発行日 :平成14年 7月
発行NO:No9
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】論説〜不正競争防止法の改正について〜
(1)不正競争防止法改正の趣旨

不正競争防止法は、「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的」として制定され、様々な不正競争行為を規制するという方法で、知的財産を保護しています(不正競争防止法1条)。    
ところが、近年のインターネットの普及に伴い、 事業者にとっては、インターネットを通じた営業・広報等のビジネス活動の重要性が高まり、インターネットのアドレス識別手段であるドメイン名が極めて高い価値を有するに至ったにもかかわらず、ドメイン名の不正取得行為等に直接に適用される不正競争行為が規定されていなかったため、ドメイン名紛争に対応することを目的として、 不正競争防止法の一部を改正する法律(平成13年法律81号) が平成13年6月29日に公布され、同年12月25日から施行されています。

(2)不正競争防止法改正の概要

改正法においては、第2条第1項にドメイン名に関する「第12号」を新たに設け、ドメイン名の不正取得等の行為を新しい類型の不正競争行為と規定しています。また、同条に「第7項」を新設して、「ドメイン名」に関する定義規定を設けると共に、第5条第2項に「第4号」を追加して、ドメイン名の不正取得等の不正競争行為に対して、使用料相当額の損害賠償を請求できるものとしています。  
具体的には、下記のとおりです。
   
第二条(定義)  
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。      
(中略)
   
十二 不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為
(中略)
   
7 この法律において「ドメイン名」とは、インターネットにおいて、個々の電子計算機を識別するために割り当てられる番号、記号又は文字の組合せに対応する文字、番号、記号その他の符号又はこれらの結合をいう。
   
第五条(損害の額の推定等)
不正競争によって営業上の利益を侵害された者が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する。    
2 第二条第一項第一号から第九号まで、第十二号又は第十五号に掲げる不正競争によって営業上の利益を侵害された者は、故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対し、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。      
(中略)
    
四 第二条第一項第十二号に掲げる不正競争当該 侵害に係るドメイン名の使用

(3)どのような行為がドメイン名に関する不正競争行為となるか?

インターネットのドメイン名は、原則として誰もが登録順に取得できる制度であるため、近年のインターネットビジネスの活性化に伴い、他人の商号や商標等と同一若しくは類似のドメイン名を先に登録し、その商号や商標を持つ者にドメイン名を売りつけようとする行為や、そのドメイン名を使って、アダルトサイトなどを開設し、その者がそのサイトを運営しているかのように誤解させる等の行為が頻発しました。改正前の不正競争防止法では、このようにドメイン名を悪用する者に対してそのドメイン名の使用の差止め等を請求するためには、対象となった商号や商標が周知又は著名であり、かつ悪用する者が実際にそのドメイン名を使用していることが必要でした。しかし、今回の改正により、対象となった商号や商標が周知・著名でなくても、悪用する者が実際にドメイン名を使用していなくとも、取得、保有していれば、不正競争行為と認められるようになりました。もっとも、周知・著名でなくても良いとされた反面で、不正競争行為と認められるためには、悪用者が「不正の利益を得る目的」又は「他人に損害を加える目的」でドメイン名を取得、保有又は使用していることが要件となっています。  したがって、ドメイン名に関する不正競争行為となるのは、
   
(1)不正の利益を得る目的、又は他人に損害を加える目的で、    
(2)人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものと同一又は類似のドメイン名について、    
(3)その使用権を取得したり、保有したりする行為、又はそのドメイン名を使用する行為
   
であることが必要となります。
改正前の不正競争防止法においては、クレジット会社の商号と類似する「jaccs.co.jp」 のドメイン名を登録し、そのドメイン名のホームページのリンク先において、携帯電話等の販売広告がなされていた行為について、不正競争行為と認められていましたが (富山地方裁判所平成12年12月6日判決)、改正法においては、不正の利益を得る目的、又は他人に損害を加える目的が認められれば、ホームページへの利用や混同を生じさせる販売行為等がなくても、不正競争行為と認められることになります。

(4)ドメイン名に関する不正競争行為を行うとどうなるのか?

一般の不正競争行為については、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができるとされていますが(不正競争防止法第3条)、ドメイン名に関する不正競争行為についても、同様に差止め請求を行うことが可能となります。差止めの内容としては、これまでに裁判例で認められたのは当該ドメイン名の使用中止だけですが、JPドメイン名については、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンターの地域型JPドメイン名登録等に関する規則に基づいて、当該ドメイン名の廃止登録手続きや移転登録手続きを訴求することも可能と考えられます。  
また、不正競争防止法は、故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずると規定していますが(不正競争防止法第4条)、ドメイン名に関する不正競争行為についても、同様にこの規定に基づく損害賠償請求を行うことができます。損害賠償請求については、一般の不正競争の場合と同じ損害額の推定規定が新設されており、自己の商標等と同一又は類似のドメイン名を不正に取得等されて、営業上の利益を侵害された者は、仮にそのようなドメイン名を使用することについて許諾をしていたとすれば、通常受けるべき使用料に相当する額を損害額として請求することができます(不正競争防止法第5条第2項4号)。  
なお、改正前の不正競争防止法に関する裁判例では、携帯電話サービスの商標と類似する「j-phone.co.jp」 のドメイン名の不正使用者に対して、営業上の信用毀損による損害として金200万円、弁護士費用として100万円の合計金300万円の損害賠償が認容されています(東京地方裁判所平成13年4月24日判決)が、この判決がドメイン名に関する不正競争行為による損害賠償額についても、具体例として参考になると考えられます。

以 上


(H14.7作成 :弁護士 溝上 哲也)


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