発行日 :平成23年 7月
発行NO:No27
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【3】論説〜商標権消滅後1年間の他人の商標登録排除規定の廃止について〜
 現行商標法においては、商標権が消滅した日(商標登録を取り消すべき旨の決定又は無効にすべき旨の審決があつたときはその確定の日)から一年を経過していない他人の商標(商標権が消滅した日前一年以上その他人が使用をしなかったものを除く)又はこれに類似する商標であって、その商標権に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものは、商標登録を受けることができない旨の規定がある(商標法4条1項13号)。

  しかしながら、平成23年6月8日に法律第63号として公布された「特許法等の一部を改正する法律」により、商標権消滅後1年間は他人の商標登録を排除するという上記規定は廃止された。
  本稿は、早晩なくなる商標法4条1項13号(以下、「本規定」という)をあえて取り上げ、そもそも本規定が商標法に置かれていた趣旨は何であったのか、実際上の効果は何であったのか、本規定を廃止した場合どのような利点があるのかについて、若干の考察をするものである。
 本規定の立法趣旨は、何人かが使用をしていた商標はたとえその使用を止めても一年間程度はその商標に化体された信用が残存していて、他人がその商標の使用をすれば商品又は役務の出所の混同を招くおそれがあるとの理由に基づくものと説明されている(特許庁編「工業所有権法逐条解説」第14版・948頁)。また、本規定の適用が除外されるのは、その他人の商標が商標権消滅の日前一年以上使用されていなかった場合のみで、商標法4条1項8号のように、その他人の承諾を得ている場合に適用を除外する規定は置かれていない。このことからも、本規定が前権利者を救済するための規定ではなく、需要者の利益を保護するための規定であることは明らかである。

  商標の実務を長く担当していると、本規定に基づく拒絶理由が通知されたケースはそれなりにあったが、拒絶査定に至ったことは殆どなかったように思う。本規定に基づく拒絶理由は一定期間を経過すれば解消するため、出願人から上申書が提出された場合、特許庁は、当該期間の経過を待って後願の出願人に登録査定を出すことが多いからである。
  このように、本規定は、実務上は1年間商標登録を待たされるというだけで、本規定に基づく拒絶理由が通知されたからといって、通常、出願人は使用を取りやめることはない。また、前権利者の権利は既に消滅しているため、そのまま商標権の失効が確定する限り、後願の出願人は登録を待たされている間も、自己の商標を使用することは特に差し支えはないことになる。

  すると、逐条解説で説明されている「一年間程度はその商標に化体された信用が残存していて、他人がその商標の使用をすれば商品又は役務の出所の混同を招くおそれがある」という状況は、仮に、そのようなおそれを防止すべきという要請が需要者の方にあるとしても、本規定を維持するのみでは、そのおそれを回避できるものではないと思われる。前述のとおり、本規定に基づく拒絶理由が通知されても、通常、後願の出願人は使用についても1年間待つという対応をとる訳ではないからである。
  むしろ、これまでは、本規定が存在することによって、商標権失効後1年以内の期間内は、前権利者とは異なる者によって「商標登録表示」(商標法73条)が使用されることは回避されてきたという方が実態に即しているように思われる。商標登録表示は、登録を正規に受ける前に使用すれば虚偽表示となるので(商標法74条)、本規定によって1年間登録を待たされている間は使用できないからである。

 商標出願において、審査官から商標法4条1項11号に基づき先行登録商標との抵触が通知された出願人が、拒絶理由を解消するために、先の登録商標の取消し、無効、放棄などを求めることがある。しかし、これまで本規定が迅速な権利付与の障害になるケースがあった。 すなわち、審判や異議申立てによって先の登録の無効、取消の審決又は決定を得たことで商標法4条1項第11号の拒絶理由を解消したとしても、本規定により、無効審決や取消審決、取消決定が確定した日から一年間は商標登録を受けることができなかった(但し、不使用取消審判による取消審決が確定した場合は、本規定の起算日は当該審判請求の登録日とみなされるので、従前より比較的速やかに権利取得が可能であった)。また、先行登録商標の権利者との協議によって当該先行登録商標が放棄されるようになった場合についても、本規定により、放棄によって権利が消滅した日から一年間は登録を受けることができなかった。

  今般、法改正により、本規定が廃止されるため、今後は上記のようなケースで1年間待たされることはなくなり、迅速に権利付与されることが期待できる。
  なお、商標権の存続期間満了による商標権の消滅については、存続期間が満了しても商標権は直ちに消滅せず、存続期間満了後6月の更新期間内に更新登録申請がない場合に、当該商標権が存続期間満了時に遡及して消滅する(商標法20条4項)。また、更新期間経過後6月は、商標権者の責めに帰することができない理由により更新登録申請ができなかった場合には、その更新登録申請を行うことができることとされている。そのため、存続期間満了後6月とその後の不責期間の6月については、商標権が存続期間満了時にさかのぼって更新されることがあることから、過誤登録が生じないように、本規定が廃止された後も、存続期間満了後1年の経過後に商標権存続の有無を確認した上で、審査が進められるとのことである。

(H23.08作成: 弁理士 山本 進)



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