発行日 :平成17年 7月
発行NO:No15
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
→事務所報 No15 INDEXへ戻る


   【3】記事のコーナー〜実用新案制度の改正について〜
1 平成17年改正実用新案制度の概要

 実用新案については、平成6年1月1日に改正施行された実用新案法で、無審査で登 録が認められるようになった一方で、権利期間はそれまでの「出願公告の日から10年 間」が「出願の日より6年」に大幅に短縮されました。しかし、特許の権利期間の「出 願の日から20年」と比較してかなり短く、製品のライフサイクルをカバーするのに十 分でなかったため、無審査登録化により効力が大きく制限されることとなったことも影 響し、無審査登録移行時に年間約8万件あった出願数が現在では約10分の1に激減す ることになりました。その後、知的財産権重視が求められる状況下で、実用新案制度に ついても、模倣品対策などにさらに活用し易くすることが求められるようになり、無審 査登録という特質を維持しつつより魅力を向上させて、特許出願に代替しうる制度とし て有効活用をすることが検討されました。そこで、このような要請に答え、実用新案出 願の奨励を図るため、平成16年5月28日に実用新案制度の改正を含む「特許審査の 迅速化等のための特許法等の一部を改正する法律」が国会で成立し、同年6月4日に法 律第79号として公布され、平成17年4月1日以降の実用新案登録出願より適用され ます。
 上記法律により実用新案制度について改正された主な事項は下記のとおりです。

2 実用新案登録に基づく特許出願制度の導入

(1)改正前
改正前は、実用新案登録出願から特許出願への「変更」が「設定登録を受けるまでの間」、実質的に実用新案登録出願をしてから平均して約5月という非常に制限された期間内とされており、設定登録を受けた後は特許出願への変更はできませんでした。

(2)改正後
改正後は、実用新案登録出願から「3年以内」であれば、実用新案権の設定登録後であっても「実用新案登録に基づく特許出願」(特許法第46条の2)の規定により特許出願ができるようになりました。
※なお、実用新案登録「出願中」の場合は「出願の変更」(特許法第46条第1項)の規定により実用新案登録出願の日から「3年以内」であれば従前通り特許出願に変更することができます。

(3)注意点
「実用新案登録に基づく特許出願」の制度導入にあたり、次のような制限等があります。

1)基礎とした実用新案権、実用新案登録に基づく特許出願について
  @ 実用新案権に基づく特許出願をする場合、その特許出願の基礎とした実用新案権を「放棄」する必要があります。「放棄」は請求項毎に行うことができません。
  A 実用新案登録に基づく特許出願及び上記基礎となる実用新案登録の「放棄」に際し、基礎となる実用新案権に専用実施権者等が存在する場合は、承諾が必要となります。
  B 実用新案登録に基づく特許出願を行う際に、基礎としようとする実用新案権が既に「消滅」している場合は当該実用新案権を放棄できないので、実用新案登録に基づく特許出願を行うことができません。
  C 実用新案登録に基づく特許出願後に基礎とした実用新案登録が無効審判で無効になった場合においても、実用新案登録に基づく特許出願は、何らの影響も受けません。
  D 1つの実用新案権からは、複数の実用新案登録に基づく特許出願を行うことができません。
  E 実用新案登録に基づく特許出願に際し、代理権として特別な授権を要します。
  F 実用新案登録に基づく特許出願は、優先権主張の基礎出願とすることはできません。
2)出願時の遡及について
  @ 実用新案権に基づく特許出願は、その願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」と記します)に記載した事項が、基礎とした実用新案登録の範囲内にある場合に限り、基礎とした実用新案登録に係る実用新案登録出願の時にしたものとみなされます。
  A 「訂正」があった場合は、訂正後の明細書等が願書に添付した明細書等となります。
  B 出願時が遡及しない場合は、基礎とした実用新案登録の実用新案掲載公報により、その実用新案登録に基づく特許出願が拒絶されます。
3)実用新案技術評価の請求について
実用新案登録に基づく特許出願をした後は、基礎とした実用新案登録について何人も実用新案技術評価の請求をすることができません。
4)時期的制限について
  @ 実用新案登録出願の日から3年以内に限られます。
  A 「遠隔又は交通不便の地にある者」に対して請求又は職権による追完規定があります。
  B 実用新案登録に基づく特許出願の日から「30日」以内に出願審査請求をすることができます。
5)実用新案技術評価の請求による制限について
  @ 実出願人又は権利者による実用新案技術評価の請求(一部であっても全ての請求項であっても)の後は、その評価請求された実用新案登録に基づく特許出願ができません。
  A 他人による実用新案技術評価の請求があった場合は、請求があった旨の最初の通知を受け取った日から「30日」を経過するまでに、その評価請求された実用新案登録に基づく特許出願をすることができます。また、この期間中に「訂正」を行うことができます。
  B Aにおいて実用新案登録に基づく特許出願がされた場合は、他人による請求がされなかったものとみなされ、その旨請求人に通代が返還されます。
6)無効審判請求による制限について
  @ 実用新案登録に対する無効審判の請求があった場合、最初に指定された答弁書の提出期間経過後は実用新案登録に基づく特許出願ができません。
  A 無効審判請求後に、実用新案登録に基づく特許出願がされた場合は、請求人にその旨通知され、通知を受けた日から「30日」以内に請求人がその無効審判の請求を取り下げたとき(答弁書提出後であっても相手方の承諾を要しない)は、請求印紙代が請求により返還されます。
※参加人は、参加の申請を取り下げて、請求することにより参加申請手数料が返還されます。
  B 基礎とする実用新案登録に対する無効審判(実用新案権が存在していた時期に対する無効審判)自体は制限されていません。
7)変更出願の制限について
  @ 実用新案登録に基づく特許出願を行った後に、再度の実用新案登録出願への「変更」することはできません。
  A 実用新案登録に基づく特許出願の「分割」出願についても再度の実用新案登録出願への「変更」することはできません。
  B 実用新案登録に基づく特許出願から「変更」された意匠登録出願についても、実用新案登録出願への再度の「変更」が禁止されます。
8)先後願の関係について
実用新案登録に基づく特許出願に係る「発明」と基礎とした実用新案登録に係る「考案」とが同一であっても実用新案登録に基づく特許出願が、「先後願」(特許法第39条第4項)の規定による拒絶理由、無効理由に該当しません
3 実用新案権の存続期間の延長

