発行日 :平成17年 1月
発行NO:No14
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説〜本人尋問・証人尋問について〜
1 本人尋問・証人尋問とは

1-1 本人尋問・証人尋問の必要性
訴訟になって、証拠調べの最終段階となるのが、本人尋問・証人尋問手続です。
これは、本人ないし証人(併せて「人証」といいます。)を、実際に裁判所の法廷まで、呼び出し、公の場で、本人ないし証人が「しゃべり」、その言葉が調書化され、裁判所の証拠となるというものです。
裁判所は、「弁論の全趣旨」として、供述内容だけでなく、態度、口振りなどの一切を証拠とすることができます。 事案の詳細な経緯、本人・証人の思いなどの証拠としては不可欠となっています。
知財事件など、ある意味「書証」主体の訴訟においても、例えば、イ号物件(知財訴訟で、「侵害物件」のことを、こう言います。)の入手経過を明らかにするために、尋問期日が開かれることもないわけではありません。
ここでは、尋問技術などの「尋問をする側」ではなく、「尋問を受ける側」に立って(証人は、国民の義務です。)必要な、もしくは、これを知っておいた方がよいことを、書こうと思います。

1-2 証拠の申出
本人尋問・証人尋問は、その供述を必要とする当事者の一方、もしくは、双方が、尋問して欲しい旨を申し出て、裁判所が、その採否について判断します。
事案解決に最も必要な人物(最も、良く知っている人物)を、申し出ることになります。したがって、事件について最も良く知る人物を、確保(裁判所への出頭のお願い、証言のお願いなど)することが、重要となります。証人を、強制出頭させることも法律上はできますが、実際上は、自分で確保した上で、事前に納得ないし同意、できれば入念な打ち合わせをした上で出頭してもらうということになります(自分に有利な証言をして貰うため、強制すれば、かえって期待する証言をしてくれないおそれもあります。)。
また、申し出た証人について、誰を採用するか(しないか)、何人採用するかは、裁判所の権限となります。一般的な事件であれば、本人と必要ならば証人1人というのが標準でしょうか。複雑な事件であれば、何人も採用されることもありますが、これも事案解明のために、誰を幾人採用するかは、裁判所が判断することになります。
弁護士に、最も良く知る証人の存在を、早い段階で知らせるようにしましょう。

1-3 「本人」と「証人」
本人尋問とは、原告・被告の当事者自身、もしくは、会社が当事者になっている場合の会社代表者の「尋問」をいいます。
証人尋問は、当事者以外の者の「尋問」で、例え夫婦、親子であろうが、当事者となっていなければ、「証人」となります。当事者が会社の場合、社員の尋問は、「証人」となります。
本人も証人も、いずれも、嘘を述べたり、ないことを付け加えたりすることは、許されず、場合によっては、偽証罪の制裁、過料の制裁など不利益を受けます。

1-4 「尋問」
「尋問」とは、分かりやすくいえば、双方の代理人又は裁判所からの「質問」に対する「答え」です。「答え」のみが調書になる場合もありますし、「質問」と「答え」が調書になる場合もあります。
   例(「答え」のみの場合) 
   私は、○○で働いていました。
   例(「質問」と「答え」の場合)
   原告代理人:あなたは、どこで働いていたのですか?
   原告本人 :私は、○○で働いていました。

「尋問」は、請求をした者から順に行われ、これを「主尋問」といい、相手方の尋問を「反対尋問」といいます。
注意すべきは、「尋問」は、「質問」・「答え」で進みますので、供述者にとって最も言いたいことが、十分に言えないこともあります。これを補充するのが、後で述べる陳述書といっても良いでしょう。

