発行日 :平成15年 7月
発行NO:No11
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】論説〜発明のポイントと特許出願〜
■企業における発明の重要性
生産の海外移転や系列の希薄化などの日本の産業構造の転換にあたって、企業はいかに生き残り、さらに発展させるかが重要になってきました。また、消費の質的変化に伴って、一般商品の価格が低下する一方で、ブランド品や高機能商品が高くても消費者に支持されています。このような中で、企業においては、他社との競争に勝ち抜くために、発明を奨励し、それを効果的に特許権として取得していくことが求められています。すなわち、発明は、技術力及び製品において他社との差別化を図るツールとしての役割があります。近年、日本もプロパテント政策(特許重視政策)を採っており、特許などを積極的に保護して、知的財産権分野の競争力を高めようとしています。大企業は、特許実務能力に長けた人員も豊富で、プロパテント政策に沿った特許戦略を日々実行していますが、人材に制限がある中小企業においても、事業展開や商品開発の過程で生まれてくる工夫やアイデアを発明として把握し、効果的に特許権としていくことが必要であり、経営者や企画開発担当者がこのことを意識することが求められています。

■特許となる発明のポイント
特許法は、特許となる発明について、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」と定義し(2条1項)、この定義に該当する発明のうち、

(1)産業上利用できること(29条1項柱書)
(2)新規性を有すること(29条1項1〜3号)
(3)進歩性を有すること(29条2項)

等の要件を満たすものに限って、特許としての権利化を認めています。したがって、発明が実際に特許として認められるかどうかは、これらの特許要件をチェックすることが必要になります。

しかし、企画や開発に際して、どのような工夫やアイデアが特許となり得るのかについては、ここまで厳密に判断する必要はありません。仮に、進歩性がないため特許とはならなかったとしても、他社による権利化を阻止し、自社の採用する技術に自由度を確保するために出願することも必要であり、企画・開発の段階では、発明となるチャンスのある工夫やアイデアは、すべて採り上げるべきだからです。

結局、特許となりうる発明かどうかは、その工夫やアイデアが自然法則を利用した技術的なものであること、すなわち、ビジネス方法自体のような人為的な取決めでなく、機械やコンピュータなどのハードウェアを利用したものであるかどうかという点と従来にはない技術であって、これまで実施されておらず、出願もされていない新しい工夫やアイデアであるかどうかという点を確認して、これらが満たされるものが発明と言うことになります。この発明について、特許出願を検討するというのがポイントになります。

■発明を特許とするための手順
「必要は発明の母」という諺がありますが、企画や開発に際して、先ず、従来の商品や技術の何が問題であるのかという問題点の洗い出しをし、その問題点を乗り越えるのに何が必要かを検討するのが通常です。そして、その課題を乗り越える工夫やアイデアから生じる新たな問題点をさらに乗り越えて、新しい商品や技術が生まれます。ある意味では、企画や開発を実行すると、その過程で必ずその成果としての発明が生まれると言っても過言ではありません。このようにして生まれた発明のポイントを言葉で記述して、明確にしておくことが発明を特許とするための出発点となります。

次に、発明のポイントが明確になったところで、すでに同じような発明が実施されていないか、特許として出願されていないかを調査する必要があります。その発明が他社により既に実施されているものであれば、発明が新規であるという特許を受けるための要件を欠くことになりますし、他社が既に実施しているということは、その他社が既に特許を出願していたり、権利を取得している場合があるからです。他社による実施の有無は、他社製品のパンフレットや現物を確認して行なうのが通常ですが、取引先への確認やインターネットによる検索も必要となります。

さらに、その発明が既に出願されているかどうかは、特許公報、公開特許公報、実用新案公報など公開されている特許情報を検索して確認します。この先願調査は、専門家である弁理士に依頼することもできますが、通常は、先ず、特許庁が公開している [特許電子図書館/IPDL] の公報テキスト検索のメニューでキーワードにより検索するのが費用もかからず、簡便です。なお、発明は多面的に捉えられるため、調査精度を高めるためには、最初から特定の技術分野だけをサーチするのでなく、別の視点から他の技術分野のサーチも検討してみたり、サーチの手法については、複数の手法を用いるようにすることがより望ましいと言えます。このような先願調査の結果、新規性が認められる発明について、特許として出願することを検討することになります。そして、このような過程で新規性があると判断された複数の発明のうちから、商品化や開発の実施の有無、他社に対する防衛や牽制、さらには費用の多寡や将来性という観点から、選択した発明を弁理士に依頼して、特許として出願することになります。

