現は、日本でしか通用しない表現であることに留意する必要があります。
この「ビジネス方法特許」の定義については、特許関係者の間でも必ずしもコンセンサスが得られている訳ではありませんが、広い意味では、「ビジネスの方法をコンピュータシステムやネットワークなどの技術的手段で実現した発明に与えられる特許」と定義することができます。そして、その中でも特に注目されているのが、インターネットショッピングやホームバンキングなどの「インターネットを利用した取引や広告のやり方に与えられる特許」であり、一般にはこのような特許を念頭において、報道され、議論されています。

(2)どのようなビジネス方法に特許が成立するか?

それでは、どのようなビジネス手法であれば、それが特許として成立するのでしょうか?
新聞や雑誌の記事から受ける衝撃的なイメージが強かったため、

@これまでビジネス方法に関連する発明は特許にならなかったとか、
A最近はビジネスの方法自体が特許になるようになったとか

の誤解が生じやすいと言えますが、これらはいずれも誤りです。これまでも、特許法の規定や審査基準に合致するビジネス関連発明は特許として成立してきましたし、現在の審査実務はビジネス方法特許の成立について柔軟な姿勢は見られますが、審査基準では、あくまでビジネスのやり方自体は特許にはならないとされています。
ところで、ビジネス方法特許は、他の分野の特許と別の制度によって特許となる訳ではありませんから、特許が成立するための一般的な要件を備えていることが必要です。すなわち、特許成立の主な要件である
(A) 自然法則を利用した技術的思想の創作と呼べる発明であること(発明該当性)
(B) 過去に知られた発明の中に同じものがない新規なものであること(新規性)
(C) 既知の発明の組合せなどにより容易に思いつかない進歩したものであること(進歩性) の要件を備えることが少なくとも必要です。

そして、これらの要件をビジネス方法特許について見てみると、先ずAの発明該当性の点では、特許庁の審査の取扱基準において、「ある課題を解決するために、コンピュータのハードウェア資源を用いて処理を行うなどの要件をを満たすものであれば、ビジネス関連発明か否かに関わらず、ソフトウェア関連発明として特許の対象になる。」とされる一方で、「人為的な取決めそのものや、これらのみを利用しているものは特許の対象とはならない。」とされています。次に、Bの新規性の点では、過去に知られた発明には、出願して権利化されていないものや外国で権利化されているものも含まれるため、既にインターネット上で実施されているビジネスのやり方は、コンピュータの利用の仕方が違う場合などを除いて新規性が認められないことになります。また、Cの進歩性の点については、上記の取扱基準では、「人間が行っている業務をシステム化し、コンピュータにより実現しようとすることは、通常のシステム分析手法及びシステム設計手法を用いた日常的作業で可能な程度のことであれば、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者の通常の創作能力の発揮に当たることから、進歩性を満たさない。」とされています。
したがって、具体的に見てこのようなA、B、Cの要件をクリアーしている新規なビジネス手法を対象とする発明は、「ビジネス方法特許」として特許の成立する可能性があることになります。

(3)ビジネス方法特許の問題点

  ビジネス方法特許は、平成10年7月に米国において、「ビジネス方法に該当するからといって直ちに特許性が否定される訳ではない」などとした判決 (State Street Bank事件)が出されたことを契機として話題となったものですが、これまで注目されていなかった分野や手法を対象とするものが多いために、次のような問題点があると言われています。
(1) 我が国で注目されて、出願が増加したのはここ1年ぐらいのことであるので、公開されている出願が少なく、充分な調査が困難である。
(2) 一般に、米国→日本→欧州の順番でビジネス方法特許が成立し易いと言われており、同じ発明でも地域によって、成立するか否かが異なるなど、国際的な審査基準が統一されていない。
(3) 発明該当性について、どの程度、ハードウェア資源の使い方を記載すれば、「発明」に該当し、 どの程度なら単にコンピュータを用いたにすぎず「発明」に該当しないのか、必ずしも明確ではない。
(4) 新しい分野に精通した審査官が不足し、既存のビジネス方法についてのマニュアルやノウハウなどは一般に公開されておらず、審査資料も充分でないため、新規なビジネス方法法を対象とした発明の進歩性の判断材料を得ることが困難で、本来なら無効原因のある特許が成立する虞れがある。
(5) インターネット電子商取引では、サーバーとクライアントが国境をまたいで設置されている場合 もあるが、この場合、現在、各国ごとに成立し、適用される特許権が果たしてどこまで及ぶのか、権利行使にあたって複雑な問題が生じる。

(4)ビジネス方法特許に対する企業の対策

今後、このようなビジネス方法特許について、企業として、どのように対応すべきでしょうか?
先ず、ビジネス方法のようなこれまで特許とは比較的無縁であったテーマが特許の対象となり、技術革新によっていかなる新ビジネスもコンピュータやネットワークを利用して実現できるようになったという点において、これまでの特許に対する考え方を大きく変える必要があります。これまで、特許は、 主に研究機関やメーカーが出願し、社内的にも技術者や開発部門に任しておけば良いものであった訳ですが、銀行、商社、サービス産業などすべての事業者が特許と関係し、技術者や開発部門だけでなく、営業、企画部門や広告・宣伝担当者など全社的に特許に対応することが必要になったと言うことになります。
また、特に、これまで特許とは無縁であった業種においても、自らのビジネスが他人の特許権によって、制約を受ける可能性があることを意識し、新しいビジネスを展開するときには、特許侵害の事態が発生しないよう注意する必要があります。
そして、今後、ビジネス方法特許に限らず、特許その他の知的財産権は、企業の経営資源としてますます重要になっていくことからすると、図示のような社内の体制を整備し、外部の専門家である弁理士との連携を図って、事業展開に役立つアイデアを具体化し、必要に応じてこれを出願していくということも不可欠です。もっとも、これらの体制は、それぞれの企業において実情に合ったものとすることが必要で、発明発掘のために弁理士がアイデア段階からコンサルティングをすると言ったような工夫が必要な場合もありますが、経営者自身や特許担当者が日常から情報の収集を怠らず、各部門と外部の専門家との調整を図って、自社の特許戦略に必要な方針の決定を速やかに行うことが肝要です。

以 上

(H12.10作成:弁護士 溝上 哲也)


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