2 陳述書について

陳述書の役割
本人尋問・証人尋問前に、裁判所から、「陳述書」の提出が求められます。これは、供述のまとめ、尋問で前提となる事実、尋問では言い足りないことなどが記載されるもので、これ自体証拠ととして重要な意味を持ちます。陳述書を作成したら、署名捺印をし、裁判所に尋問前に提出します。陳述書の役割としては、次のようなものが挙げられます。
@ 供述のまとめ
供述者が、弁護士と打ち合わせの上、弁護士が、聴取した内容を分かりやすくまとめます。法律の専門家である弁護士は、本人ないし証人が体験した生の事実を法律的に意味があるような内容にまとめることになります。まとめることは、弁護士の仕事ですが、生の事実について、最も良く知っているのは、当事者本人ないし証人です。
陳述書は、尋問の中で最も基礎となる書面であり、書かれてあることが事実と異なっていたり、証拠と矛盾したりすれば、結果として、証言自体が、信用ならないということになりかねません。
万一、誤りや、まとめの仕方に疑問があれば、遠慮なく弁護士に言って下さい。陳述書を提出する前であれば、訂正等の上提出する必要があり、提出した後であれば、尋問の中で訂正する必要があります。

   例(尋問の中での訂正例)
   原告代理人:陳述書の記載の中で誤りとかはありますか?
   原告本人 :陳述書の○頁○行目に、「〜」とありますが、事実は、「○○」なので訂正して下さい。

A 尋問で前提となる事実
尋問は、時間も限られ、前提となる事実は、予め陳述書に記載しておき、尋問を効率的にする必要があります。
B 尋問では言い足りないこと
裁判は、法律に従って行われ、裁判官も基本的には、法律の判断にとって必要な事実か否かに興味があります。したがって、特に事件の思い入れのある供述者には、言いたいことを思うとおり言えない事態も生じます。
これも予め陳述書に記載しておき、尋問で言い足りないことがないようにする必要があります。
C 尋問の打ち合わせ
「主尋問」については、供述する者と、質問をする弁護士との入念な打ち合わせが必要となります。陳述書提出の後に、尋問の打ち合わせを尋問期日前にするのが一般ですが、陳述書は、尋問の打ち合わせを効率的にするためにも必要となります。

3 尋問について

3-1 尋問の進行について
尋問は、まず、「宣誓」をした上で、主尋問から行われ、主尋問→反対尋問→再主尋問・・・・→裁判所からの質問という形で進行します。
主尋問については、入念の打ち合わせが存在するので、聞かれること、答えることも予測はつきますが、反対尋問、裁判所からの質問は、予め準備することはできません(予測はついても完璧ではあり得ません。)。
反対尋問を乗り越えるか否かは、証言の信用性に重大な影響を与えます。
当事者本人は、自分の供述以外の証言も全て聞くことが出来ますが、証人は、基本的には、自分が証言する前は、他の本人・証人の供述を聞くことは出来ません。

3-2 尋問の一般的心得

尋問は、公開の法廷で、宣誓した上で、裁判所の前に立ち、質問に的確に答えることが必要となります。恐らく一般の人にとってみれば、一生に一度のことで、緊張することと思われます。尋問の一般的な心得としては、次のものが挙げられます。
@ 時間厳守(早めに出頭し、心の余裕を)
尋問期日は、時間厳守です。裁判所で弁護士と待ち合わせというのが多いと思われますが、尋問前に、書面に住所・氏名等を記載する作業が必要となります。
時間に余裕をもって早めに裁判所に出頭しましょう。
A 服装等の注意
裁判所は、供述者の態度、口振り等も証拠とできます。どこまで影響するかは分かりませんが、神聖な法廷での証言ということを自覚した服装等をしましょう。
B 落ち着いて「質問」を良く聞きましょう。
尋問は、「質問」に対する「答え」という形で進行します。
質問が分かりにくい、質問が聞こえないまま「答え」をしても、また、「質問」に対する「答え」となっていない場合には、相手方代理人や裁判官から注意されます(更に緊張しますね。)。
質問が分かりにくい、質問が聞こえないときは、遠慮なく、質問者に対して言うことが必要です。

   例
   「質問が分かりにくいのですが?」
   「もう一度質問をお願いしてよいですか?」

主尋問の場合は、打ち合わせの上、予め何が「質問」されるか分かるので余り心配はないですが、反対尋問は、何が聞かれるか分かりませんので、特に注意が必要です。 
質問を良く聞いて、「質問」に対する「答え」をしましょう。
C 明確な「答え」
「答え」は裁判官に対して、大きくはっきりと言って下さい。
質問に対する「答え」を端的に言えば足ります(これが、難しいのですが。)。
「答え」が足りないなと感じても、自分で付け加える必要はありません(むしろ、これをすると裁判官から注意されることもあります。)。
「答え」が足りない場合は、更に「質問」がされますので、遠慮なく、「答え」のみを言って下さい。

