発行日 :平成12年 7月
発行NO:No4
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説〜特許と実用新案について〜
(1)特許・実用新案制度

自分で苦労して考え出した便利な物や方法を他人が自由に真似てよいということになると、新しい技術を開発しても、開発者は、これを世の中に発表しなくなってしまいます。しかし、それでは新しい技術が有効に活用されず、他の人も同じものを開発するために無駄な研究、投資をすることとなってしまいます。特許・実用新案制度は、こういったことが起こらないように、新しい発明や考案を完成しそれを出願という形で公開した者に対し、その代償として一定期間(出願の日から特許は20年間、実用新案は6年間)、独占的な権利を与えて保護する一方、第三者に対してはこの公開された技術を利用する機会を与え、両者の間に調和を持たせることによって新技術の開発を促進し、それによって産業を発展させようとした制度です。

(2)特許とは何か

特許の対象となる発明は、特許法2条1項により、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」と定義されています。したがって、自然法則を利用していない計算方法やセールスの方法は、特許の対象とはなりません。また、技術的思想を創作することが必要なので、物理法則などの発見は、特許の対象とはなりません。なお、いわゆる永久機関の発明は、自然法則に反し、自然法則の利用したものでもないとされています。発明の種類としては、物の発明(物質特許)、物の製造方法の発明、方法の発明の3種類があります。 特許の対象となる発明のうち、特許として権利化するためには、主なものとして、次のような要件が必要です。即ち、
(1) 産業上利用できるものであること(特許法29条1項柱書)
(2) 新規性を有するものであること(特許法29条1項1号ないし3号)
(3) 進歩性を有するものであること(特許法29条2項)
(4) 先願の明細書又は図面に記載されていないこと(特許法29条の2)
が挙げられます。なお、進歩性があるとするには、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが、公知技術に基づいて容易にできるものでないことが必要で、技術水準の低いものは、特許とはなりません。

(3)実用新案とは何か

一般に、人々の生活を飛躍的に進歩させる「大発明」は、強大な技術開発力をバックにした大企業でなければなかなか完成させることができないのが実情です。しかし、実際にはこのような開発力に優れた大企業ばかりでなく、中小企業や個人の発明家等も比較的簡易で実用性のある「小発明」と呼べる技術の開発を行っています。そして、このような「小発明」が全く保護されないとすれば、大企業等に対抗することができなくなるため、中小企業等の成長が阻害され、日本の産業構造にそぐわないという問題を招くことになります。そこで、平成5年までの実用新案制度では、進歩性の要件を緩和してこのような「小発明」を考案として権利化することを認め、特許権よりは取得し易いが、その反面、独占期間を特許より少し短い公告の日より10年とする制度としていました。
しかし、旧実用新案は、特許と同様の審査手続きを必要としていたため、通常、審査に数年の期間を要し、その間は出願中にしかすぎず、権利としては成立していないので、このような「小発明」に比較的多い短いライフサイクルの技術には不向きでした。そのため、平成6年1月1日から施行された改正実用新案法では、実用新案については、無審査で登録を認めることとなり、その一方で独占期間は出願の日より6年に短縮されました。但し、無審査で権利内容のチェックがないまま警告がなされると、第三者に不当な損害を与えることがあり得るので、慎重を期するため権利の行使に当たっては「実用新案技術評価書」を提示することが権利者に義務づけられ、侵害者の過失を推定する規定もなくなりました。
実用新案の対象となる考案は、実用新案法2条により、「自然法則を利用した技術的思想の創作」とされていて、特許とは異なって「高度のもの」であることは要求されておらず、また実用新案法3条柱書により、「物品の形状、構造または組合せに係る考案」に限定されています。したがって、特許とは異なり、方法に関する考案や物質自体を対象とする考案については権利を取得できません。
なお、特許との違いをまとめると別紙のとおりとなります。
実用新案
特許(装置など)
特許(方法・物質)
進歩性
(小 発 明)
公知技術から極めて容易に推考できるものでないこと
(大 発 明)
公知技術から容易に推考できるものでないこと
(大 発 明)
公知技術から容易に推考できるものでないこと
対 象 物品の形状構造又は組合せの考案 物品の形状構造又は組合せの発明 方法の発明
物質特許
存続期間
出願から6年
出願から20年
出願から20年
実体審査
過失の推定
権利行使
評価書提示必要
制 限 無
制 限 無
具体例 送話器と受話器を一体に結合する考案

鉛筆を六角柱の形状にした考案

医薬品の実用的な保存ケース
電磁石を応用した電話器の発明

鉛筆の発明


医薬品の製造装置
通話信号の送信方法


鉛筆の効率的な製造方法

新しい医薬品

(H12.7作成 :弁護士 溝上 哲也)


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