発行日 :平成21年 1月
発行NO:No22
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】論説〜新しいタイプの商標の保護について〜
1 特許庁における新しいタイプの商標制度の検討

  わが国の商標制度は明治17年に創設された歴史のあるものですが、保護対象となる商 標については、平成3年にサービスマーク(役務を対象とする商標)が、平成9年に立体 商標がそれぞれ導入され、数次にわたって拡大されてきました。昨年5月29日には知財 高裁が、他社商品と識別できる形状としてコカ・コーラの瓶を立体商標と認める判決をし て話題になったところです。
  近年、インターネットや携帯電話の急速な普及により、消費生活の場面でもIT化が進 んでおり、企業の販売・広告活動においても自他の商品・サービス識別のため、従来の文 字、図形等に加えて、動き、音等を利用した様々なメディアが利用され、新しいタイプの 識別表示が採択されるようになってきました。また、欧米諸国等では、新しいタイプの識 別表示が既に商標法による保護の対象となっており、商標法に関するシンガポール条約の 規定やWIPO(世界知的所有権機関)の議題においても新しいタイプの商標が採り上げ られるなど、その保護制度の整備は、国際的な趨勢となっています。

  このような背景から、特許庁は、平成20年7月28日、動き、音等の新しいタイプの 商標の法的保護の検討を行うため、産業構造審議会知的財産政策部会の商標制度小委員会 において、「新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ」(以下、「ワーキン ググループ」という。)を設置し、既に4回の審議を行って、その検討を進めています。

2 新しいタイプの商標の種類

  特許庁のワーキンググループでは、次のような新しいタイプの商標の保護が検討されて います。

(1)動く商標
  カニ道楽の名物看板やMGM映画のライオンが吼えるオープニング動画など視認される 態様が自ずから変化していく商標です。

(2)ホログラム商標
  ホログラムとは、見る角度によって視認される態様が異なる3次元像を記録した写真の ことで、看者が視点を変えることによって、視認される態様が変化して見える商標です。  識別表示としての使用ではありませんが、1万円札の偽造防止のために使用されていま す。

(3)色彩商標
  例えば、各種のナイフがある特定の色に特徴づけられている場合のように、色彩が形状 等の他の要素と結合しない輪郭なしの色彩のみからなる商標です。
  スイスのヴィクトリノックス社は、小型ナイフを指定商品として、下記の赤色についてEUの色彩商標を登録しています。


(4)位置商標
  衿の裏の裏地との境界に赤色のラインが付されているスーツ(J−PRESS)のよう に商品等に付す視認できる標識が商品等の一定の位置に付すことで識別力を獲得する特徴 がある標識が付される位置を構成要素とする商標です。
  オーストラリアでは、靴の踵の部分にある下記の赤い線からなる位置商標が登録されて います。


(5)音響商標
  森永の「ピポッパポ♪」というCMエンディングのように、企業がCMにおいて自社の 呼称や商品名などにメロディを付けたりあるいは音声や効果音などの音響でアピールして 宣伝効果を高めるサウンドロゴなど音を構成要素とする商標です。
  アメリカでは、ハーレーダビットソンの排気音が商標として認められたケースがあると のことです。

(6)嗅覚商標
  香り付き便箋などにのように商品に付される匂いや香りを構成要素とする商標です。
  EUでは、刈ったばかりの草の匂いからなる商標がテニスボールを指定商品として登録  されています。

(7)触覚商標
  ワインボトルの表面の触感など特徴ある触感を構成要素とする商標です。

(8)味覚商標
  例えば、オレンジの味のついた薬剤など特徴ある味覚を構成要素とする商標です。

(9)トレードドレス商標
  トレードドレスとは、米国の判例で認められている知的財産権の1種であり、市場にお いて販売されるに際して使われているロゴ、デザイン、色彩、容器の形状や素材、店舗の 内装・外観、店員のユニフォームなど商品・役務をドレスアップさせる全体的外観ないし はイメージのことで、トレードドレスを構成要素とする商標です。