D 陳述書の見直し
陳述書に記載されている事実を基に、反対尋問をされたり、裁判官からの質問があります。尋問前には、もう一度陳述書を見直し、尋問の予習をしましょう。
尋問の際には、基本的に何も見ることはできません。陳述書と全く違うことを供述したり、矛盾したことを言えば、反対尋問の際に、そこを突かれます。よく内容を把握しておきましょう。
万一、陳述書を見直していた際に、誤り等があれば、弁護士に即座に伝えましょう。

3-3 反対尋問の心得

反対尋問では、「質問」する反対尋問者側からすれば、供述する人は、敵対する人となり、証言を崩すために色々策を講じます。そこで、ここでは、特に反対尋問の心得を、取り上げます。
@ 「質問」を良く聞きましょう。
上記と同じで、尋問者の「質問」を良く聞いて理解した上で、「答え」をしましょう。聞こえなかったり、質問の意味が分からなかった場合は、遠慮なく、言うべきです。
A 入念な打ち合わせをしましょう。
尋問の打ち合わせは、主尋問の「質問」と「答え」を予め良く理解しておくことが重要なのは、もちろんですが、反対尋問対策として、予め予想される尋問について、よく弁護士と打ち合わせすることも重要です。
もし、こう聞かれたら、こう答えるということをシュミレーションしておくだけでも、大分違います。
B 「答え」が封じられても気にしないようにしましょう。
反対尋問者に、よく見られることですが、供述者が、質問と関係のない事項を答えたり、長々と話したりしたとき、
「聞かれていることだけに答えて下さい」とか、
「もう少し短く」とか、
「ハイとイイエだけで結構です」とか、
など言われて、言いたいことが言えない、質問としては、イエスだが、説明する必要があるなど、ストレスが溜まることもあると思われます。

   例
   被告代理人:○○は、△△ということですか?
   原告本人 :○○は、△△ということですが、これは・・・
   被告代理人:ハイとイイエだけで結構です。△△ということですね。
   原告本人 :ハイ。ですが・・・
   被告代理人:結構です。次の質問に移ります。

説明をして、反対尋問者の持ち時間を短くするというテクニックもあると思われますが(止められなければ、いいですから。)、基本的に「答え」が詳細にできないことを気にしないようにしましょう。必要ならば、再主尋問の際に自分の依頼した代理人から聞くことができます。
C 弾劾証拠に要注意
尋問中、供述の矛盾や誤りを突くために、反対尋問者は、証拠を期日において提出する場合があります。基本的な反対尋問のテクニックとして、
言いたいことを散々言わせて、弾劾証拠を突きつける
というものがあります。
相手方の証拠は、期日前までに出てきた証拠が全てではないかもしれないことを十分に認識しておきましょう(敢えて隠しておく場合も、あります。)。
D 「分からない場合」「知らない場合」「記憶にない場合」
尋問は、体験した事実のみをしゃべることが基本です。分からない場合、知らない場合、記憶にない場合は、そう、はっきりと述べれば結構です。  
ただ、他の証拠、具体的な状況などから、当然に分かること、知っていること、記憶しているはずなことを分からないとか、知らないとか、記憶にないなど言えば、証言に信用性がないと言われることがあるのは、勿論です。
E 失礼な質問、腹が立つ質問などに対して
証人等を侮辱する質問などについては、異議を述べることができますが(代理人が述べます。)、基本的に失礼な質問、腹が立つ質問などについては、熱くならず冷静でいることが重要です。

4 尋問調書について

尋問期日後、尋問調書が作成されます。
万一、供述したことと、全く違う内容のことが調書に記載されているのならば、訂正の申立をしたり、新たに陳述書を提出する必要があります。調書を良く読みましょう。
この調書が、証言として証拠となります。

以 上


(H17.1作成 :弁護士 岩原 義則) 


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