■ 特許出願に際しての注意点
発明を特許として出願する際に注意する点としては、次の点が挙げられます。

(1)スピード
我が国の特許法は、先願主義を採用しており、 国際的にも先願主義の扱いに統一される動きが あるので、発明が完成した場合は、できるだけ速やか に出願することが必要です。同じ発明であっても、 1分でも早く出願した方に権利が与えられるので、 内容の大枠が確定した時点で出願を依頼すべきです。 なお、国際出願については、日本の国内出願の日 から1年以内であれば、その国内出願の日を出願の 日とする国際出願をすることが可能ですので、まず、 日本での国内出願を急いでおけば大丈夫です。

(2)秘密保持
特許を受けるためには、発明が新規であることが 要件となっていますが、自社による発表や実施で あっても新規性が喪失することに留意すべきです。 したがって、秘密保持を徹底し、出願前に社外の者 や職業上守秘義務を負っている弁理士以外に 安易に発明の内容を教えないようにする必要があり ます。取引先に発明の内容を知らせる必要が生じた ときは、秘密保持契約を締結するか、発明のポイント をなるべく開示せず、発明の成果だけを強調する ような商談にすべきです。また、自社の行為によって 新規性が喪失するのを避けるため、商品の発売・ プレス発表はもとより、カタログの配布や展示会 などへの出品も、出願後に行なうことが必要です。

(3)発明の開示
発明に対して特許が認められるのは、技術を公開 する代償としてですから、特許の出願書類には、 発明の目的、構成、効果を具体的に記載し、その内容 を見ればその技術の分野の人であれば誰でもその 発明を実施できる程度まで具体的構造、動作など が開示されていなければなりません。不十分なまま 出願すると、発明が未完成と判断され、記載不備の 理由による拒絶を受けることになります。どの程度 の記述があれば、そのような指摘を受けないかは、 依頼される弁理士の方でもアドバイスしますが、 そのようにならないよう、特許出願に際しては、予め できるだけ多くの資料を準備し、担当者と十分に 打ち合わせをすることが重要です。

(4)権利範囲
権利範囲が広すぎる出願をした場合には、有効な 発明を含む出願であっても拒絶されることとなる 一方で、権利範囲が狭すぎる出願をした場合には、 せっかく特許を受けても模倣品の販売を差し止める ことができなくなります。一般に出願に際しては、 できるだけ広い権利範囲で出願し、審査の結果、 引例による具体的指摘があった場合には、これを 避けるように限定補正するという対応が行なわれていますが、後日に補正をする際には新規事項の 追加が禁止されていますので、依頼する弁理士に このような対応が可能となるよう、自分の発明を 説明する際に、口頭だけでなく、実物、写真、図面、 簡単な説明書などをもとにして、発明の目的、効果、 具体例の詳細や変形例などを十分に伝えるよう 注意する必要があります。

(5)コスト
特許を出願して権利化するには、相当額の費用が 必要です。例えば、弁理士に依頼せずに自社で 出願したとしても、請求項が1つで10ページの場合、 出願印紙代16,000円、審査請求料172,600円、 データエントリー料8,200円、特許になれば、1年から 3年分の特許料8,400円の合計205,200円が必要 です。弁理士に依頼する場合は、これに手数料と して合計約40万円〜50万円(現在、弁理士会では 報酬基準を定めていないが、最終の標準額表を 参考とすれば、この程度の額となる。)が加わるので、 発明の権利化には、相当額の費用が必要というの が実情です。
したがって、発明を特許として出願するに際しては、 技術評価、市場評価により、発明の価値を勘案し、 費用対効果の観点から、価値のある発明に厳選して、 出願するよう留意する必要があります。

■ 出願から特許取得までの流れ
 特許は、発明を明細書と図面にまとめて願書とともに特許庁に提出することにより、権利取得の手続が始まります。出願後に、特許庁において、方式審査がなされ、1年半後にすべての出願が公開されます。特許は、出願されても審査の請求がなければ、審査されることはありませんが、審査の請求があれば、特許の要件を満たしているかについて、実体審査が行われ、その結果、要件があると認められたものだけが登録査定となります。
この登録査定がなされた後、所定の特許料の納付があり、特許庁長官による特許登録原簿への特許権設定の登録がなされて初めて、特許権が成立し、発明の権利が保護されます。
なお、上述した特許出願の手続の流れは、下記のとおりです。


※平成16年1月1日から施行された平成15年の特許法改正により、異議申立は無くなっています。

(H15.7作成 H16.4.1修正:弁護士 溝上 哲也)

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