3 外国で保護される新しいタイプの商標

  欧米や東アジアの諸国等においては、これまでの文字・図形等からなる伝統的な商標に とどまらず、新しいタイプの商標を保護する動きが広がりつつあります。ワーキンググル ープでの配布資料などをもとに、主な外国での新しいタイプの商標の出願・登録が可否を 一覧表にすると次のとおりです。
   動 き ホログラム 色 彩 位 置 音 響 嗅 覚 触 覚 味 覚 トレードドレス
米 国  
E U   ×
豪 州   × × ×
韓 国   × × × × × ×
台 湾   × × × × × ×
中 国   × × × × × × × × ×

  例えば、米国では、使用主義に基づいて他人の商品・サービスと区別ができる標識はど のようなタイプであっても保護対象になるとされており、動き、ホログラム、色彩、位置 のような視認可能性のある標識にとどまらず、音、香り、触覚、味覚の標識も商標として 保護対象であると解されています。また、トレードドレスも多くの出願・登録があります が、味覚については、出願例はあったものの実際の登録は無いようです。そのため、上記 の一覧表では、△としました。

  EUでは、OHIM(Office of Harmonization in the Internal Market)で商標の登 録がなされますが、商標を構成し得る標識リストは例示的とされ、視認可能性のない音、 香り、触覚の各標識も商標登録されていますが、写実的に表現できることが登録の要件と されているため、味覚の標識は登録されていません。オーストラリアもEUと同様の制度 ですが、位置、触覚、味覚の出願・登録は無いようです。
  東アジアでは、韓国が動き、ホログラム、色彩を商標として保護しており、すべてのタ イプの商標を保護すべく法改正を予定しています。台湾は、色彩、位置、音響を商標とし て保護しています。中国は、わが国と同様でまだ新しいタイプの商標登録は認められてい ませんが、保護の対象とする方向での法改正を検討中とのことです。

4 商標法改正の方向性

  特許庁のワーキンググループでは、既に4回の審議が行われており、議事要旨などが公 開されています。最終報告や法律案の作成までには、商標や使用の定義をどのように修正 すべきか、新しいタイプの商標をどのように特定するのか、権利範囲や識別力との関係を どのように捉えるか、改正時の経過措置をどのようにするかなど、詳細について検討する 必要がありますが、これまでの議論によって、
      ・新しいタイプの商標を限定列挙の形で認める。
      ・動画、ホログラム、色彩、位置、音は、保護対象とする。
      ・香り、触感、味、トレードドレスは、保護対象としない。 という方向で、最終報告がなされ、改正案がまとめられる見込みです。

  改正の方向性は、諸外国と比べて、保護対象が限定されることになってしまいますが、 登録主義で審査制度を採用するわが国のこれまで商標制度を勘案すると、商標の特定や公 示が困難である香り、触感、味、トレードドレスを保護対象としないことは、やむを得な いことと思います。諸外国でもこれらの登録例は比較的少なく、トレードドレスについて は、不正競争防止法の保護も可能なので、実際の影響は少ないでしょう。

5 今後のスケジュールについて

  今後、新しいタイプの商標登録制度については、今年のはじめには、ワーキンググルー プでの審議が終了し、報告書が公表された上で、パブリックコメントが求められ、小委員 会において商標法改正案がまとめられることになると思われます。現在のスケジュールで は、来年(2010年)の通常国会には、法案が国会に提出され、新制度が実施される見 込みです。

  新しいタイプの商標登録制度の施行に際しては、サービスマークや立体商標が導入され たときと同様に、継続的使用権や出願日および優先・重複登録の特例などの権利の調整を 図る経過措置が導入されるものと思われますが、新しいタイプの商標には使用による顕著 性を獲得することが登録の要件とされるものもありますので、現在、新しいタイプの商標 を使用され、これから使用を開始される各企業におかれては、新制度での出願に必要とな る使用実績を証する資料を取得できるよう配慮しておくべきものと思われます。
以 上

(H21.1作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)


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