(1)改正前
改正前は、実用新案権の存続期間は、出願の日から6年でした。また、登録料は、次のようにされていました。      第1年から第3年までが毎年7600円+(請求項数×700円)
第4年から第6年までが毎年15100円+(請求項数×1400円)

(2)改正後
改正後は、実用新案権の存続期間は、出願の日から「10年」になります。また、登録料は、次のようになりました。
第1年から第3年までを毎年2100円+(請求項数×100円)
第4年から第6年までを毎年6100円+(請求項数×300円)
第7年から第10年までを毎年18100円+(請求項数×900円)

(3)注意点
現行の減免措置は、減免を受けられる者が単独で出願や権利維持を行うことを想定しており、出願や権利の共有については、共有者の中に国等(国及び政令において指定さ れる独立行政法人)が含まれる場合にのみ、減免することが規定されています。これらは、国等の持ち分については納付する義務はありませんが、国等以外の者が減免を受けられる者であったとしても国等以外の者の持ち分に基づく納付額について減免されることはなく納付しなければならなくなっていました。

4 訂正の許容範囲の拡大

(1)改正前
改正前は、請求項の削除を目的とするものに限り認められていました。

(2)改正後
改正後は、請求項の削除を目的とするものに加え、1回に限り、実用新案登録請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明(以下、「実用新案登録請求の範囲の減縮等」と記します。)を目的とした訂正が認められるようになりました。

(3)注意点
「訂正の許容範囲の拡大」の制度導入にあたり、次の制限等があります。
1)訂正の範囲について
新規事項の追加、及び実用新案登録請求の範囲を実質上拡張・変更するような訂正は禁止されます。
2)訂正の時期と回数について
  @ 実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とする訂正は、「実用新案権の設定登録後、最初の評価書の謄本の送達のあった日から2月を経過するまで」、又は「無効審判について最初に指定された答弁書提出可能期間を経過するまで」に行うことができます。
  A @の期間において全期間を通じて1回のみ行うことができます。
  B 請求項の削除を目的とする訂正は、従来通り、原則いつでも何回でも行うことができます。
  C 訂正した明細書等の補正は、補正命令を受けた場合以外は、補正できません。
3)訂正後の明細書等の基礎的要件について
  @ 実用新案登録請求の範囲の減縮等を目的とする訂正後の明細書等について、「考案」であるか否かの基礎的要件を満たしていないときは補正対象となります。
  A 補正を命じられた場合、その期間内に補正をしないときは訂正が却下されます。
4)無効理由について
実用新案制度において要件を満たさない訂正がされた場合は、無効審判を請求することができ、要件を満たさない訂正がされた実用新案登録が無効とされます。

5 参考URL

・実用新案登録に基づく特許出願制度の導入
・実用新案権の存続期間の延長
・訂正の許容範囲の拡大

以上

(H17.7作成 : 特許商標部 竹内 幹晴)


→【1】論説:特許の成立や効力を争う手段
→【2】論説:平成17年改正不正競争防止法について
→【3】論説:地域ブランドの保護について
→【5】事務所の近況:〜旅行について・・・〜
→事務所報 No15 INDEXへ戻る



溝上法律特許事務所へのお問い合わせはこちらから


HOME | ごあいさつ | 事務所案内 | 取扱業務と報酬 | 法律相談のご案内 | 顧問契約のご案内 | 法律関連情報 | 特許関連情報 | 商標関連情報 |
商標登録・調査サポートサービス | 事務所報 | 人材募集 | リンク集 | 個人情報保護方針 | サイトマップ | English site
1997.8.10 COPYRIGHT Mizogami & Co.

〒550-0004 大阪市西区靱本町1-10-4 本町井出ビル2F
TEL:06-6441-0391 FAX:06-6443-0386
お問い合わせはこちらからどうぞ